第12話 トゥルに修行をつけてもらうことになった、そしてクララの罰

 クララとの戦いの後、無事に冒険者カードを取り戻すことができた俺たちだが、同時に信じられない事実を知る。


 それは華奢な服を着る男が魔族だったということ。


 それを冒険者ギルドに報告すると、大騒動になり、ほかに魔族がいないか調査が始まったのだった。


 

「まさか、魔族だったとはな」



 戦わなくて正解だった。


 魔族は生まれながら保有する魔力が多く、そして、とにかく強い。


 だって、ケインが初めて魔族と戦った時のイベントは負けイベントで、今の俺が敵うはずがない。


 マジで、よかったぁ~。



「おかげで外は大騒ぎだ。まったく、うるさくて全然寝れん」



 獣人族は耳がいいから、少し騒がしいだけで耳障りなのだろう。


 まあ、そんなことはどうでもいいが。



「しかし、どうして俺はトゥルさんに看病されてるんだ?」


「何をいまさら」



 俺はベットの上で寝ており、なぜかトゥルにあ~ん、されながら看病されている。


 誰得だよ、と思ってしまう。



「あの戦いの後、お前は気を失い、2日間も目を覚まさなかったんだ。そのあとのことはさっき説明しただろ」


「いや、そうなんだが、別にトゥルさんがここまでしなくてもいいだろ。だって冒険者カードを取り戻せたんだし」


「冒険者カードを取り戻せたのはクラウンのおかげだ。ならば、その恩を返すのが剣士としての礼儀。素直に受け取れ」



 いや、なんというか、俺の持つトゥルのイメージが違いすぎて、拒絶反応が。でも、今思えば、これは一種のご褒美。


 だって、世界の男の中でトゥルにあ~ん、なりとお世話してもらえる男はいない。


 そう思えば、これはこれでありかもな。



「それより体のほうはどうだ?闘気を覚醒させた後は多少なり、体にしびれや痛みがあるはずだが」


「う~ん、特には」


「そうか…………本来、闘気は各流派の師範のもとで修業して至れる一つの境地だ。クラウン、お前は誰かに剣術を習ったのか?」


「一応な、ただ修行をつけてもらったのは10歳の時までだ」


「なるほどな」



 トゥルは俺が闘気を覚醒したことに何か思うところがあるのだろうか。


 そんな空気を感じる。



「クラウン、お前には才能がある。数週間しか一緒にいないが、私が断言しよう」


「きゅ、急になんだよ」


「私が闘気を覚醒させたのは15歳のころ、そして最年少で闘気を覚醒させたのも15歳だ。この言葉の意味、わかるだろう?」


「俺は12歳だから、俺が記録を塗り替えたってことだな」


「そうだ。そして、このことは剣の世界ではすごく大事なことだ。もしよかったら、クラウン。私の師範のもとで修業しないか?お前ならより高みを目指せる」



 まさかのお誘いに目を見開く俺だが。


 そんなのもう答え決まってるじゃん。


 特に躊躇ためらうことなく俺は言った。



「いや、それはいい」


「なぜだ?」


「俺は剣術を極めるのもいいが、魔法も極めたいんだ。それに俺は俺より才能のある有望な剣士を知っている。そいつに勝つには剣術だけじゃ、ダメなんだ」



 まあ、そもそも俺、2年と少しで家に戻らないといけないから、そもそも無理なんだけどね。


 でも、さっきの言葉も本当だ。なにせ、ナーシャは剣士の頂点の一角を担うほどに強くなるからだ。


 となると、もしナーシャと戦うときに同じ剣術で勝負するならば、どう考えたって分が悪い。だったら、両方極めるしかないのだ。



「そうか、まあ無理強いするつもりはない。だが、もし学びたいというのなら声をかけてくれ。いつでも紹介する」


「そうだ!」



 ふと、思い付き声を上げると、トゥルは唐突に叫んだ俺を見て半分、驚いていた。



「あと3週間ぐらい、この宿の部屋借りているし、その間、俺に闘気の使い方、というか修業をつけてくれよ!」



 さすがにトゥルの師範に修行をつけてもらうことはできない。


 だが、それはそれとして今後、闘気も使っていかないといけない以上、遅かれ早かれ修業することになる。ただ、俺は闘気の設定は知っていても使い方は知らない。


 なら、だれに学ぶ?


 手頃の相手が目の前にいるじゃないか。


 そう、S級冒険者、剣狼トゥル・パウンツァが!



「…………わかった。この宿に滞在する期間、私が修行をつけてやる」


「よしっ!」



 こんな機会はめったにない! 


 いや~ある意味、冒険者カードを取られてよかったかもしれないな。


 それに半年後には一人でクララと戦うことになる。その時に備えて、今のうちに闘気を身に着けて、そのついでに剣術も磨いて、万全を期す。


 俺はクララとの戦いで実力の差を思い知ったのだ。


 だからこその判断。


 俺は強くなる。もっと強くなって、いつか俺の夢を!主人公の立場を奪い、酒池肉林しゅちにくりん三昧ざんまいの生活を送って見せる!!



「そうと決まれば、今日は休め。明日から死ぬほどシゴいてやるからな」


「俺は今からでもいいがな」


「やる気は十分だな。だが、体を休めることもまた修行だ。今日は大人しく寝てイろ」



 こうして、残りの滞在期間、俺とトゥルの修行の日々が始まったのだった。



■□■



 バハラの本拠地。


 クララはボスの前で跪ついていた。



「クララ、お前の働きぶりはバハラのメンバー全員が認めている。この俺もだ。だから、この失敗は不問にしてやる」


「ありがとうございます、ボス」


「だが、失敗は失敗だ。多少、痛い目には合ってもらうぞ。お前ら、やれ!」


「「「はいっ!!」」」



 バハラでは失敗は許されず、本来なら殺される。


 でも私はこれまでたくさんバハラに利益をもたらしてきた。だから、今回の失敗は許された。



「すまねぇな、クララ。ちょっと我慢してくれや」


「うん。ボスの命令は絶対だから」



 この後、クララはただ蹴られ、殴られ続けた。


 その光景はバハラにとって日常的であり、死人なんて毎日のように出る。



「はぁ…………」


「お前ら、撤収するぞ」



 何時間殴られたのか、わからない。


 痛みは慣れてるから、そこまで苦しくない。



「ああ、今日は空がきれい」



 上を見上げれば、雲一つない夜空が広がっていた。



「今度は失敗しないようにしないと」



 次の失敗は絶対に許されない。


 もし次、失敗したら、ボスに捨てられちゃう。


 クララは綺麗な夜空を見ながら静かに涙を流したのだった。



ーーーーーーーーーー

あとがき


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