主人公になりたい悪役貴族~シナリオ中盤ボスの悪役貴族は主人公のハーレムエンドがうらやましいので、その立場を奪ってみようと思う

柊オレオン

第1話 主人公のハーレムエンドがうらやましいので、その立場を奪ってみようと思う

 人生一度は思うだろう。


 いいなぁ~ハーレム。俺も一度でいいから主人公みたいに美少女に囲まれながら酒池肉林してぇ~~と。


 とある主人公を見て、女の子に囲まれて、酒池肉林。

 たった一度の人生、経験してみたいものだ。


 これぞ、男のロマン!夢だ!!



「ごほんっ!クラウン…………急にどうしたのだ?具合でも悪いのか?」


「あ、いえ、少し考え事をしていただけです」


「そうか」



 そんな夢見ている俺はアルドリヒ公爵家の長男、クラウン・アルドリヒ。

 原作小説『ケインの英雄日記』に出てくる悪役貴族にしてシナリオ中盤のボス、そして転生者だ。


 記憶取り戻したのは5歳の時、突然、思い出し、今に至る。


 しかし、まさかあの容姿端麗、悪逆非道、無慈悲、一切の良心がないで有名なクラウン・アルドリヒというキャラに転生するなんて。


 どうせなら。


 数々の冒険を潜り抜け、仲間を増やしながら、ラスボスである魔王を倒し、ハーレムエンドを迎え、王女様や仲間たちと酒池肉林しゅちにくりん三昧ざんまいするケインに転生したかった。


 くぅ、悲しい。



「どうした、クラウン。急に泣き出して」


「あ、朝ごはんがおいしすぎて涙が」


「そ、そうか。無理はするなよ。クラウン、お前は次期アルドリヒ公爵家の当主となる男なのだからな」


「わかっています、父上」



 一緒に食卓を囲んでいるのはアルドリヒ公爵家の当主バッハ・アルドリヒ。


 表舞台では温厚な性格で有名だが、裏では人類の敵である魔族と交渉したり、数々の犯罪に手を染めたり、エルフの奴隷をコレクションとして集める趣味があったりと、まさしく悪役貴族の鏡。


 そんな父上は俺が頼めばなんでも用意してくれる。

 剣の師匠が欲しいといえば、一流の師匠をつけてくれるし、魔法使いも同じく、優秀な宮廷魔法師を師匠としてつけてくれる。


 中身さえ考慮しなければ俺にとって最高の父親だ。



「ごちそうさまでした」



 朝ご飯を食べ終えて俺は自分の部屋へと戻り、大きくてフカフカなベットに体を埋めた。



「…………エルフの奴隷なんて羨ましい。俺だって爆乳美少女エルフに囲まれながら、あんなことやこんなことしたいよ!!」



 原作小説『ケインの英雄日記』は俺がハマっていた小説で内容は転生後もはっきりと覚えている。


 じゃなきゃ、今頃、アルドリヒ公爵の名を使っていろんなことをしている。

 だが、俺には主人公に殺される運命が待っているから、父上にお願いして、一流の剣士と宮廷魔法師に修行をつけてもらったんだ。


 でもそれは金で買われたもので俺が10歳のころに突然いなくなってしまった。


 悲しいかな。



「くそ!どうしてケインじゃないんだよ!そこはふつう主人公に転生する流れだろうが!どうしてよりにもよって主人公に殺されるクラウン・アルドリヒなんかに。あ~~今頃になって怒りがぁぁっ!!」


 

