第17話 約1年後の再会、C級冒険者カナ・カミラ

 早速、プリスタリアの地下水路に向かうことになった俺だが、アルミナと話していく中で依頼を受けていたことを知る。



「まさか、あの依頼を受ける冒険者がいるなんて、さすが最年少でB級に上がった冒険者です」


「はいはい、そうですね」



 あの受付嬢、手ごろな依頼で頼んだはずなのに。


 まあ、どちらにせよ逃げ場はなかったわけだし、恨むのはなんか違うか。でも、次あったら、問いただしてやる!!


 アルミナと騎士二人についていく中、路地裏が何回か曲がっていくうちに徐々に周りが暗く、人気がなくなっていく。


 そして、ついに地下水路の入り口に到着する。


 そこには警備の騎士が二人おり、入り口も鉄扉でガチガチになっていた。



「ここは」


「北の地下水路の入り口で、ここでもう一人、冒険者を待ちます」


「もう一人?」


「ええ、クラウンくんと同じようにたった1年でC級冒険者まで上り詰めた魔法使いがここに来ます」



 たった1年でC級冒険者?しかも、魔法使いっていったい誰だろう。


 これといって思い当たる人物はいないが。


 まあ、誰もいいか。


 俺たちはもう一人の冒険者が来るまで静かに待った。


 そして。



「す、すいません!お待たせしました!!」


「来たみたいです」



 やっと、来たか。


 長く待たされ、ため息を漏らす俺はゆっくりと立ち上がり、声のほうへと体を向け、視線を上げる。



「ごめんなさい。少し、用事で手間取ってしまって」


「いえ、問題ありませんよ。まだ時間はたっぷりありますから。彼女の名前カナ・カミラ。お伝えした通りはたった1年でC級冒険者まで上り詰めた魔法使いです…………クラウンくん?」


「な、あ………お前は」


「あ、も、もしかして!?クラウンさんですか!!」



 肩まで伸びるショートカットの白い髪をなびかせる女の子。


 その姿、容姿は昔、カルト村でいじめられていたヒロインの一人。


 カナ・カミラ、本人だった。



「まさか、こんなところで出会えるなんて、なんだか、運命みたいですねっ!!」



 と感動の再会のような感じで両手で俺の手を握り締めてくる。


 どうして、ここにケインの幼馴染のカナがいるんだよ。というか、どうして冒険者に!?そんな設定、俺は知らないぞ!!


 そうだ、カナ・カミラは唯一、村人ヒロインの立ち位置で基本的に戦いには参加せず、最後の最後、寂しくなってケインを襲い、ハーレムの一員になる幼馴染ヒロインのはずだ。


 なのにどうして…………。



「まさか、お知り合いだったんですか。それは好都合です」


「何が好都合なのか、聞きたいところだが、その前に、ちょっとこいつと話してくる」


「構いません、どうぞゆっくり」



 俺はカナの手を引っ張り、アルミナと距離を離した。



「クラウンさん、距離が近いです」


「そんなことはどうでもいい」



 このままじゃあ、まずい。だってカナは知っているはずだ。俺がアルドリヒ家の人間であることを。


 まあ、アルミナは知っている可能性はあるが、それはフェイクである可能性がある。念には念だ。



「いいか、カナ。よく聞け」


「私の名前を、しかも呼び捨て!?」


「お前ってそんなキャラだっけ、まあいいや。それより!俺のことだ。俺がアルドリヒ家の人間であることは、絶対に秘密にしろ!」


「…………状況がよくわかりませんがわかりました!私とクラウンさん、二人だけの秘密ですね!」


「なんか、言い方があれだな…………」



 でも、二人だけの秘密か…………悪くはない。


 ちょっといいかもと要因に浸るがすぐに我に返り。



「とにかく、絶対に秘密だぞ、いいな!」


「はいっ!」



 話を終えると俺たちはアルミナたちのもとへと戻った。



「話は終わりましたか?」


「なにか、悪いことでも企んでいたわけではないよな?」



 ガンダと名乗る騎士が睨みつける。



「なわけないだろ。さすがに、なぁ?」


「はいっ!そんなこと絶対にありません!!」


「それでは、全員揃ったので行きましょう。プリスタリアの地下水路へ」



■□■



 地下水路に入り、しばらく前に進んでいると20匹ほどのチュルリの群れるを見つける。


 すると、不自然にチュルリは俺たちに向かって突進してくる。


 そこを。



「クラウンさん、見ててください。私はもうあの時のようないじめられっ子じゃありませんから!! 



 ただのその一言を唱えるとカナの手から荒々しい炎が燃え盛り、一瞬にしてュルリの群れを消し炭にした。


 まさか、今のは炎魔法グランド・フレイム?しかも、ただの詠唱じゃなくて、オリジナルの短文詠唱?


 驚くのも無理はない。


 本来魔法とは詠唱することで魔法を起動させるもので、短文詠唱だけでも習得にすごく時間がかかる高等技術。


 俺は転生者で、幼いころから修行していたから無詠唱まで習得できたが、カナは違う。


 幼いころから魔法の修行をしているわけでもなければ、生活環境が良かったわけでも、転生者なわけでもない。


 そんな彼女が高等技術の一つである短文詠唱に加え、本来の炎魔法グランド・フレイムを放つたまの詠唱ではなく、自分のイメージに合わせた詠唱に変化している。


 このままいけば、無詠唱を習得するのもそう遠くないだろう。



「どうですか、クラウンさん! 私、たくさん頑張って、こんなに強くなりました!!」



 1年前に助けた時には見せなかった満遍な笑顔はすごく明るくて、まさしくヒロインだった。


 ま、眩しい………けど、めっちゃ可愛い。



「クラウンさん!」


「なんだよ」



 カナは頭を俺のほうに向ける。


 まるで、頭を撫でてほしいかのように。


 まさか、撫でろと!?いいんですか!!


 今までの人生、女性と触れ合った機会は少なく、それこそここ最近だとトゥルがぐらいしかいない。


 そんな俺が女の子の頭を撫でる!?


 もしかして、今日が俺の命日なのか。



「…………はぁ」


「えへへ」



 俺は何も言わずにカナの頭を撫でると、横からアルミナが口をはさんだ。



「いちゃつくのはいいですが、できれば場所は選んでください」


「いちゃついてねぇよ。…………なんなら、アルミナの頭を撫でてやろうか?」


「んっ!?け、結構です」


「冗談に決まってるだろ」



 とはいえ、まさか本当に女の子の頭をなでることができるとは。


 しばらく、洗わなくても…………いや、さすがに洗おう。



「…………ふん」


「アルミナ様、どうかされましたかな?」


「いえ、なんでもありません。ではみなさん、先に進みましょう」



 俺とカナを先頭にチュルリを倒しながら前に進んでいく。


 すると。



「これは………」


「こんな大きなチュルリ、初めて見ました」


「俺もだ」



 ひときわ大きなチュルリが俺たちの前に立ちふさがったのだった。




 

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