第16話 アルミナからは逃げられない
手ごろな宿を探しに王都プリスタリアを回った。
どこを見ても賑やかで、日が沈み始めるとお店が少しずつ閉まっていく中、パッと目に止まる宿屋を見つける。
それは周りの雰囲気からして場違いな薄汚い宿屋で、どう見ても周りの雰囲気になじめていない。だがそんな不気味な雰囲気に魅力を感じた。
「よし!ここにしよう!!」
俺はバンっ!と扉を開けた。
「…………お客さん?」
「ほほ、これは意外だ」
こういう宿屋って普通、いかついゴリラみたいな男が受付をやっているものだろ?でも、実際は超絶美人な青髪エルフが受付をやっているではないですか。
これは当たりを引いたな。
俺は少し上機嫌になりながら、受付の前に立った。
「もちろんだ。それで部屋は空いてるか?」
「むしろ、空いてないと思いますか?」
「それを自分では言うのは寂しくないか?そうだ、この後一緒にご飯なんて、どう?おごるから」
「結構です」
やっぱり、エルフはガードが固いんだな。
それはそれですごく魅力的だ。
あ~もし俺がここに旅行で来ていたら、もうちょっとアタックするんだけどな。
「はい、これがカギです。一泊、銅貨2枚ね」
「冷たいな~。まあいいけど。はい」
俺はサッと銅貨2枚を渡し、二階に上がったのだった。
一泊、銅貨2枚。王都プリスタリアの物価を考えるとすごく安いが、部屋を見ると。
「最低限のベットと机と椅子か。…………田舎でもこんな宿はなかなかないぞ。まあ、これはこれで味があっていいけど」
俺は一通り部屋を探索した後、ベットの上に座り、右手に顎を当てた。
「さて、これからどうするか」
依頼はこなすとして、できればアルミナには接触しないようにしたい。
というのも、そもそもの予定はクララに誘拐されるところを助け出す、という場面で初対面するつもりだったが、まさかの冒険者ギルドで会ってしまうという展開に。
おかげで無駄に詮索され、怪しまれる始末だ。
「きっと気づいているんだろうな。俺が貴族だって…………」
俺がアルドリヒ家の人間だと気づかれるのは時間の問題だと考えていいだろう。
となると俺がとるべき行動は一つ。
「とにかく、イベントが発生する日まで大人しく依頼をこなして、過ごそう」
これが失敗すれば、俺は主人公から立場を奪う機会を一つ失うことになる。それどころか、主人公からクララを奪われることに。
それだけは絶対に許されない。
ハーレムエンドを迎えるのは、俺だっ!!
こうして、クラウンは明日の依頼に向けて、早めに寝たのだった。
■□■
晴天に輝く空を目覚ましにして起きたクラウンは準備をして、下に降りるとエルフ美少女が受付におり、その奥で。
「おはようございます、クラウンくん」
「…………王女様?」
「アルミナと呼んでいただいて結構です」
俺は何度も目をこすり、目の前の彼女を直視するが、幻ではない。
いやいやっ!なんでこんなところにアルミナがいるんだよ!!というか、今俺のことくん付けした?したよねぇ、絶対に!
そう目の前にいるのは優雅に朝から茶を楽しんでいるプルッセラ王国、第二王女アルミナ・プルッセラ張本人だった。
しかも、騎士まで連れてだ。
やっぱり、目をつけられていたのか?
「どうして、こんなところに朝っぱらから。というかどうして、くんづけ?」
「いいではないですか、それより今日はクラウンくんとお話に来たのです。さぁ、私の向かい側に」
俺はちらっと騎士のほうを見ると、早く座れよ平民、と圧をかけられる。
ここは大人しく従うか。
「それで話ってなんだよ」
アルミナのことだ。きっと俺の正体についての言及だろう。
それ以外に考えられない。
俺は少し身構えた。
「そう警戒しないでください」
「警戒しないほうが無理があるだろ?相手は王女様なわけだし」
「そうですか………」
しゅんっとアルミナが分かりやすく気を落とした。
なんで、そんな悲しそうな顔するんだよ。
やりにくいな。本当にあのアルミナ・プルッセラか?
「それより早く本題に入ってくれ。こっちは用事が盛沢山なんだ」
用事なんて一件の依頼しかないけどな。
アルミナは首を横に振り、再びこちらを見つめた。
「実はB級冒険者であるクラウンくんに手伝ってほしい依頼があるのです」
「なんだよ、それは」
「ここ最近、王都プリスタリアの地下水路に大量のチュルリが発生しまして、冒険者ギルドに依頼を出すも、誰も引き受けてもらえず、そこでクラウンくんにそのお手伝いをしてもらいたいのです」
「…………」
それってもしかして、昨日、引き受けた依頼のことじゃないよな?
俺は嫌な予感がした。
「もし、引き受けてもらえるのなら前金、金貨5枚、成功すればさらに金貨10枚支払います」
「き、金貨10枚?それは魅力的だな」
金貨10枚ぃぃぃぃ!?しかも、前金でも金貨5枚って最低でも2年は何もしなくても暮らせるぞ。
さすがに、怪しすぎるんだけど。
「ついでに数は?」
「約500匹程」
「…………な、なるほどな」
無理だな。
この話が終わったら、今すぐ、冒険者ギルドに寄って依頼を取り下げよう。
だって500匹だよ?いくら俺でもさすがに無理だ。でもチュルリってそんな大量に繫殖する魔物だったか?
設定だと多くても100匹とかだったような気がするが。
考えられるとしたら、各地のチュルリがたまたま王都プリスタリアの地下水路に集まって、繫殖したってぐらいだ。
まあ、理由はともかく、丁重にお断りしよう。
「もし、クラウンくんがこの依頼を断るのなら…………ばらしますよ?」
「んっ!?」
今、ばらすって言ったか?
まさか、俺の正体に気づいて…………いや、まだ判断には早い。
震える手を、動揺して動きそうな表情筋を闘気を使って力づくで抑え込みながら。
「何をばらすんだよ。お前は俺の何を知ってるんだ?」
「貴様!アルミナ様の前で無礼だぞ!」
「ガンダ騎士、口を閉じなさい」
「も、申し訳ございません」
「クラウンくん、何をということに関しては、あなたが一番よく知っているのでは?それとも、今ここでばらしてもいいのですか?」
これは罠だ。半分ぐらいの確率で噓の可能性がある。
だが、アルミナの目。真っ直ぐで芯があって、自信に満ち溢れている。
…………いいだろう。ここは乗ってやるよ、アルミナ。
「わかった。その依頼、引き受けてやる」
「それはよかったです。それでは移動しましょう」
「どこにだよ」
「もちろん、プリスタリアの地下水路にです」
え、もしかして、もう行くんですか?
こうして、俺たちはアルミナの指示のもと、プリスタリアの地下水路に向かったのだった。
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