第23話 待ちに待ったこのときがついに来た

 夜11時30分ごろ、俺はクララたちの脱出ルートを先回りし、待機していた。



「クックックッ、待ちに待ったこのときがついに来た」



 原作ではアルミナを捕らえた後、バハラしか知らない裏道を通り南側の門の外へ移動し、しばらく隠し部屋で待機、その後、本拠地に帰るというルート。


 本来ならバハラのメンバーしか知らない情報だが、俺は原作を知る転生者だ。


 知らないはずがないなのだ。



「まあ、別にアルミナが捕らえられる前に助け出してもいいんだが、王都内だと戦いにくいし、被害がどれだけ出るかわからない。ここは待つ吉だな」



 ついでに言うと、クララとの戦闘対策としてこの周辺にある仕掛けを施している。


 準備は万全だ。



■□■



 そして、0時ごろ、原作通り、アルミナはクララによって捕らえられ、脱出ルートを使って南側の門の外へ移動した。



「B級冒険者、クラウン・ディッチ」



 クララが俺の名前を口にしたとき、ちょっぴり意外だと、思った。


 俺の名前を覚えているとは、意外だ。



「お前たちに用はない。ただ俺が求める要求は一つだけ。アルミナを返してほしい、ただそれだけだ」


「バッツ、あなたは彼女を連れて脱出して。彼の相手は私がやるから」


「…………わかった、その指示に従おう」


「そうはさせないぞっ!」



 俺はパチッと指を鳴らすと、クララとバッツを中心に強烈な光が注がれる。



「んっ、眩しい!?」


「なんだ、この光は!?」


「光魔法、ライトだ。と言っても少し特殊なライトだがな」


「特殊だと?…………な、なんだこれは!?」



 バッツが先に気づいた。


 光を浴びた瞬間、自分の衣服も光り輝いていることに。



「俺が少しばかり改良した光魔法、ライト。色が濃ければ濃いほど光を吸収し反射する。たとえ、ここから離れたとしてもその光が俺やこれから追ってくる騎士団の目印になる。逃げても無駄だ」



 バハラのメンバーは必ず黒い衣服を身にまとう。理由は単純、夜中に動くうえでできる限り目立たないためだ。


 そこで俺が改良した光魔法ライトは相当効く。


 逃げようにもその光が敵に場所を教えし、これほど光っていれば騎士たちもここに気づくだろう。



「こいつ!!」


「…………あなた、ここを知ってた?」


「ああ、知ってた。だから、こうして待ち伏せていたんだ」



 その言葉にバッツは声を上げた。



「どういうことだ。ここはバハラのメンバーしか知らない脱出ルートなんだぞ。いや、待て。待ち伏せって、それってつまり、俺たちの依頼もしてったのか?」


「アルミナを捕らえる依頼だろ?知ってるに決まってるだろ」


「クララ、これは一大事だぞ。こんなこと、ボスに知られたら」



 クララが感じていた胸騒ぎ。それはこの状況を意味していた。


 そして、私たちにはもう逃げ場はない。


 だけど、そこでクララはある違和感に気づいた。



「おかしい。どうして、まだ騎士団がこない?」


「たしかに、もしこいつが騎士団と繋がっているなら、もう来ていてもおかしくない。つまり…………」



 いい脅し文句だと思ったんだが、気づくのが早いな。


 まあ、今回の目的はあくまでアルミナを助け出すこと。何の問題はない。



「クララ、あいつは脅しているだけだ!今すぐ、殺すぞ!!」


「…………」


「クララ、どうした!!」


「…………何を考えてるの」



 バッツの言葉を無視して、クララは俺に問いかけてきた。



「気になるのか?」


「うん」


「おい、クララ!何、吞気に話してんだ!さっさと」


「少し黙ろうか」



 俺はとっさに土魔法で鋭利な円錐状の槍を作り出し、バッツの肩に目がけて放った。



「なぁ!?」



 バッツが逃げようと抱えていたアルミナを手放すも間に合わず、肩を貫かれ、後方に吹き飛ばされた。



「いてぇ…………くぅ、クララ!こんなことをして、ただで済むと思ってるのか!ボスが、ボスが!黙っちゃいないぞ!!」


「相当痛いはずなんだが、元気だな、お前の相棒は」


「相棒じゃない」



 クララは素早く針を取り出し、バッツの首元めがけて放ち、眠らせた。



「それでえ~と、どこまで話したっけ?あ~俺が何を考えているのかって話か。それはすごく簡単な話だ」


「簡単?」


「ああ、俺は…………んっ!?」



 少し遠くから騎士団らしき声が聞こえてきた。


 想像以上に早いな。この光のせいか?


 正直、あと30分ぐらいはかかると思ったがまあ、クララとの戦闘を避けられるならいいか。



「この音…………」


「そろそろ時間だ。アルミナは返してもらうぞ」



 俺は一瞬で、縛られているアルミナのもとへ移動し、両手で抱えた。


 その瞬間をクララは捉えられなかったのか、驚きの表情を浮かべた。



「クララ、いつまで人の道具になってるつもりだ?」


「んっ!?」


「少しぐらい自分で考えて行動したほうがいい。さっきみたいにな」



 これでアルミナは回収できた。


 あとはクララがここからどう動くかだ。


 できれば、そのまま撤退してほしいんだが。



「あなたに私の何がわかるの」



 俺の改良した光魔法ライトは色が暗ければ暗いほど光り輝く。


 はずなのに、クララの周囲をまとう闇はその光すらも侵食し、包み込んでいく。


 原作でも結局、クララの周りに蔓延はびこる闇の正体は明かされない伏線になっていたけど、絶対に魔法のたぐいじゃない。


 どちらかと言えば、呪いに近い。



「撤退したか」



 クララは闇の中へと姿を消し、もう一人も気づけばいなくなっていた。


 その数分後、騎士団が現れ、なぜか剣先を向けられた。



「貴様だな!アルミナ様を誘拐した、輩は!!」


「ちょっと待ってくれ。何か誤解してないか?」


「戯言を、こいつをらえろ!!」



 マジかよ。アルミナは眠ってるし、ここはおとなしく捕まるか?


 いや、それでもし何週間も牢獄生活になったら、全部水の泡だ。



「待て!お前たち、そこで何をしているんだ!」


「ぐ、グルタ騎士団長!!先ほどアルミナ様と怪しい人物を見つけまして、おそらく今回の首謀者かと」


「…………なんだと!?ってあなたはまさかクラウン様!?」



 グルタって騎士団長なのか。知らなかった。


 でも、これは好都合だ。グルタは俺とアルミナの関係を知っている。きっと俺の言葉にも耳を傾けてくれるはずだ。


 いや、本当にラッキーだ。



「これはいったいどういう状況なのか、説明してくださいますか?」


「もちろんだ」


「とりあえず、私についてきてください。アルミナ様はこちらで預かります」


「わかった」



 俺はグルタ騎士にアルミナを預けた。



「お前たちはアルミナ様が助けたことを陛下に報告するのだ」


「しかし、この男は」


「私の知り合いだ。今回の件とは関係ないことは私が保証する」


「わ、わかりました!」


「クラウン様は私についてきてください。詳しく聞きたい」


「俺が答えられることなら何でも答えるよ」



 俺は気絶しているアルミナを抱えるグルタ騎士についていき、何の変哲もない宿屋の一室に訪れたのであった。




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