第20話 依頼完了、そしてアルミナの目的とは

 戦いの中で、俺たちは窮地に陥った。


 わけではなく、涼しい顔で寄生されたチュルリを戦っていた。



「な、なんなんだ!お前らはっ!!!」



 ローブを被る男は叫んだ。


 それはもう響き渡るほどに。



「ふぅ………騒がしいやつだな」



 最初は少し心配だったが、カナの広範囲の魔法に、アルミナの状況判断からの指示が適切で、着実にチュルリの数を減らしていた。


 さすが、王女様だな。でも、この数、倒しきったころには体力の限界がきそうだ。


 その前に、ハガネの頭を倒さないと。



「お前ら、その雑魚は頼んだぞ」


「んっ!?クラウンくん、勝手に!!」



 俺はアルミナの指示を無視して、ローブの男のもとへ走った。



「くぅ、近づいてくるな!!」



 寄生されたチュルリがたくさん押し寄せてくる中、手のひらを向けて。


 …………ウィンド・カット。


 無数の風の刃が的確にチュルリを切り裂く。



「無詠唱魔法だと!?くそ~、こうなったら、お前の力を思い知らせてやれ!!」



 男はハガネのあたまに指示をした。


 すると、止まっていたハガネの頭が動き出し、体液を高速¥で放ってくる。



「おっと」



 さっとよけると、体液に触れた床は蒸発するように溶けていった。


 これはまさか………。


 俺はゆっくりと視線を上げて、ハガネの頭を直視した。



「バルガルド!?」



 バルガルド、熱帯区域に生息する魔物で、なんでも溶かす体液を放つのが特徴だ。



「ハガネの頭が弱いとでも思った?バカめ!!もしもの時のための対策は完璧なんだよ!さっさと、死ねっ!!」


「…………これは倒しがいがあるな」



 俺はニヤリと笑いながら、剣を構える。


 バルガルドはなんでも溶かす体液を放つ以上、近づくのは難しい。ならば、一振りで倒すまでだ。


 誰よりも早く、防御も間に合わない、気づかれることがない最速の一振り。


 …………草薙流、じゅんの構え。


 できる限り力を抜き、立った一歩で相手の間合いを詰めて切る草薙流の構えの一つ。


 さらに、強化魔法による身体能力強化、敏捷上昇、視野角拡張を自身にかけた。



「あはははっ!あまりに強さにあきらめたか。いいだろう、そのお行儀のよさに免じて、楽に殺してやる。やれっ!バルガルドっ!!」



 その言葉を合図に。


 ドンっ!と一歩を踏み出した。


 そのタイミングを見計らって、バルガルドは大量の体液が放つが、瞬きした時にはバルガルドの視界からクラウンの姿は消えていた。



「んっ!?いったいどこに………どこにいきやがった!!」



 ローブを被る男は焦りながら叫んだ。


 本当に騒がしいやつだ。


 そして、次の瞬間。



「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


「なんだ!?なぁ!どうして、そこにいる!!」



 バルガルドは苦痛に叫びながら倒れ込んだ。



「見えなかったのか?だったら、お前、相当、目が悪いぞ?一回、医者に見てもらえ」



 俺がやったことは大したことはない。ただバルガルドの背後に回り込み、ハガネの頭を狙って切っただけだ。


 それ以外、何もしていない。


 強いて工夫したことといえば、体液を壁にして相手の視界を遮り、俺自身を見えずらくしたぐらいだ。



「く、くそ、どうして俺がこんな目に」



 ハガネの頭を倒すと周囲のチュルリもバタバタと倒れていく。


 そして俺は魔物使いのむなぐらをつかみ、ローブを脱がせた。



「さぁ、顔を見せてもらおうか!んっ!?こいつは」



 ローブを脱がしたとき、顔にある模様が刻まれていた。


 それは。



「お前、バハラの一味か!?」



 バハラのメンバーの証である刺繡だった。


 どうして、バハラのメンバーがこんなところに。というか、なんですぐばれる顔なんだよ。


 それに今の時期はアルミナを誘拐するための準備をしているはずだ。なのに、どうして。


 …………わからん。



「こ、こうなったら」



 バハラのメンバーがちらっと別の方向を見る。


 その方向にはプルッセラ王国、第二王女アルミナ・プルッセラがいた。



「死ねぇ!ぷっ!!」



 バハラのメンバーは口から鋭い何かをアルミナに向けて放った。


 それはもう一匹のハガネの頭だった。


 こいつ!?