 悔しいという気持ちもあるが、それ以上に主人公ケインのハーレムエンド、酒池肉林三昧がうらやましい過ぎて、嫉みそうになる。


 この鬱憤うっぷん、どうにかして晴らせないものか。



「…………そうだ。いっそのこと主人公の立場を奪ってみるか」



 原作が始まるのはちょうど、俺が12歳の春ごろだ。


 そして、今はちょうど春で、俺は12歳だ。


 つまり、主人公ケインの最初のイベント。村でいじめられている幼馴染を助けるイベントが発生するはずだ。



「もし、うまくいけば、死亡フラグを回避できるだけでなく、俺がハーレムエンドを迎えられる。あるぞ、やる価値がっ!!」



 無謀ともいえる作戦ではあるが、思わず、成功したことを想像すると笑いが止まらない。



「クックックッ…………あはははははっ!!!よし!早速向かおうじゃないか。ケインの故郷、カルト村にな!!」



■□■



 カルト村、そこは主人公ケインの生まれ故郷。


 そこでケインはいじめられている幼馴染を助けるというイベントがある。


 俺は護衛一人をつけるのを条件に父上に許可を得て、カルト村に到着した。



「よし、お前はそこで待機だ。いいな?」


「一人で本当によろしいのですか?」


「問題ない」


「わかりました」



 護衛を一人をカルト村の近くで待機させ、俺は足を踏み入れた。




「ここがカルト村か。挿し絵通りの風景だな」



 ここでケインは幼馴染をボコボコになりながら助けだす。


 そして己の弱さを知り、冒険者になるために故郷を出るんだ。


 ケインの夢である英雄になるために。



「さて、ケインの幼馴染はどこかな?ってそもそも誰一人見ないのはおかしくないか」

 


 カルト村は農作物を育てて生活している。


 今はお昼ごろだし、仕事をしていないのは不自然だ。



「もう少し歩いてみるか」



 俺はカルト村周辺を歩いた。


 だが、誰一人いない。


 いや、違うな。隠れているのか。



「そうか、護衛とこのアルドリヒの家紋のせいか」



 アルドリヒ家は公爵家だ。


 平民たちが隠れるのもうなずける。


 というか、突然、現れたらそりゃあ、ビビるわ。



「主人公の立場を奪うのは思った以上に難しそうだな」



 もう少し、しっかりと考える必要がありそうだ。


 

「帰るか。これ以上いてもイベントは発生しないだろうし、下手に目立ってシナリオが変わるのもややこしいし。うん、とりあえず帰って作戦をしっかり考えよう」



 俺は踵を返して、カルト村を離れようとしたところ、少し離れた木影に子供たちが戯れているところを見つける。


 そこには男の子4人と女の子が1人いた。



「薄汚い魔女が!さっさと村から消えろ!」


「ごめんなさい、ごめんなさい」


「気色悪いんだよ、その白い髪!!」


「うぅ……うぅ……」


「なぁ、いっそのこと、切ったほうがいいんじゃね?」



 いじめ現場を目撃するクラウン・アルドリヒ。


 こ、これは幼馴染をいじめから救うイベント!きちゃぁ―――!!


 世界でも珍しい真っ白な髪を持つがゆえに魔女と罵られ、いじめられる幼馴染カナを主人公ケインがボコボコになりながら、なんとか助けて、最後に。



『英雄は逃げたりしないから。それにカナの髪はすごくきれいだから、汚れてほしくないんだ』



 と決め台詞を決め、のちにハーレムの一員になる展開!


 俺がカルト村に来たことでこのイベントは起こらないと思っていたが、まさこうして出くわすとはこれはチャンスだ。


 本来はここで主人公ケインがたすけるのだが。


 頂くぞ、このイベント!!



「ふふっ」



 俺は優雅に歩きながら男の子4人組の後ろに立った。



「おい、お前ら弱い者いじめか?」


「な、なんだお前は?」


「俺がわからないのか?所詮は世間を知らない平民だな。いや、弱い者いじめをする時点で平民以下か。そうだな、しょうがないから俺がお前らに立派な身分を与えてやるよ。そこらへんの石ころってな」



