第6話 半年後、俺は立派に生きています

 冒険者になって半年。


 父上、俺は立派に生きています。


 ですが、もう無理かもしれません。



「俺は悪くない」



 冷たい赤い瞳で睨みつけてくるのは灰色の耳と髪を持つ獣人族で、右手には立派な剣を握りしめ、俺の首元に押し当てている。

 

 これはマジで死んだかも。



「私のご飯を奪った罪。死をもってあがなってもらうぞ」


「別に奪ったつもりはないけど」


「…………あれはな。私が苦労して手に入れた魚だったんだ。もう1週間も飲まず食わずで」


「なんかごめん。でも、俺だってここ3日間、食べてなくて、そしてたらたまたま目の前に魚があったから。だから、俺は悪くない!!むしろ、食事を置いてどっかに行ってたお前が悪い!! あっ」



 あ、つい本音が…………。


 冷や汗がたらたらと滴り、徐々に彼女の目が鋭くなっていった。



「それが最後の言葉だ。しねぇぇぇぇ!!!」


「まだ死ねるかよっ!!」



 俺はとっさに地面の砂を握りしめ、獣人族の目にめがけて投げた。



「なぁ!?」



 それは見事に命中し、獣人族の彼女は少しだけ後ろに下がった。


 今のうちに!


 その隙を見て、すぐにその場から脱出し剣を引き抜く。


 口を動かして時間を稼いだかいがあったな。とはいえ、この後どうしよう。



「よくもやったな」


「はは、すっごい殺気だな」



 冒険者になって半年。最初はうまくやれていたのだが、途中、仲良くしていた仲間に酒を飲まされ酔いつぶれた後、裏切られ、冒険者の身分証明書である冒険者カードを奪われた。


 おかげで街に入ろうにも交通料がかかり、自給自足の生活に。


 それからいろいろあって今に至るわけだが。


 勝てる気が全然しない。


 だってみればわかるけど、どう見ても凄腕の剣士だ。構え方、気配の消し方、そして鋭い殺気。


 どれも俺を上回っているし、なにより鍛え抜かれた体と消えない傷からも修羅場を潜り抜けてきたことが見てわかる。


 やっぱり、ここは交渉するべきか?



「食べ物の恨み…………うぅぅ」



 若干、野生に戻ってるし、それにこの状況。どう見たって手遅れだ。


 できる限り、あがいてみよう。それで無理なら、俺はここまでってことだ。



「うぅぅぅ!がぁぁぁぁぁぁあっ!!!」



 野生の本能なのか、四足歩行で俊敏に動きながら迫ってくる。


 早い!?てか、早すぎ!!


 防御しようと考えた時には、すでに彼女の攻撃範囲内。


 そして、ものすごいスピードで鋭く、風を切り裂くほどの斬撃が襲おうとしたとき、その剣は当たる直前で止まった。



「あ、あぁ~もうダメ。お腹すきすぎて力が…………」



 バタッ!と彼女はお腹を鳴らしなら、倒れた。



「た、助かった?」



■□■



 パチパチっと焚き火の音を鳴らしていると。



「はっ!!魚の匂いっ!!!」


「ちょっと、まあいいけど」



 焚き火を使い、魚を焼いていたところ。


 突然、飛び起き、獣人族の彼女は熱さなんて気にせずに魚にかぶりつく。


 そして、せっかく焼いた4匹を一瞬でたいらげた。



「ぷはっ!おいしかった…………って魚泥棒!!」


「誰が魚泥棒だ!まあ、あながち間違ってないが、でもそれでいったら、俺が焼いた魚を食べたあんたも魚泥棒だろ」


「お前と一緒にするな!…………て、ここはどこだ?」


「本当に感謝してほしいよ。気絶したお前をここまで運んで、魔物が襲ってきても大丈夫なように、寝ずに見張ってたんだからな」



 獣人族の彼女が気絶した後、さすがに置いていくのも心が痛かったので、俺が拠点にしていた場所まで運んだ。


 魚を焼いていたのは殺されない理由を作るため。


 これでこいつも俺に文句を言えなくなる。完璧な作戦だ。



「それより座れよ。そんなに殺気だってると魔物が寄ってくるだろ」


「あ、ああ、すまない。ってどうして、私が魚泥棒と一緒に行動しないといけないんだ!」


「だから、俺は魚泥棒じゃない!俺にはちゃんと、クラウン・ディッチて名前があるんだ!!」



 冒険者としての名前はクラウン・ディッチと名乗っている。


 まぁ、今の俺は冒険者カードがないから、冒険者かどうか怪しいところだけど。



「魚泥棒に変わりはないだろ」


「くぅ………それはお前も同じだろ。俺の焼いた魚を一人でたいらげたんだからな、魚泥棒さん」


「なぁ…………」



 顔を引きつる彼女を見て。


 効いてる、効いてる。これが見たかったんだよ。



「それで、座らないのか?」


「…………今日だけ、世話になる」



 夜は魔物が活性化するため、いくら優れた冒険者、剣士、魔法使いであろうと一人では危険だ。それは獣人族の彼女も知っているのだろう。



「私はトゥル・パウンツァだ」


「へぇ~トゥル・パウンツァね…………トゥル・パウンツァ!?あ、あのS級冒険者の!!」



 冒険者にはそれぞれE~S級とランク付けされている。

 その中でもS級冒険者は特別でその実力は竜を倒せるレベルだ。


 しかもトゥル・パウンツァと言ったら原作でも魔王との戦いで大きく活躍するメイン級のキャラだ。


 まさか、こんなところで出会うなんてな。



「懐かしいな。私はもうS級冒険者じゃないんだ」


「な、なにがあったんだよ」


「…………はは、笑うなよ。実はな、奪われたんだ」


「奪われた?何を?」


「…………ぼ、冒険者カード」


「あ~冒険者カードね…………えぇ!?冒険者カードっ!!!」



 ここにもう一人、俺と同じ被害者がいました。


 しかもその人は俺よりもはるかに強いS級冒険者トゥル・パウンツァです。



ーーーーーーーーーー

あとがき


2話投稿は気分でやります。


よろしくお願いいたします。<(_ _)>



 

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