 俺はすぐに剣を抜こうとするが。


 ダメだ。この間合いじゃ、届かない。


 アルミナは気づいていない。カナも気づいている様子はない。



「ガンドっ!!」



 俺は土魔法ガンドでアルミナの前に大きく分厚い土の壁を生成する。


 そして、その壁にハガネの頭はぶつかり、その場で踏みとどまった。



「い、一体何が…………」



 アルミナは勢いよく尻もちをつき、カナは状況がよくわからない様子のようだ。


 ふぅ、間に合った。


 咄嗟に土魔法ガンドで壁を生成し、アルミナを守る。貫かれたらどうしようかとも思ったが、こればかりは運がよかった。



「くそっ!よくも、よくもよくもよくも!俺の邪魔をしやがって!こんなことをして、俺たちのボスが黙っちゃいないからな!ビクビク怯えながら、せいぜいのうのうと生きていくといいさ!!」


「黙れよ、ゴミが」



 ガンっ!と。


 俺は容赦なくバハラのメンバーの頭を踏みつけた。



「一体、何があったんですか?」



 俺はアルミナがさっき起こったことをそのまま伝えた。



「そうですか、ではまず、ありがとうございます。助かりました」


「本当、盛大に感謝してほしいが、そんなことより早くこいつをつれて外に出よう。ここにいると気分が悪い」


「クラウンさんの言う通り、そろそろ外の新鮮な空気を吸いたいです!!」


「わかりました。では、朗報をもって帰りましょう」



 俺たちは無事に地下水路から脱出し、グルタとガンダに朗報を届けることができた。



「これで依頼は完了です。クラウンくん、カナ、ありがとうございます」


「アルミナちゃん、頭を上げてよ」


「元をたどれば、私のわがまま。頭を下げるのは当然のことです」



 全くもってその通りだ。


 俺だって弱みさえ握られていなければ、わざわざ手伝わない。


 でもまあ、いい経験にはなったな。うん、それにこれでアルミナに対する好感度も上がったと思うし。


 なんせ、命の恩人だからな。



「明日、冒険者ギルドによってください。冒険者カードを出せば、報酬金が出るはずです」


「やったー!クラウンさん、報酬金ですよ!!」


「興奮するな。あと抱き着くな、当たってるぞ。何とはいわんが」


「え~当ててるんですけど」



 カナの猛アタックはすごく嬉しい。なんなら、今すぐにでも、と思うがまだその時ではない。


 なぜなら、俺の目的はハーレムエンドによる酒池肉林三昧生活だ。


 一人の女の子を愛すことは俺にはできない。


 ここは我慢だ。我慢しろ、俺!そして息子よ!!



「クラウンくん、脅してごめんなさい」



 頭を下げて謝るアルミナ。



「私にはどうしても実績が必要だったんです。私が…………」


「まあ、あれだ。人を巻き込むのはまた一つの力だし、それに俺としてもいい経験ができたから、ウィンウィンってことで。そんじゃあ、俺は帰るから」


「はい、本当にありがとうございます」



 俺は踵を返し、帰ろうとしたところで。



「クラウンさん!!」



 カナに呼び止められた。



「私、クラウンさんと一緒に戦って実感しました。私はまだまだクラウンさんの役に立てないって。だから、もっと修行して強くなってクラウンさんの隣に立てるよう、頑張りますから!」


「お、おう、頑張れよ」


「はいっ!それではまた会いましょう!」



 そう言ってカナは俺と反対方向へと走っていったのだった。



■□■



「アルミナ様、どうでしたか?」


「ええ、文句がないほどの実力でした」


「では、彼らを?」


「まだです。まだその時期じゃありません。ひとまず、今回は気軽に会話ができる関係ができれば」



 アルミナの真の目的は信頼でき、かつ実力のある者を自分の陣営に引き入れることだった。


 そして、今回、目を付けたのがカナ・カミラと。


 最年少でB級冒険者になった、クラウン・


 どうしてアルドリヒ家の人間が平民を装って冒険者をやっているのかは分からないけど、そんなことはどうでもいい。



「全ては私が王になるために。そして、民が幸せに暮らせる楽園を築くために」



 プルッセラ王国、第二王女アルミナ・プルッセラは本気で王位を狙っていた。


 それは民が飢え死にすることなく幸せに暮らせる楽園を築くため。



「このガンダ、どこまでもアルミナ様についてきます」


「私もです、アルミナ様」


「ありがとう」



 ふと、空を見上げた。


 夕日が沈み、暗くなっていく様子はなぜか、私の心を落ち着かせてくれる。


 クラウン・アルドリヒ…………クラウンくん。


 クラウンくんに助けられたとき、何が起こったのか、一瞬わからなかった。


 でも騎士以外の人に助けられるのは初めてで、少しだけドキッとしてしまった。



「…………不思議な感じ」



 この時、アルミナの心臓は静かに、でも強く脈打っていたのだった。

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