第24話 王位争い、そしてアルミナの覚悟
グルタ騎士に案内されたのは何の変哲もない宿屋の一室だった。
そこにはガンダ騎士もいた。
「クラウン!?どうして、ここに!?」
「私が連れてきたんだ。それよりアルミナ様を寝床に」
「見つかったのですか!?それはよかった」
ガンダ騎士はアルミナ様を抱えて、寝床で眠らせ、サッと容体を確認した。
「特に命に別状はありません。ただ眠っているだけみたいです」
「それはよかった」
特に問題ないことを確認した二人は安堵したのか、表情が少しだけ柔らかくなる。
相当、心配していたみたいだな。さっすが、王女様、人望が厚いな。
「それでは聞こうか、クラウン。あの場で何があったのだ」
俺は待ち伏せいたこと以外のすべてを話した。
アルミナを捕らえたバハラと交戦し、アルミナを救ったこと。
そして、捕らえようとしたのがバハラであることを。
「やはり、バハラの仕業だったか」
「アルミナ様の考えは当たっていたようです」
「うん?」
「実はな。アルミナは地下水路の件以降、ずっとバハラについて調べていたのだ。そして、ついに我々はその本拠地を特定することができたのだ」
「そ、それは本当のなのか!」
「あ、ああ本当だ」
おいおい、ちょっと待てよ。アルミナが本拠地を特定した?そんなバカな!
原作だとアルミナはバハラが用意した隠し部屋に捕らわれることになる。だが、アルミナには自分の位置を知らせる魔道具を身に着けていたため、すぐに騎士団とケインによって救出される。
しかし、アルミナは黙って救出を待つほど、弱い女の子ではない。トイレに行きたいなどの口実を付け、わざとこけたところでバハラのメンバーに接触。
その隙にバハラのメンバーに身に着けていた指輪をポケットに忍ばせる。
それは相手の位置を知らせる魔道具で、そのおかげでバハラを本拠地を特定することができ、バハラをつぶす任務が発生するんだ。
だというのに、アルミナは今ある情報と自分の力で特定したっていうのか?
「本当だったら、1週間ほど前に、冒険者を集めてバハラの本拠地に乗り込む予定だったのだが」
「アダルマイト討伐依頼が冒険者ギルドの依頼掲示板に張り出されたせいで、予定が狂ったんだ。本当にタイミングが悪い」
「なるほどな…………」
つまり、俺がいなくてもバハラ本拠地に乗り込むつもりだったと。
…………少しづつ俺の知る物語とずれてきているな。
「そうだ。まずはお礼を言わせてほしい。アルミナ様を救ってくれてありがとう」
「私からもありがとう」
「やめてくれよ、俺はたまたま救い出せただけなんだし」
「しかし、もしクラウン様が救い出してくれなければ、おそらく間に合わなかった。本当に、本当に感謝する!!」
「そんなことよりも、バハラの件だ。これからどうするつもりなんだ?」
このまま原作通り行くなら、アルミナが目覚めた後、バハラを潰しに行くんだろうけど。
もはや、それは確信できない状況にある。
最悪、俺一人で…………いくしかないが。
「それについては考えてあります」
「アルミナ様!?もうお目覚めに!」
「安静にしてください」
「そう言ってはいられません」
フラフラしながら寝床から起き上がるアルミナに、ガンダ騎士は椅子を持って座らせた。
「今回の襲撃で確信しました。おそらく、お兄様が関わっています」
「ガラム様がですが!?」
「たしかに、今は王位争いが活発になっている。ありえないことじゃない」
「つまり、バハラを雇ったのはガラム様だとでもいうのか?」
「もしくは、お兄様を経由して別の誰かに依頼をさせている可能性もありますが」
プルッセラ王国の第一王子、ガラム・プルッセラ、王位争いで最後の最後でアルミナに敗北する王子。
本来ならもう少し先でアルミナと争うことになるのだが。
やっぱり、だいぶ、原作と違うな。
「もともと、最近のお兄様の動きは不自然でした。それこそ、1週間前に冒険者ギルドに依頼したアダルマイト討伐。たまたまと思っていましたが」
