第2話 天才かも

 決まった!完全に決まった!!


 カッコイイセリフを言った後、”じゃあな”と言って背を向ける。


 これに惚れない女の子はいないはずだ!


 さらにカナが名前を聞いてくれば、最高なんだが。


 まさかの聞いてきた!!


 これ、悪役貴族という肩書さえなければ完全に主人公だろ!てか、主人公だよ、完全に!!



「クラウンさん…………助けてくれてありがとうございます!!」



 俺は背を向けたまま、手を振った。


 ああ、かっこいい!俺が女の子だったら、惚れてるよ!!




 そして、カナが見えないところまで移動すると。



「はぁ~これが主人公の気持ちってやつなんだな。たくぅ、ケインが羨ましすぎるぞ」



 ビシッと決めて満足した俺は帰ろうとしたところ、少し離れた木の裏に同い年ぐらいの男の子がいた。


 こいつは…………まさか!?


 俺は知らないふりをして早足で男の子がいた木影をスルーしてその場を去った。



「ふぅ…………あいつがこの作品の主人公、ケイン・バルドーか」



 あまりにも唐突の出会いで、心臓が飛び出そうになった。



「でも、ざまぁだな。幼馴染をいじめから救うイベントはとっくに終わってるのに…………クックックッ、あ~さいっこうだぜ!あはははははっ!!!」



 ケインのハーレムエンドに対する羨ましいさがあるが上の嫉みがあふれ出し、悪役貴族らしい邪悪な笑みを浮かべながら高笑いした。



「はぁ~~まぁ、これで俺が主人公になったかと言われれば、100パーセントないんだけどな」



 あくまで俺は主人公ケインが原作で書かれて最初のイベントを横取りしただけで、別にこのイベントを起こさなくてもシナリオには全く問題はない。


 …………問題がない?待て、待てよ。


 俺は自分の言葉に引っかかった。


 シナリオには問題がない?ないということは問題があるイベントを俺がこなせばぁあ?


 徐々に俺の顔色は輝いていき。



「これだ!これならケインから主人公の立場を奪えるぞっ!!」



 主人公っていうのは必ず、ターニングポイントとなる大事なイベントが存在する。


 たとえば、ケインがどのようにして勇者となったのか。それはケインにとって最初の仲間である暗殺者クララの加入イベントで、ケインの腕に刻まれた勇者の証を王女様に知られるからだ。


 ならば、そのイベントを俺がこなした場合、そもそもケインに刻まれた勇者の証を王女様が知ることはない。


 さらにはハーレムの一員であるクララを仲間にすれば…………。



「天才かも。俺ってマジで、天才かも!!」



 今、俺の脳内は一つの思い付きから主人公ケインの立場を奪う作戦がいくつも思い浮かぶ。


 そして、それは非現実的な作戦ではなく、頑張れば実現できそうな作戦ばかりだ。



「そうと決まれば、早速、動かなくてはな」



■□■



 ―――カナ・カミラ。

 魔女の象徴たる白い髪を持つ彼女は親からも酷い仕打ちを受けていた。


 毎日のように殴られ、外の子供たちからもいじめられる悲惨な毎日。唯一、私と対等に会話してくれたのはケインくんだけ。


 そんな私はケインくんだけが心の支えだった。


 でもある日、いつもの4人組にいじめられていた時、顔も知らない男の子に助けられた。


 最初はケインくんかもと思ったけど、口調は強いし、怖かった。


 だけど、その子はあっという間にいじめっ子たちをボコボコにした。



『俺が怖いか』



 最初に掛けられた彼の言葉。


 すっごく怖かった。だって、いつもカルト村で一番強いで有名な4人組を簡単に倒してしまったから。


 その後、彼は私に近づいてきて。



『怖がるのは無理もない。だが、これだけは忘れるな。

今のお前じゃ、またいじめられるだけだし、今日みたいに都合よく助けてくれる人がいるとは限らない。

だから、自分の身ぐらい自分で守れるようにしておけ』



 その言葉は冷たく感じたけど、私の心には深く突き刺さった。


 私はこの白い髪のせいでいじめられて、それから私は何をしたの?


 いじめられないよう努力した?


 いや、していない。私はこの状況から抜け出そうとする努力をしていない。


 それどころか、いじめないケインくんに依存して心の拠り所にしていた。



『あと、お前の髪のこと、あいつらは気色悪いなのなんなの言っていたが、俺はきれいだと思うぞ。だから、気にするな』



 怖い人だと思った。


 でも、彼の言葉には不思議な安心感があって、それに髪をほめてもらったのはこれが初めてだった。


 ケインくんにだって褒められたことなかった。


 あれ?なんか、ドキドキする。なにこれ?


 心臓のドキドキが止まらず、頬がうっすらと赤くなる。



『じゃあな』



 彼がどっかに行っちゃう。どうしよう。


 気づけば、彼に対する恐怖心は消えていた。



「あ、あの、名前を聞いてもいいですか?」



 咄嗟に口から出た言葉に私自身も驚いた。


 私、何言ってるんだろう。私のバカ!



『…………クラウン。クラウン・アルドリヒだ。覚えなくていいぞ』



 名前を聞いた時、今の気持ちをそのまま言葉にした。



「クラウンさん…………助けてくれてありがとうございます!!」



 カナは感謝の言葉とともに強く決心した。


 クラウンさんの言葉で、自分が何の努力もせず、ただ白い髪のせいだと、全部周りのせいだと言い聞かせて、ケインくんに依存していたことに気づかされた。


 クラウンさん、本当にありがとうございます。おかげで、目を覚めました。


 これからは自分の身は自分で守ります。


 そのための努力は惜しみません。


 

「カナちゃん!」


「ケインくん!?」


「大丈夫だったか?怪我は?それにこの状況、一体何が」


「…………助けてくれたんだ」


「え、助けてくれた?」


「うん、ちょっと怖くて言葉が強いけど、とても優しい人に」



 クラウンに助けられたカナはこうして、原作にはない道へと歩み始める。


 だがその隣でケインは浮かない表情を浮かべていたのだった。



 

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