第13話 トゥルとの最後の修行、そして次の目的地へ
タルタ町でトゥルと修行をして、3か月が過ぎた。
「これで最後だが、どうだ?」
「はぁ、はぁ、はぁ…………どうって未だにトゥルとの実力差は埋まらないな~って絶望してる」
「噓をつけ。そんな顔してないぞ」
「噓じゃない。実際、初めて会った頃のトゥルとの印象は大きく変わったからな」
トゥルとの修業は過酷なものだった。
闘気の扱い方を学ぶために、毎日、闘気を乗せて剣を振り、食事は最低限。最初の一か月はそんな日々を送った。
その結果として、俺は闘気の支配に成功した。
本来なら、ここで終わるはずだったのだが、トゥルがどうせならと、剣術を教えようかと提案してきた。
俺はもちろん、ほかにやることがあるため、少し悩んだ。
だが、考えてみれば、クララの仲間加入イベントまでまだ時間がある。ならば、残りの期間、トゥルに修行をつけてもらえるのなら。
引き受けるべきだ。
といった感じで、修業期間が3か月まで延び、現在に至る。
「私の流派は草薙流、このひと振りは全てを薙ぎ払い、滅ぼすために。クラウン、この2か月間で私はお前に最低限の技を叩き込んだ。そして、そのすべてを短期間で物にした。後は」
「自分次第だろ?わかってるよ」
「ならいい。それじゃあ、最後のご飯にしよう」
「そうだな」
トゥルとはこの3か月でかなり仲良くなった。
冒険者のランクもC級からB級に上がり、最年少B級冒険者となった。
おかげで一躍有名人。かわいい女の子がわんさかと俺のもとへと集まったのだが、トゥルの獣のような瞳に全身逃げてしまった。
あの時はさすがにぶち殺してやろうとかと思った。
そんなこともあったが、それでもトゥルとの修行の日々は何物にも変えられないものだった。
「ぷはぁ!うまい!あとは両手に花があれば、最高なんだけどな~~」
「下品なこと言うな」
「トゥル、俺のことはよく知ってるだろ?俺はな~年相応の思春期なんだ!わかるか!!」
「はぁ~酒を飲ませるのはやはり、失敗だったか」
最後の日ということでトゥルのおごりで酒を浴びるように飲むクラウン。本来なら俺の年では飲めないが、ここはタルタ町。
言ってしまえば、田舎だ。
年齢を気にする人なんていない。
「飲むぞ!トゥル!今日はたくさん飲んで、パーティーだ!!」
そんな感じで、最後の1日をトゥルと一緒に過ごしたのだった。
■□■
夜が更け、俺とトゥルは森の中へと足を踏み入れ、開けた場所に出た。
そこはきれいな夜空が広がっていて、俺とトゥルは目を奪われた。
それほどまでに夜空はきれいだったのだ。
「今日で最後だな、トゥル。今思い返せば、この出会いは運命だったのかもな」
「気持ち悪いことを言うな。まだ酔ってるのか?」
「本音なんだが、でもおかげで強くなれた。…………次はどこに向かうんだ?」
「ここから北にある極寒地帯。そこにある雪国に向かうつもりだ」
雪国といえば、タラッパ王国だな。
あそこは環境が最悪で、住んでいる人はその地域に住んでいる民族が多いって設定だったけ。
「クラウンは?」
「俺はもちろん、東南にあるプルッセラ王国の王都プリスタリアに行くつもりだ」
プルッセラ王国の王都プリスタリア、そこで俺の目的であるクララの仲間介入イベントが起こる場所。
そこで俺はプルッセラ王国の第二王女、アルミナ・プルッセラを助け出し、そしてクララを仲間にして、バハラのボスを倒す。
これを無事に成功させれば、確実に主人公から立場を奪えるはずだ。
そのために俺はトゥルとの修業に明け暮れたんだから。
「あそこか。いいところを選んだな」
「だろ~。俺ってセンスがいいんだよな~~あはははっ!!」
しばらく、きれいな夜空を見上げた後、トゥルはゆっくりと立ち上がり。
「最後の修行をしよう。私にクラウンのすべてを乗せたひと振りを見せてくれ」
トゥルの瞳が真っ直ぐと俺を見つめ、夜空の光が俺とトゥルを照らした。
まるで、空が俺たちを見守っているかのように。
「ああ、覚悟しろよ、師匠」
「師匠と言われたのが、これが初めてだな」
「そうだっけか?」
俺は腰に携えた剣に闘気を注ぎながら引き抜き、腰を低くする。
これこそ、草薙流、
さらに、無詠唱による強化魔法で、身体能力強化、五感強化、敏捷上昇など、俺が持てる全てのバフをかける。
これ以上強化したら、体がはち切れるな。ふふっ、これが今の俺の強化できる限界か。
でも、これだけやってもトゥルには敵わない。それほどまでにS級冒険者、剣狼トゥル・パウンツァは強いのだ。
「ふぅ…………」
草薙流の考えはそのひと振りですべてを終わらせることにあり、一振り一振りがあらゆる流派の奥義に近いとされている。
その分、一振りに対する速度はほかの剣術に比べれば、全然ないし、空振れば隙が多くなる。
だから俺はできる限り魔法でカバーする。
そして、一歩前へ足を踏み出した瞬間。
ガキンッ!
俺の一振りがトゥルの剣に触れ、金属音が鳴り響く。
闘気の衝突が周囲の木々を切り裂くほどの風を引き起こし、その場の木々の葉っぱを吹き飛ばした。
「…………やっぱり、トゥルにはまだ敵わないか」
「そうだな。だが、3か月前のお前なら私を一歩下がらせることもできなかった。自慢してもいいぞ?」
「それじゃあ、遠慮なく自慢させてもらおうかな」
俺の渾身の一撃はトゥルをその場から一歩後ろに下がらせることできた。
それが今の俺の実力の指標。
まだまだトゥルとの実力差は大きいが、これならクララと十分に戦える。あとは戦う場所さえ、制限できれば、クララに勝てる。
その確信を得た俺は笑みを浮かべたのだった。
■□■
朝日が昇り、明日を迎えた朝。
さっきに出発するトゥルを北門の前まで送った。
「ここでお別れだな」
「今さら、寂しいのかな、トゥル?」
「………少しな」
犬のように耳を垂れ下がり、目線が斜め下を見つめた。
あらあら、ちょっとかわいいか?というか、超かわいいな。
まるで、子犬みたいだ。
「俺より年上なのに、情けない顔だな」
「なぁ!?」
「トゥル、別にこれが最後ってわけじゃないんだし、そんな顔するなよ。また会おう、その時の俺はもっと強くなってるからな」
「そうか、それはすごく楽しみだ」
俺はトゥルが門を潜り抜け、去っていく背中を見届けた。
「ふん、意外とさみしいものだな。さてと、俺も準備をするか」
1か月後、クララの仲間加入イベントが始まる。
それに向けて俺はプルッセラ王国に行く準備を進め、東門の前に立った。
「意外と長い道のりだったが、困難を乗り越えてこそ、その褒美は格別に感じるもの。
待っていろ!俺は必ず、主人公の立場を奪ってやる!
いざ、プルッセラ王国の王都プリスタリアへ!!」
こうして、俺は万全な準備を整え、王都プリスタリアへと向かうのであった。
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