「今考えれば、全部、アルミナを嵌めるための計画だったってことだな」
「クラウンくんの言う通りです」
「でしたら、すぐに陛下に報告を」
「報告したところで意味はないと思うぞ?なんせ、証拠が一切ないからな」
状況は大体把握できた。
とはいえ、現状としては詰みだ。証拠もないどころか、アルミナの誘拐に失敗したバハラはまた狙ってくるだろう。
なんせ、バハラにとって絶対に失敗できない任務だからだ。
なら、選択肢は一つだけだ。
「明日、バハラの本拠地を叩きます」
「んっ!?」
「本気ですか!!」
「おそらく、バハラはこのまま私をほってはおかないでしょう。だったら、私たち自ら乗り込み、バハラを仕切るリーダーを捕らえる。これしかありません」
覚悟を決めた表情を浮かべるアルミナ。
さすが、ヒロインの一人。逃げればいいものの、立ち向かう選択を選ぶ。
そう来なくっちゃな。
「クラウンくん、こうして頼むのもあれですが、手伝ってくれませんか。私のできることなら何でもしますから」
「まあ、俺もちょっとバハラと因縁があるしな。特別に付き合ってやる。ただし、成功したらちゃんとご褒美くれよな」
「約束します」
「私はもう止めません。ですが、戦力はどうするおつもりですか?ガラム様がかかわっているとなると、他の騎士たちを信用するのは難しいかと」
グルタ騎士団長の言う通り、どこにガラムの犬が紛れ込んでいるかわからない。
それこそ、むやみに騎士団を連れて攻め込んで、後ろから刺されるなんて、たまったもんじゃない。
「そこは安心してください。バハラの本拠地は基本、人は少ないはずです。ですから、グルタ騎士の部下をお借りできれば」
「それならお安い御用です。ガルダ、今すぐ私の部下に連絡するのだ」
「わかりました!」
ガンダはすぐに部屋を出て行った。
「クラウンくん、あなたには最も重要なことを任せたいのですが、いいですか?」
「なんだよ?」
「あなたにはバハラのリーダーと戦い、捕らえてほしい。最悪、難しければ殺しても構いません」
「俺はアルミナと知り合って1ヶ月も経っていない。それに俺は今年で13歳のおこちゃまだぞ?」
「B級冒険者になっておいて、おこちゃまは通じません。それに、あなたなら勝てると私は思っています」
アルミナからの期待の眼差しはすごくまぶしくて心地の良いものだった。
これがいわゆる求められる快感というやつなのかもしれない。
「安心してください。できる限りサポートしますし、うまくいけば全員でバハラのリーダーと戦えます。ただ、もしかすると、攻め入る途中で欠けていく可能性もあるので」
「そうだな。わかった、バハラのリーダーは俺に任せておけ」
「ありがとうございます」
最初っから戦うつもりだったけどな。
でも、こうやって頼られるのは悪くない。
「バハラの本拠地が一番手薄な時間はおそらく、夜です。夜の時間は基本、メンバーは依頼などで外に出払っているはずですから」
「となると、夜8時ごろに?」
「そうしましょう。では夜7時半ごろに南門に集合し、バハラの本拠地に向かいます。ここからはそう遠くないので30分あればたどり着けます」
バハラの本拠地は王都プリスタリアからは遠くない場所にある。
なんと南門からわずか30分。そこには廃れた遺跡があり、その地下にバハラの本拠地がある。
「そんじゃあ、各自、備えて寝ないとな。じゃあ、俺はこれで」
「ちょっと待ってください、クラウンくん」
部屋を出ようとすると、アルミナは俺の腕をガシっと掴んだ。
意外と力強いな。
「あなたとは少し二人っきりで話したいのです。グルタ騎士、すいませんが」
「わかりました。では私は先に失礼します」
アルミナの指示に従い、グルタ騎士は一足先に部屋を後にした。
そして、俺とアルミナは二人きりになったのだった。
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