 煽るような口調で相手を挑発すると。



「お、俺たちを石ころだと!?見たことねぇ顔だが、ボコボコにしてやる!!お前ら!!!」



 いじめていた4人組が逃げられないよう囲んでくる。


 幼稚な考えだな。まあ、まだ幼いし、しょうがないか。


 だが、こうしてみると、力のない平民以下が群れる姿はなんというか可愛い犬のように見えるな。



「おいおい、一人に対して数人がかりか?卑怯者だな~」


「うるせぇ!一人で突っかかってきたのが悪いんだ!」


「ここは男らしくお前ひとりでかかってこいよ、群れることでしか力を誇示できない石ころさん」


「かぁぁぁぁ!許さねぇ、お前だけは絶対に許さねぇ!やっちまえっ!!ボッコンボッコンにしちまぇ!!」



 俺を取り囲んでいた男3人が両こぶしを強く握りしめながら襲い掛かる。


 遅い、遅すぎる!


 俺は難なくとかわしながら、一人目を背負い投げで地面にたたきつけ、その流れでもう一人に鋭い足蹴りをくらわした。



「ば、化け物がぁぁぁっ!!!」


「おっと」



 清々しい表情を浮かべながら片手で相手の拳を捕まえる。



「おいおい、声を張れば強くなるとでも思ってるのか?」


「この…………うぅ、いて、いてててててて、痛い痛い痛い!はっ離してくれ!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 ミシミシっと捕まえた拳を果実を搾るように強く握りしめる。


 ここまで力の差があるとつまらないな。



「お前は大人しく寝てろ」


「ぐはぁ!?」



 鋭い膝蹴りをストレートに腹のど真ん中に決めると、泡吹いて倒れた。



「あとはお前だけだな。口だけの石ころさん」


「そ、そんなバカな3人相手だぞ!」


「ふふふっ、最後のメインディッシュといこうか。そうだな、一本ぐらい折るか?」


「ひぃぃぃぃ!!」



 悪魔を見るような目で向けてくるこの男は絶望的な表情を全面に出して、一歩下がった。



「おいおい、逃げるのかよ。やっぱり、所詮は平民以下の石ころだな」


「くぅ、なめやがって、誰が石ころだっ!!!」



 あ~あ、完全に血がのぼって冷静な判断ができなくなってるな。


 俺は無防備な腹を捉え、鋭いストレートパンチを繰り出した。



「ぐへぇ!?」



 思いっきり殴られ、カナの後ろにある木に背中を強くぶつけ、気絶した。



「無謀とはいえ、立ち向かったことは褒めてやる。すまなかったな、お前は石ころじゃない、平民だったって気絶しているのか。情けないな」



 いじめっ子を退治した後、ふとカナと目が合った。


 こうして、見るとめっちゃきれいだな。本当に同い年か?


 整ったきれいな顔立ち、腰まで伸びる白く輝く髪。細身で胸はそこまでないのに変にそそられる体つき。


 まるで絵画から出てきたかのような見た目をしている。



「俺が怖いか」



 と緊張ほぐしに言ってみるとカナは涙目になりながら体を震わせた。


 やっぱり、このイベントは俺には向いていないな。助けても怖がられるだけだし、これじゃあ、好感度を上げるどころか、下がるばかりだ。


 仕方がない。最後に主人公ぽいセリフを言って立ち去ろう。


 俺は怖がるカナに近づき、目線を合わせるようにひざを折った。



「怖がるのは無理もない。だが、これだけは忘れるな。

今のお前じゃ、またいじめられるだけだし、今日みたいに都合よく助けてくれる人がいるとは限らない。

だから、自分の身ぐらい自分で守れるようにしておけ」


「え…………」


「あと、お前の髪のこと、あいつらは気色悪いなのなんなの言っていたが、俺はきれいだと思うぞ。だから、気にするな」



 言いたいことを言い終えると俺は立ち上がり、最後に。



「じゃあな」



 と言ってカナに背を向けた。


 これで幼馴染をいじめから救うイベントは終了だ。



「あ、あの、名前を聞いてもいいですか?」


「…………クラウン。クラウン・アルドリヒだ。覚えなくていいぞ」


 

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