第8話 クラウンとトゥル、そして偶然の出会い

 タルタ町の門を通る交通料、一人あたり銅貨5枚。


 俺とトゥル合わせて銅貨10枚、大体1週間分の食費だ。



「はぁ~思ったよりも高いな。やっぱり…………」



 何があったときようにお金はある程度、残しているため依頼を受けなくても1ヶ月は生活できるが、正直使いたくはなかった。


 なぜならこのお金は父上からもらった資金だからだ。


 本当は3年間、1銅貨も使うつもりはなかったが、冒険者カードを取り戻すために使わさせてもらう。



「そんなにお金があったのなら、ここ1ヶ月は暮らせただろ」


「このお金は父上からもらったものなんだ。でもこれを使ったら親の力を借りたことになるだろ?だから、使いたくなかったんだ」


「なら、なんで使ったんだ?」


「今はプライドよりも冒険者カードを取り戻すほうが優先だろ。トゥルさんだって、こんな状況だったら、そうするよな?」


「そうか、クラウンは父親に愛されているんだな」


「…………かもな。ってそんな話はいいんだ。それよりまずは宿だ」



 タルタ町に夜遅くに到着した俺たちは宿を探した。


 だが、こんな夜遅くに宿が開いているはずがなく、結局その日は野宿した。


 そして、次の日、朝早く宿に向かった。



「二部屋だと2週間分か…………」



 2週間で冒険者カードを取り戻せるか、少し不安だな。


 でも一部屋にするとベットは一つだけになって、トゥルと一緒に寝ることになる。


 俺は別にいいが、トゥルはそれを許さないだろう。だって、女の子だし。



「一部屋にすればいいだろ」


「え、いいのか?」


「何が問題なんだ?」


「ほら、だって一応、女の子だろ?」


「…………それでいったら、クラウンはガキになるな」


「たしかに、ならいいか」



 そうだった。俺って今、12歳の子供だったんだ。すっかり、忘れてた。


 自分の年齢は実質、36歳+12歳の48歳で全然子供ではない。


 だが、この世界では12歳、ただのガキだ。


 気を付けないとな。



「それに襲われたとしても私が斬るから問題ない」


「どこを斬るかは聞かないでおく」



 そんな会話があり、無事に1ヶ月間、一部屋を借りた。


 これで準備は万全だ。


 すぐに借りた部屋に入り、防音魔法で音を遮断した。



「魔法が使えるのか?」


「ああ、魔法が使えないといろいろ不便だからな。あ、水が欲しかったらいつでも言ってくれ。魔法で出すから」


「器用な奴だな」



 部屋にしっかりと防音魔法を張った後、早速、作戦会議を始めた。



「ここからは別々で動こうと思う。捜索範囲はこのタルタ町とその周辺、俺たちをハメた相手、もしくはその関係者らしき人を見つけたら、すぐに報告する。報告はこの俺が作った通話ができる指輪を使う」



 俺はトゥルに通話ができる指輪を渡した。



「魔道具か」


「まだ未完成品だが、通話だけなら可能だ。無くすなよ。それ一つ作るだけでも結構大変なんだからな」



 魔道具はいつでも起動できる魔法を埋め込んだ道具。その種類は様々でこの魔道具は魔法の勉強がてら、作った試作品。


 まだ半分しか完成しておらず、1キロ範囲内での通話しかできない。



「わかった」


「よし、それじゃあ、早速、俺たちをハメた奴らを探すぞ」



■□■



「…………収穫なしか」



 タルタ町に来て1週間、いろんなところを回ったが、特に収穫はなく。


 それどころか、それらしい情報も得られなかった。



「そういえば、今日は全然、冒険者を見かけないな。とりあえず冒険者ギルドに行くか。でももし、また収穫がなかったら…………」



 いや、まだ諦めるには早い。トゥルは諦めずにタルタ町の周辺を探している。


 しっかりしろ、俺!


 俺は両手で頬を叩き、気合を入れた。



「よし、それじゃあ、失礼します」



 ガチャっと両扉を開けて、冒険者ギルドに足を踏み入れた。


 すると、そこにはたくさんの冒険者が依頼掲示板の前に立っていた。



「なるほど、だから外には一人も冒険者がいなかったのか。でも、この集まりはなんだ?」



 たくさんいる冒険者の中を潜り抜け、なんとか依頼掲示板の前に顔を出した。



「これは…………領主の護衛任務?」



 護衛任務は指名制であることが多い。なのにこの領主の護衛任務は依頼掲示板に堂々と貼られている。


 しかも、3日間の護衛で金貨5枚。


 これはC級冒険者1年間の収入分以上ある。


 だけど、みんな興味はあるけど、怪しくて手を付けていないって状況か。



「まあ、俺には関係ないか。それより………」



 俺は集まっている冒険者たちを見渡した。


 これだけ人数が多いと探すのも大変だな。


 しばらく、冒険者ギルドをうろうろしながら、目を配った。


 その時、バタッと小柄な女の子に体が当たってしまい、その子は倒れて尻もちをつく。



「いたっ」


「あ、ごめん。大丈夫か?」



 俺はすぐにひざを折り、目線を合わせて手を差し伸べた。



「大丈夫です」



 尻もちをついた少女はゆっくりと顔を上げると。


 

「え…………」



 思わず、少女の目を見て声が出た。


 スラッとした肩まで伸びる黒髪に、小柄な体付き。底が見えない黒目を覗けば、どこまでも深い深淵が広がっていて。


 まるで世界に絶望しているかのような目をしていた。



「それでは」



 差し伸べた手を握らず、さっと立ち上がり、少女はテコテコと去っていく。


 そんな背中を見届けながら、思わず、その名を口にしてしまった。



「クララ…………どうして、ここに」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る