第18話 チュルリ増殖の謎、そしてアルミナのカリスマ性
チュルリという魔物は大きくても男の手のひらサイズぐらいのサイズなのだが。
今、俺たちの目の前に立ちふさがるのは、地下水路の道を塞ぐほど大きいなチュルリだった。
「どうしますか、アルミナ様?」
「…………ここで倒せるのなら倒しましょう。クラウンくん、カナさん、お願いしてもいいですか?」
「任せて、もっとクラウンさんに私が活躍するところ見てもらいたいし」
「…………ふん」
「クラウンさん?」
普通に見るなら、チュルリの個体の中からたまたま大きく成長した変異種的な感じになるんだろうけど、でもそんな設定を俺は知らない。
なんか変だ。すごく変だ。こいつは本当にチュルリなのか?
ずっと疑問に思っていた。
チュルリにしては多すぎる数に加え、ここまで来る中で殺してきたチュルリは群れで動いているというよりもただ的に向かって突進して来るような動きで。
とてもチュルリの動きには見えなかった。
まるで、チュルリの皮をかぶった別の魔物のような。
…………ダメだ。考えてもわからん。とりあえず、目の前のチュルリを殺せば何かわかるかも。
「全員どいてくれ。俺がやる」
俺は剣を引き抜きながら、大きなチュルリの前に立った。
大きなチュルリは後ろを向いていて、まだこちらに気づいていないようだ。
「気づかないか。なら遠慮なく」
俺は闘気を剣に乗せ、ただ垂直に振り下ろす。
すると、大きなチュルリは簡単に切り裂かれ、壁にぶつかりながら倒れ込んだ。
「この感触、やっぱり、ただのチュルリじゃないな」
「それはどういう意味ですか?」
「よく見ろ」
倒れた大きなチュルリ。
切り裂かれたはずなのに血を流さず、中から棒状の何かが飛び出し、バタッと倒れた。
「これは一体………」
「ハガネだ」
「ハガネ?」
「はい!はい!クラウンさん、私知ってます!魔物に寄生して操り、増殖する魔物ですよね!」
「よく知ってるな」
「勉強しました!えっへん!!」
カナの言う通りで、魔物に寄生し増殖する魔物。それがハガネだ。
しかも、寄生されたチュルリ同士が交尾することで、寄生されたチュルリとハガネの繫殖を同時にできるため、無限に増殖もできてしまう。
おそらく、チュルリの増加もそれによるものだろう。
しかも、この魔物は物語の中盤ボスである俺が主人公であるケインの仲間の絆を切り裂くために使った最悪な魔物としても記憶に濃く残っている。
あ~思い出すだけでも嫌になる。
あの展開はマジで最悪で俺自身もクラウンを殺したくなるほどだ。
「でもハガネは本来、池や湖に生息する魔物のはずなんだが、どうして地下水路に」
ハガネは池や湖に生息している魔物だ。
プルッセラ王国の王都プリスタリアの周りにそんな場所はない。
つまり、本来なら生息しているはずのない魔物なんだ。
「そんな魔物がいるということは、つまり、ハガネという魔物がチュルリに寄生し、増殖していると?」
「そういうことだ。だが、そうと分かれば、倒すのは簡単だ。ハガネには親という命令を送る
「ここら一帯にいるチュルリを倒せるということだな」
とはいえハガネの頭を見つけ出すのは難しい。
見た目じゃ、わからないし、ハガネの頭もまた魔物に寄生するからだ。
「…………もし、その魔物に自分の身を守る思考力があるのなら、一か所だけハガネの頭がいる場所に心当たりがある。地下水路の最奥にある大きな空間だ。そこは滅多に人が立ち寄りませんし、身を隠すにはちょうどいいと思いかと」
ガンダがこの発言を聞き、アルミナは決断を下した。
「なら、そこに向かい、ハガネの頭を倒しましょう」
「ちょっと待ってください、アルミナ様。さすがに人数が少なすぎるのでは?原因が分かったのなら一度、陛下に報告し、増援を」
グルタは冷静に増援をアルミナに呼びかけるが。
「クラウンくん、あなたならどうしますか?」
クラウンのほうへと振り向き、アルミナは問いかけた。
俺に聞くのかよ。と思いつつも、ハッキリと答えた。
「もちろん、このままハガネの頭を倒しに行くに決まってるだろ」
「わ、私もクラウンさんと同じ意見です!!」
この増殖の感覚からだとあと2週間後ぐらいには地下水路からあふれ始める。それに数が増えれば増えるほど、チュルリの頭を見つけることも、近づくことも難しくなり。
いずれ地下水路からあふれ出すことになるだろう。
そうなってしまえば、クララの仲間加イベントどころの騒ぎじゃない。これは絶対に止めるべきだ。
そうすべては俺のために。
「クラウンくんならそういうと思いました。ガンダ、グルタ、これは王女の命令です。私たちはクラウン、カナと共にハガネの頭を討伐します!」
「「はっ!!」」
アルミナの言葉にガンダとグルタは腹をくくる。
そんな彼女を見て俺は思った。
彼女には周りを惹きつけ、勇気を与えるカリスマ性がある。まさしく、王の中の王、いや王の器とでも言おうか。
彼女の言葉には力強さがあり、自然とできるのでは?と思わせられる。
生声ってやっぱりいいなぁ~と思うのだった。
「それでは行きましょう、地下水路の最奥に」
「私、頑張りますから!クラウンさんっ!!」
「張り切りすぎるなよ」
なぜ、チュルリが増殖したのか、その原因は分かった。
でもまだわからないことがある。
それは生息していないはずのハガネがどうして、王都プリスタリアの地下水路にいたのか。
考えられるのなら、誰かが意図的にハガネを地下水路に放った、ぐらいだろう。
そこら辺をアルミナがどう考えているのか、少し気になる。
「………私の顔に何かついていますか?」
「いや、何もついてないぞ」
「ならじっと見つめるのはやめてください。恥ずかしいので」
「王女様なんだから、見られるなんて日常茶飯事だろ?」
「そうですけど…………でもやめてください」
頬をすこし赤らめるアルミナ。
さっきのカリスマ性に溢れるアルミナはどこへやら。でもかわいい。
うん?もしかして、これがギャップ萌え、というやつか?
「クラウンさん!あんな人より私の顔を見てください!」
「王女様に対してあんな人呼ばわりかよ」
そんな感じで俺たちは地下水路の奥へと向かったのだった。
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