第21話 クララの仲間加入イベントに向けて、リフレッシュしよう

 バハラ、たった5年で国から脅威として見られるようになった組織。


 それを育てたのがバハラのボス、アルケット・バール・サタナ。


 バハラのボスにして、クララを育てた義理の父親だ。



「マルコのやつ、失敗したみたいだな」


「どうやら、アルミナ率いる冒険者たちの介入があったみたいです」


「アルミナ?あぁ~今回のターゲットのやつか…………まあいいさ。マルコの計画は少し無理があったしな。ちゃんと始末したよな?」


「はい、マルコが投獄された監獄の食事に毒を盛り、おそらく今ごろは」


「ならいい」



 マルコの計画はハガネを使い、王都プリスタリアを寄生された魔物で大混乱を引き起こし、王都を魔物の巣窟にするという作戦だった。


 だがこの計画には少し無理があった。そもそも王都プリスタリアには魔物が少なく、輸送しようにも簡単ではなかった。


 けどやる価値はあった。成功すれば、俺の野望がまた一歩、前進するからだ。


 だから俺はお気に入りのバルガルドがやったんだ。



「クララ…………」


「はい、ボス」


「準備は順調か?」


「はい、すでに」


「これは大きな仕事だ。失敗するなよ、クララ」



 クララに任されて依頼はプルッセラ王国、第二王女アルミナ・プルッセラの誘拐だ。


 依頼主はとある位の高い貴族で、報酬金は相当の額だ。


 今後のバハラの成長のためにもこの依頼は失敗できない。



「必ず、やり遂げます。すべてはボスのために」


「…………」



 この依頼は失敗すれば、プルッセラ王国を敵に回すことになる。いくら、バハラがここ数年で大きくなっているとはいえ、プルッセラ王国が敵となれば、ただでは済まない。


 だが、それでも俺はもう歩みを止めることはできない。


 この依頼の成功を第一歩として俺の野望はついに動き出すのだ。



「クララ、この依頼が成功すれば、俺の野望を教えてやる。誰も言ってない俺の野望をな」



 真っ暗な夜空を眺めながら、アルケットは静かにワインを口にするのだった。



■□■



 無事に大変な依頼が終わり、俺は冒険者ギルドに訪れた。


 すると。



「く、クラウンさんですよね!先日は誠で申し訳ございません。取り下げられていたはずの依頼を私の手違いで提案してしまったこと、本当にごめんなさい!」


「手違い?…………あ、地下水路のやつか」


「本当に、本当にごめんなさい!!」



 受付嬢は泣きながら何度も頭を下げた。



「そんな大声で謝るなよ。気にしてないから。それより報酬を受け取りに来たんだ」


「あ、はい!すぐに用意しますので、少々お待ちください!!」



 おかしいと思ったんだ。普通、王女様が直接依頼してくる依頼がまだ冒険者ギルドにあるなか?ってな


 まあ、別にいいだけどな。もう終わったことだし、報酬金もらえるわけで。



「こちらが、もともとの報酬金に加え、アルミナ様の上乗せ分を合わせた報酬金になります」


「き、金貨30枚………ごくり」



 前金で金貨5枚に加えて、金貨30枚、合計金貨35枚か。


 冒険者からすると、しばらく働かなくても暮らせる金額だな。


 報酬金を受け取った俺は宿に戻り。



「お嬢さん、俺と一杯どう?」



 超絶美人な青髪エルフにナンパした。


 だってここずっとリフレッシュしてないし、たまには美少女と一緒に一杯したいじゃん。



「結構です」


「そうか…………」



 ドカンっと!俺は金貨がたくさん入った袋を青髪エルフに見せる。



「ぬ、盗んできたんですか?」


「なわけないだろ。ほらここに安く泊めてもらっているわけだし、奢ってあげようかなと。それでどう?」


「ふん………今日だけ付き合ってあげてもいい」


「よっ!と危ない」



 危ない危ない。思わず、よっしゃぁぁぁっ!と目の前で叫ぶところだった。



「それじゃあ、用意してくるからちょっと待ってくれ」



 俺は部屋へと戻り、無駄な荷物を置いて下手へと戻ると。


 青髪のエルフが入り口の前に立っていた。



「準備が早いな」


「時間は無駄にしたくなので、それより早く」



■□■



 俺と青髪エルフが訪れたのは王都プリスタリアの有名店だ。



「そういえば、まだ名前聞いてないな」


「それはナンパですか?」


「だったらどうする?」


「…………帰る」


「ちょっと待った!」



 席から立ち上がり、帰ろうとする青髪エルフの腕をつかんだ。



「冗談に決まってるだろ。普通に名前を知らないのは不便だと思っただけ、ナンパじゃないから」



 まあ、下心がないかと言われれば、ないとは言えないが。


 俺の言葉に納得がいったのか、それともまだ見定めたいのか、彼女は再び席についた。


 そして



「…………ティカ。ティカ・アルケミット」


「へぇ~素敵な名前だ」


「感想は聞いてない。それよりあなたの名前は?」


