第4話 生理現象には逆らえない

 下手に目立つと嫌なので、会場から少し離れた噴水広場に移動した。



「ここなら問題ないな」

  

 

 ナーシャと勝負するのは多分、1年ぶりぐらい。


 きっと、1年前とは比べ物にならないぐらい強いんだろうな。


 まぁ、負けないけど。



「早く準備して。こっちは勝負したくてうずうずしてるんだから!」


「はいはい」



 ナーシャの護身用の木刀。


 一見、普通の木刀だが持ってみると普通に鉄剣ぐらいの重さがある。


 これ、見た目が木刀なだけど、本当は鉄剣じゃないのか?



「どうしたの?」


「なんでもない。そんじゃあ、ちゃっちゃと終わらせるか」


「なめてると、後悔するわよ!!」



 合図なんてものはなく、ナーシャは真っ直ぐこちらに近づき、軽々と木刀を振る。



「挨拶にしては乱暴だな」


「はぁぁぁっ!!」



 右左右右とリズムを崩しながら猛攻するナーシャは息一つ乱さない。


 それを難なくと受ける俺だが、少しずつ足が後ろに下がっていく。


 ひと振りが重く、1年前とは比較にならない重さだ。



「まだまだこれからよ!!」



 一歩後ろに下がり、今度は鋭い突き。



「あっぶな」


「よけたわね!!」



 うれしそうな笑顔を浮かべるナーシャ。


 …………なんで?


 そんな疑問が浮かんだ瞬間、ナーシャの雰囲気が変わる。


 この感じ、剣士が剣術の型を使うときに似てるな。まさか!?


 嫌な予感がした俺は、とっさに腰を下ろし、空いている左手で地面に触れた。



「これで終わりよ!!」



 突き刺した木刀を腰と一緒に素早く引き、振り下ろした。



「くぅ…………!?」



 間に合え!リーファル!!


 左手が地面に触れた瞬間、小さな風が巻き起こり、体を右側に押し出した。


 からぶった木刀は地面に叩きつけられ、赤ちゃんがすっぽり収まるほどの穴をあけた。



「な、なんでよけるのよ!!」


「いや、よけるだろ!!」



 あれはガルムット流の瞬閃しゅんせん


 正しく力が加わる姿勢を取ることでより剣に力と速度を持たせる技。その一撃はどんなものでも一刀両断できる。


 まさか、ガルムット流の剣術を学んでいるとはな。


 風魔法リーファルがなかったら、よけられなかった。



「まあ、いいわ。次は外さないから」



 ナーシャの獣のような目は威嚇しているかのように真っ直ぐこちらを睨みつける。


 原作を読んでいて思ったけど、ナーシャってやっぱりちょっと獣みたいな獰猛どうもさがあるよな。


 きっと夜の時は攻めだな。


 って何言ってんだ俺は。



「なに笑ってるのよ!」


「ごめんごめん」



 とはいえ、このままじゃちょっと厳しいな。


 ここは。



「そろそろ本気でいくか」



 それにしても、さすがナーシャだ、と感心した。


 俺は中ボスということもあり、それなりの才能を有しているが、ナーシャと比べれば、剣術の才能なんてないも当然で、単純な剣術勝負じゃ、勝つのは難しい。


 だが、俺はナーシャにはない武器を持っている。



 それが魔法だ。



 俺は無詠唱魔法で身体能力を強化し、さらに反射速度と瞬発力も強化した。


 これが俺の得意な魔法の一つ、強化魔法パールだ。


 実際に原作に登場するクラウン・アルドリヒも主に強化魔法を多用していた。



「んっ!!」



 たった2歩でナーシャの背後に回り込む。


 きっとナーシャはすぐに後ろに振り返り、考えもせずに木刀を振るだろう。


 そこで俺は強化した瞬発力を活かしてナーシャの木刀が届かないぐらいに飛び上がった。


 これで終わりだ。


 上からかかる力を利用し、ナーシャに向かって木刀が襲う。


 パンっ!!


 通常の俺の力に加え、上からかかる力を合わせた一撃はナーシャの姿勢を崩し、尻もちをつかせた。


 だがここでナーシャは諦めるような人間ではない。


 その手に武器がある限りナーシャは必ず反撃してくる。



「まだ負けてないんだからっ!!」



 ほら、尻もちをついても目は獰猛どうもうのままだ。


 ナーシャは体勢を崩しながら木刀を横に振りぬく。



「見え見えだぞ、ナーシャ!」



 予想していた俺はすかさずナーシャの剣を絡めとり、真上にはじいた。


 これで、俺の勝ちだ!!


 そう確信したとき。



「まだよぉっ!!」


「ちょっ、ナーシャ!?」



 剣を失ったはずのナーシャはなぜか、こっちに突進し、体全体を使って体当たりしてきた。



「ぐはぁ!?」



 予想外の動きに体当たりをもろに食らった。


 そのまま後ろに倒れこむとナーシャは俺から木刀を奪いながらまたがり、首元に剣先を突き立てた。



「私の勝ちね!!」



 この状況、ナーシャがためらわず突き刺せば、殺されていた。


 それがわかると俺は。



「…………ま、参った」



 負けを認めたのだった。



「や、やったぁ!クラウンに勝ったぁぁぁっ!!」



 負けた。この俺がナーシャに負けた。


 あんだけ余裕こいて油断して負けた。


 …………は、恥ずかしいぃっ!!!


 勝ったと思った。勝ちを確信してたのに、くそっ!



「ふふんっ!私の勝ち!」


「くぅ………」



 何にも言えないのがまた悔しい。


 これは帰ったら鍛え直しだな。



「…………」


「なによ?もしかして、悔しいの?」



 それはそうと、この体勢はなかなかいい眺めかもしれない。


 下から見上げると、ナーシャの顔。そして少し視線を下げると未発達なお胸で見えそうで見えない。


 さらにさらに下げると。



「うん?ねぇ、なんかちょっと硬いものが…………」



 ゴソゴソっとナーシャが動くと。



「ナーシャ、男にはどうしても逆らえない生理現象があるんだ」


「せ、生理現象?…………はぁ!?」



 ナーシャは気づいたのか耳から徐々に真っ赤になっていく。


 俺は悪くない、俺は悪くない。


 だって、可愛い女の子にはまたがられて、見えそうで見えないお胸を目の前でちらつかされて、たまたまあそこがナーシャのお尻で刺激されたら、誰だってこうなる。


 だから、俺は絶対に悪くない!!



「へ、へ…………」


「待て、ナーシャ。その木刀をどうするつもりだ」



 ナーシャはゆっくりと木刀を持ち上げた。



「へ…………ヘンタイっ!!!」


「ぶへぇ!?」



 ストレートに木刀が頭に直撃した。


 あ、やばい。意識が…………。


 頭部からタラタラと血が流れ、そのまま気絶したのだった。

 




 



 


 

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