第14話 チンピラをわからせてみた

 タルタ町から出発して、1週間が経った。


 その道のりは険しく、冒険者らしい冒険を経験した。


 時には盗賊を退治したり、ある日は怪我をしたおじいちゃんを助けたりと、どうして俺がこんなことを?と思いながら、善行を積んだ。


 これもすべて、俺の計画が成功する確率を上げるため。


 ほら、言うだろ?善行を積めば、報われるって。


 そんなことをしつつ、ついに目的地であるプルッセラ王国の王都プリスタリアに到着した。



「ここがプルッセラ王国の王都プリスタリアか」



 門を通った先はたくさんの人々で賑わい、どこを見ても笑顔で溢れていた。


 そのたみの雰囲気からこの国がどれだけ豊かなのかわかる。


 さすが、プルッセラ王国の王都プリスタリア。原作の中でも一二いちにを争うほどの豊かな国だと表現されていただけあるな。



「さて、まずは冒険者ギルドに向かうか。まだ2週間ぐらい時間に余裕があるし」



 俺は王都プリスタリアにある冒険者ギルドに訪れた。



「お手頃な依頼はあるか?」



 受付の前に立ち、冒険者カードを見せながら、尋ねた。



「え~と、び、B級冒険者!?え、本物?」


「疑ってどうするんだよ」


「でも、え…………え?」



 どうやら、俺の年齢に対して冒険者のランクが高くて驚いているようだ。


 まあ、悪くはないな。実際に12歳の子供がB級冒険者まで上り詰めたのは俺がはつなわけだし。



「早くしてくれ」


「わ、わかりました。少々お待ちください!!」



 さて、この待ち時間をどう過ごすかな。


 王都プリスタリアの冒険者ギルドをサラッと見渡していると、3人組の冒険者がこちらに近づいてくる。


 なんか、めんどくさそうなチンピラが来たぞ。



「おいおい、みねぇ顔だな?新入り冒険者かぁ、あぁ?」



 なんだだろう、このラノベに出てくる展開。こういうのは普通、主人公にやるイベントだろうが。


 …………いや、これはむしろいいのでは?だってこの状況、まるで俺が主人公みたいで。


 頭の中でどう動くのがベストなのか考えた。


 そして。


 いいだろう。ここは乗ってやるとしよう。



「そうなんですよ~~ちょうど今日、来たばかりで、あはははっ」


「そうかそうか。それじゃあ、俺たちが教えてやるよ。一緒にパーティー組もうぜ、ガキんちょ」



 あ~これ、完全に見下してるな。


 目を見ればわかるし、態度から見ても明らかだ。


 ここはひとつ、俺の実力をわからせるか。



「それはありがたいですが、どうせなら美少女と一緒にパーティーを組みたいので遠慮しておきます」


「あ?俺様がせっかく、ガキんちょにとって光栄な提案をしてるってのに断るってのか?」


「そんなことを言われても、そもそも名前も知らないわけですし」


「俺様はダック!ここいらじゃあ、有名なC級冒険者だ!! どうだ? すごいだろ?」



 C級冒険者?


 それで威張るか、普通?



「ぷぅっくぅっ」



 思わず、笑い声が漏れた。



「おい、今、笑ったか?なぁ、笑ったよな!おいっ!!」



 と言って俺の胸ぐらを掴み、顔を近づけてくる。


 しまった、つい笑いがこらえられなかった。でもまあ、ちょうどいいか。



「笑ってませんよ、言いがかりだな~」


「俺が噓をついたって言いたいのか!!」


「そうでしょ」


「このガキんちょ、下手に出ればいい気になりやがって!!」



 どこをどう見ても、下手に出てなかっただろ。



「そもそも、有名な冒険者ならもう少し品性を重んじたほうがいいのでは?そこまで声を張ってしゃべっていると、虚勢きょせいを張っているように見えますよ?」


「死ねや、ガキんちょっ!!」



 ついにブチぎれたダックは拳を上げ、俺の腹にめがけてストレートパンチをくらわし、俺を冒険者ギルドの入り口まで吹き飛ばした。


 その光景に周りの冒険者たちはざわめき始める。



「なんだなんだ?」

「またダックか?」

「あいつ、懲りないなぁ~」

「あの子、大丈夫かしら?」



 吹き飛ばされた俺はゆっくりと立ち上がり、ダックのほうへと視線を向ける。


 殴ったな?たしかに、あいつから殴ったよな?つまり、今からすることはすべて正当防衛。


 だよなぁ?