「俺か?俺はクラウン・ディッチ。なんと、最年少B級冒険者!どうだ?超有望株だろ?」


「自慢しなければね」



 ティカは意外とタンパクで、冷たい。


 でもそんな風にあしらわれるのはそれはそれでいい。


 こうして、俺とティカは値段を見ずにたくさん頼み、たくさん食べた。


 そして、会計に進み。



「銀貨57枚になります」


「さすが、有名店だな」



 アルドリヒ家の屋敷にいた時だって、1日でこんなに食費はかからない。


 でもまぁ、ティカとご飯を食べれたと思えば、安いか!


 会計を終えた俺たちは一緒に宿に向かった。



「少し疑問に思っていましたが、どうして私なんかを気にかけるんですか?私といても何の得もありません」


「可愛い以外にないな。あとは気分。それと」



 イベント前の息抜きだ。


 人間だれしもストレスはたまるものだし、コンディションは整えないといけない。


 なら、大人のお店に行けばいいだって?ノンノン、それは難しい話だ。


 ここの大人のお店は普通に相場で最低金貨1枚以上、高級店になる金貨5枚上かかる。


 正直、言ってバカみたいに高い。安店を探せばあるだろうけど、そこで病気にでもかかったら、父上になんて言われるか、たまったもんじゃない。


 それに俺はまだあと2年も冒険者として生活しないといけないからそんなにお金はかけられない。


 

「変な人です」


「それで言ったらティカだって変だと思うぞ」


「どこがですか?」



 ティカはムスッとしながら睨みつけてくる。



「エルフの中でこれほどタンパクな人を俺は見たことがない」


「噓はよくないですよ。会ったことないでしょ、私以外のエルフと」



 ちゃんと見破ってきたな。


 これがエルフ族の中で一部のみが持つ噓を見抜く魔眼、精霊眼。


 ちょくちょく目が合うから、もしかしたらと思っていたが。


 まさか、こんなところで精霊眼をもつエルフと交友ができるとは、もしかしたら、今後の手助けになってくれるかもな。



「それがうわさに聞く噓を見抜く魔眼か、いや~いいものが見れたな」



 しばらく、歩いていると、ふと路地裏を覗いた。


 そこには、花を何束か持ちながらこちら側に歩く少女がいた。


 少女は路地裏から姿を見せ、俺の前で足を止めた。



「お花はいりませんか?」


「…………」



 顔はボロボロ、靴も履いていないから足も傷だらけで、花も半分枯れている。


 どういうことだ?



「その花はいくら?」


「銅貨1枚です」


「はい」



 ティカは銅貨1枚を渡し、花を受け取った。



「ありがとうございます」


「お嬢さん、お父さんとお母さんはどうした?」


「もういないよ、私一人」


「そうか…………俺も花を買おう。全部で金貨1枚でどうだ?」


「えぇ!?」



 俺はすかさず金貨1枚を渡し、花をすべて受け取った。



「い、いいんですか!?」


「ああ、だから大事に使うんだぞ」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」



 少女はお金を握りしめて、また路地裏のほうへと走っていった。



「金貨1枚…………太っ腹」


「…………なぁ、これはどういうことだ。プルッセラ王国は豊かな国だと聞いてたんだが」


「貴族社会によって築かれた王国っていうのは不幸な者がいるからこそ、幸せを得られる。それはどの国も同じで、この国も例外じゃない」


「…………なるほどな」



 プルッセラ王国は豊かな国だ。食料も豊富だし、国民たちも笑顔であふれている。だが、それは表の話。裏ではあの少女のように苦しんでいる国民もいる。


 ということだろう。



「下手なことは考えないほうがいい。私たちではどうしようもできない。できるとしたら、それこそ今この国を治める国王だけ」


「別にどうこうしようってわけじゃない。ただ…………見てて心が痛いだけだ」



 今ので、だいぶプルッセラ王国のイメージが変わったが俺には関係ない。


 そう関係ないんだ。


 そんなこともあり、ちょっと空気が重くなるも、気づけば宿に到着していた。


 ガチャっと扉を開けて中に入ると。



「ティカ、今日は付き合ってくれてありがとな。またいつか、誘うわ」



 そう言い残して、俺は階段に足をかける。


 するとティカは。



「今日はありがとう。私も少しだけ楽しかった」


「…………それならよかった」



 楽しい楽しいティカとの食事を終えて、俺は部屋に戻った。



「残り2週間…………できる限りのことはして、必ず成功させてやる」



 全ては主人公ケインの立場を奪い、ハーレムエンドを迎えるために。


 俺は、クララの仲間加入イベントが起こるまでの残り2週間、修行に打ち込むことにしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る