第10話 仲間思いな兄貴、そしてバハラ最強の暗殺者
「なんだお前らはってお前はトゥル・パウンツァ!?どうして、ここに!!」
「久しぶりだな。前は世話になった」
トゥルは隣でもわかるほどの殺気を放ちながら、剣を引き抜く。
「これはこれは、どうやらつけられていたようですね」
しかし、華奢な服を着る男は動じていない。
気味が悪い自信だな。まさか、何か罠が?いや、でも特に周りを見ても何もないし、あるとすれば、後ろにある洞窟だけだ。
「トゥルさん、さっき言った通り」
「わかっている!」
トゥルが一歩を踏み出すと、瞬く間に華奢な服を着る男の背後をとった。
「こっちに来てもらうぞ」
「これはこれは豪快ですね」
風を切り裂くほどの鋭利な一撃が華奢な服を着る男を吹き飛ばし、トゥルはすぐに追いかけた。
「それじゃあ、あんたたちの相手はこの俺だ。覚悟しろよ」
「な、なめやがって!俺たちを邪魔したこと、後悔させてやる!お前ら、武器をとれ!このガキにバハラの恐ろしさを教えてやるぞっ!!」
バハラ4人組は剣を取り、一斉に飛びかかった。
「バカ正直だな」
俺はまず目の前の男をとらえ、腰を低くしながら突進し、体をぶつけた。
「ぐはぁ!?」
体に強く当たり、尻もちをつくバハラのメンバーの一人を足で踏みつけながら、勢いに乗って剣を大振りに振って相手との距離を離した。
これでよし。
「こいつ!うぅっ!?」
その隙に踏みつけた相手の右腕を躊躇なく突き刺した。
「これでもう剣は握れねぇな」
突き刺された男は耐え難い苦痛の叫びをあげる。
「このガキ、よくも俺の仲間を!!」
「おいおい、いいのか。もし近づいてきたら、今度は左手、次は右足、左足、最後は心臓、を突き刺しちゃうかもしれないぞ?」
「こ、こいつ!!」
怒りの形相をあらわにするバハラの一員。だが、それを聞いた瞬間、一歩も動かなくなった。
思ったよりも仲間思いだな。
バハラって悪者ばっかで仲間意識はないと思ってたけど、主人公目線じゃわからないことがたくさんあるみたいだ。
まあ、俺に関係ないが。
「兄貴、俺を気にせず、やってくれ」
「何言ってやがる!」
「俺、兄貴と出会えて、よかった」
「黙れよ」
「ぐぁ!!」
俺は踏んでいた足にさらに力を入れる。
「兄貴、どうするんですかい?」
「くぅ…………やるぞ。お前ら!」
「熱い友情だな」
そうこなくっちゃ、面白くない。
俺は試したいんだ。
今の俺が半年前の俺より、どれくらい強いのか。
「さてと」
踏んでいたバハラの一員を俺は魔法で持ち上げ、そのまま勢いよく吹き飛ばした。
「こいつ、魔法も使えるのか」
「もうそいつに用はない。こいよ!」
「思い知らせやる、バハラの恐ろしさをな!!」
数十分後。
戦いは白熱した。
圧倒的な技量差がありながら、立ち向かってくるバハラのメンバー。死ぬことすら恐れない猛攻に少し苦戦しながらも、兄貴と呼ばれていた男を除き、気絶させた。
そして、最後の一人になった兄貴と呼ばれた男は血反吐を吐きながらも俺の前ですがすがしい表情を浮かべながら立っていた。
「くぅ、こんなガキにやられるとは。世界は広いな」
「ふぅ………こっちも驚いた。まさか、ここまで手こずらされるなんて、思いもしなかった」
バハラのメンバーを見たとき、俺のほうが強いと確信した。
これは戯言じゃない。そう確信したんだ。だから、余裕で勝てると思ったが、想像以上の粘り強さと、意志の硬さに俺は追い詰められていた。
断言しよう。俺は苦戦していた。
「ははっ、だが少し安心しているところもあるんだ」
「うん?」
「だってよ、お前は俺の部下を殺さなかった。それはつまりお前は、まだ殺す覚悟ができてねぇってことだ。じゃなきゃ、殺さない意味がないからな」
「そうだな。俺はこの人生で人を殺したことない。だが、少し解釈違いだぞ」
「なんだと?」
「俺は殺す覚悟ができてなかったわけじゃない。殺す価値がないと思ったから、殺さなかったんだ。この意味と違い、お前にわかるか?」
そうだ。殺せなかったんじゃない、殺さなかったんだ。
だって無駄な血は流れるべきじゃないし、それにあくまで目的は冒険者カードを取り戻すことだ。
余計なことはすべきじゃない。
だから、決して!殺す覚悟ができてなかったわけじゃない!!
「わかれねぇな」
「だろうな。それじゃあ、潔く眠ってろ」
「かかかっ、一つだけ教えてやるよ、ガキ。俺たちバハラはな、緊急時に救難信号を送られるようになっているんだ。それは近くのバハラに送られる」
「何の話だ」
「俺たちの悪魔が来る」
その瞬間、背後から凄まじい殺気を感じ取り、すぐさま振り返った。
「ぐはぁ!?」
だがそこには誰もおらず、なぜか背後から男の叫び声が聞こえた。
俺は視線をゆっくりと戻す。
「んっ!?」
そこには兄貴と呼ばれていた名も知らない男の首が綺麗に切られた姿があり、さらに気絶させた輩も全員、首を切られて死んでいた。
「バハラに負けた者はいらない。そう、ボスは言ってた」
透き通った声、それは鮮明に聞こえるがどこから聞こえているのかわからない。
まさか、こんな時に。
だが、俺はこの声の正体を知っている。
きれいな切れ味で首を切る技術、それはまさしく暗殺技術で、気配を消して真っ暗な闇に紛れる隠密能力。
こんなことができるのはこの世界でも相違ない。そして、バハラのメンバーともなれば、一人しかいない。
「そして、バハラに関わる部外者は全員、殺せと。ボスは言ってた」
闇から姿を見せる少女。
その子は冒険者ギルドで見かけたバハラ最強の暗殺者クララだった。
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