「俺を怒らせたのが悪いんだぞ、ガキんちょ」


「そうだな。でもさぁ、先に手を出したら、ダメだろ」



 ギロッと目を合わせると、ダックとそのチンピラは体を震わせた。


 そして、俺はゆっくりと彼らに近づく。



「ま、まだこりてねぇみたいだな。お前ら、俺たちを馬鹿にしたことを後悔させてやれ!」



 チンピラたちは俺に向かって殴りかかってくる。


 遅いんだよな。


 俺は足に闘気を乗せ、真正面から向かってくるチンピラの横を潜り抜け、ダックの目の前まで近づいた。



「なぁ!?いつの間に?」


「これはさっき殴られた分だっ!!」


「ぐへぇ!?」



 綺麗なストレートパンチがダックの腹をえぐった。


 見た目のわりに、柔らかい。本当に鍛えてるのか?いや、闘気を扱えるようになったから、全体的に力が上がってるのか。


 改めて、闘気の力を実感した俺は、腹を抑え苦しそうに膝をつくダックの姿を見下ろしながら。



「どうだ?殴られた気分は?って喋る余裕もないか」



 そんな様子にチンピラたちは俺を無視してすぐにダックのもとへ駆け寄った。



「ダック!大丈夫か?」


「お前、ダックさんにこんなことをしてただで済むと思ってるのか!!」


「先に仕掛けてきたのはそっちだし、俺はただ正当防衛をしただけだ。それに、こんなことをしてって、それ、お前らに言える?むしろ、お前たちは身の安全を心配したほうがいいと思うぞ?」


「なんだと!!」


「だって、この場にはたくさんの冒険者がいる。そして、そのみんながこの場を見ていた。一体だれが、お前らの味方になってくれるんだろうな?」



 チンピラたちの顔色はドンドン青ざめていく。


 あ~気持ちいい。これだよ、これ。



「あ、あのいったい何があったんでしょうか?」



 戻ってきた受付嬢はその場を見て困惑する。



「ちょっとじゃれあってただけだ。そうだよな?」


「くぅ…………ああ、こいつの言うとおりだ」


「ほら、だから気にしなくていい。それより、お手頃な依頼は?」


「あ、はい!こちらなんてどうでしょうか?」



 提案してきた依頼は王都プリスタリアの地下水路に生息する魔物チュルリの討伐だった。


 期間は1週間で比較的ゆっくりできる依頼だ。


 少し気がかりなのは、紙質が少しボロボロで、古そうなことぐらいだ。



「チュルリか…………」



 チュルリは汚い川や池に生息する群れる魔物。一匹は全然弱いが群れると強く厄介だ。


 この依頼に少し嫌な何かを感じるが、まあ1週間もあるし、大丈夫か。



「これにする」


「あ、ありがとうございます!それでは受諾した証明書になりますので、終わりましたら、また冒険者ギルドにお越しください」


「わかった」



 さすが、王都の冒険者ギルドだ。


 こういった証明書があるとは、田舎の冒険者ギルドとは大違いだ。


 手続きを終えた俺は再びダックとチンピラたちの前に立った。



「おい、お前ら喧嘩を売る相手はちゃんと選べよな」



 そうチンピラたちとダックに言い残して、俺は横を通り過ぎた。


 そして冒険者ギルドを去ろうとした、その時。


 ガチャっと冒険者ギルドの扉が開く。



「ここで騒ぎがあると聞き、来ました」



 俺は声が聞こえるほうへと視線を移した時、思わず目を見開いた。


 おいおい、噓だろ。



「私はプルッセラ王国、第二王女アルミナ・プルッセラ。今すぐ、関係者は私の前に来てください」



 

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