第10話 少年と少女は語り合う
どちらが先に話すか相談した結果、レシーナから自分の思い出話をしてくれることになった。
「私は、ウルフェンベルク公爵、今は義理のお父さんだけど、ウルフェンベルク公爵の領地に引っ越してから、領内で一番大きい街にある学校に通いながら魔法を教えてもらったの」
「ウルフェンベルク公爵とは、また大物が目をつけたもんだな」
「うん、なんか天職【魔法師】っていうのはこれまでの記録にもいないらしくてさ。すごく貴重だってことで公爵が手を上げたみたい。今思い返せば、多分大貴族同士でバチバチにやり合ってたんだろうけど」
まあそれはそうだろう。
有力な人物を容姿に加えたり庇護下に入れたりすることは、そのままその家の勢力の拡大に繋がる。
レシーナは当時の爺さんに魔法を学んでいるときも優秀だったし、そこに天職が加わればどれほど伸びたかは想像に難くない。
「ウルフェンベルク家への養子入りはいつしたんだ?」
「引っ越してすぐの頃からだね。お父さんとお母さんにも気を使ってくれて、屋敷で雇ってくれるって言われたから喜んでとびついたの。2人とも大変そうにしてたけど、ずっと農民してるよりはお金も貰えるし、生活は楽になったみたい。今も領地で働いてると思うよ」
この両親に仕事を斡旋したり手元に置いておくのは、養子に迎え入れた相手に対する人質的な意味合いもあるのだろうが。
そのあたりはレシーナも察しているだろうから特に口を挟まず、俺は彼女の話に集中する。
「学校の中でも特に貴族とか商人の子供が集まるクラスにいったから、最初はついていくの大変だったな。グスタフさんのおかげで文字が読めたのは良かったけど、何もかもが初めてだったし。特に行儀作法を覚えるのが大変だった」
「ああ、それは確かに大変だった」
「でしょ? でまあそうやって、15歳の魔法学院中等科の試験までに最低限の事を叩き込まれて。その後は魔法学院に通って今に至る、って感じかな」
「その魔法学院の話とか結構聞きたいんだけどな」
「まあそれは後で話すよ。だからマリウスも、概要だけで良いから、どんな生活をしてきたのか、教えてくれない?」
ウルフェンベルク領での学院での話や魔法学院でのレシーナの活躍等もっと聞きたかったが、先に俺にも話してほしいと言うならば仕方ない。
「取り敢えず細かいことは気にしないでざっと話せば良いんだな?」
「うん。で、その後細かいことは話そ? じゃないとあれやこれや話してたら話が進まなくなっちゃうから」
「わかった。取り敢えずレシーナがいなくなった後はしばらくは屍になってたな」
「本当にごめんなさい」
俺がツッコミどころを作ると、レシーナがさっと反応してくれる。
ああ、この掛け合いの速度感が心地よい。
子供の頃のレシーナとの会話を思い出す。
「嘘だ。いや嘘では無いけど気にしてないから。その後偶然魔法陣っていうのを見つけて」
「魔法陣って、100年以上前に廃れたっていうあの魔法陣?」
どうやらレシーナも多少ながら知っているらしい。
これは全く系統の違う魔法使いだが魔法談義が出来る可能性があるかもしれない。
「多分その廃れた魔法陣だ。で、俺は【画家】だったから、その魔法陣に惹かれてな。そこでグスタフ爺さんに相談してみたんだ。そしたら爺さんが東にあるアルザイムまで連れて行ってくれて、そこで何年か勉強してた」
「アルザイムって、本と学徒の街だっけ。蔵書数は王都よりも多いっていう」
「ああ。爺さん本人は魔法陣を人に教えられるほどに詳しくはないけど、そこに行けば資料があるはずだって言ってな。そんでそこから数年蔵書を漁りながら研究してたんだ。で、その後は実戦で自分の力を試してみようと魔物の森に住んでたら兄に『魔法学院の高等科に行って来い』って言われて来たらこうなった」
本当のところを言えば、俺はまだまだ学習不足の身である。
アルザイムは流石『本の街』として国中に名が轟くだけあって、過去の古い書籍なんかも大量に保管されている。
だから俺が数年かけて漁ったところで、まだ読むべきものの半数も読み切れてはいないのだ。
まあ俺の場合はそこから自分なりに洗練させる時間を取ったので、更に本を読むための時間は短くなっていたのだが。
「なるほど……あれ、というか結局マリウスって魔法使えるようになったの?」
「いや、普通の使い方は今も出来ないぞ」
「じゃあどうやって?」
どうやって魔法を使っているのか、という問いだろう。
「俺の天職って【画家】なんだが、画家って絵を描くものだろ? そしてその絵の中には魔法陣みたいな紋様とか図形も含まれる」
「でも魔法陣が書けたとしても、魔力が無いんじゃ」
その質問に答える代わりに、俺は自分の目の前に魔法陣を描写する。
「まさか、それ、魔力で魔法陣を書いてるの?」
「天職のおかげだな。筆と絵の具が無ければ絵が書けない、なんて常識を【画家】の能力は飛び越えるらしい。最初の頃、何も絵の具とかない状態で描けないのか、って【画家】の可能性を模索したくて色々やってな。その中で気付いた」
「魔力で空中に魔法陣を描いて魔法を発動させるって……マリウスはチート持ちだった?」
「なんだチートって」
ああ、この偶によくわからない言葉を言い出すのも懐かしい。
話せば話す程に、レシーナとの思い出が蘇ってくる。
「あー、今のは忘れて。でもまさかそんな【画家】なんて天職でそんなことが出来るとは思ってなかったよ」
「よく考えたら、うちの親父だって火がないところでも鉄を熱せたり、逆に水が無くても金属を冷やしたりしてたからな。天職はそういう『普通の人なら出来ないこと』が出来るんじゃないかと思ったんだ。だから、こんなことも出来るぞ」
そう言って、今度はレシーナの隣に魔力ではなく普通に俺の姿をもう1人描写する。
まあ俺を描写すると言っても、俺の能力は基本的に平面、あって円柱のような曲面に絵を描いているだけなので、見る角度が変わってしまえば絵だとはっきりわかる程度のものでしかないのだが。
「すごっ、えじゃあ想像した事を何でも空中に映し出せるの?」
「大体はな。最初から出来てたわけじゃないぞ。絵を描く練習も相当やったんだ」
「いや、うん。それはわかるよ。だってこの絵のマリウス、本当に本人にしか見えないもん。角度変えるとぜんぜん違うってわかるけど」
「ま、あくまで円柱の側面みたいな曲面に描いたイメージのもんだからな。角度が変われば絵の形も崩れる」
流石にずっと出しっぱなしはあれなので、自分で描いた絵を消す。
「あ、消えた」
「それより、魔法学院の中等科ってどんな感じだったのか教えてくれ。俺学校なんて言ってないから、興味があるんだ」
「良いけど、私にもアルザイムのこと教えてよ? 私まだ言ったこと無いんだから」
「はいはい。先に話してくれたらな」
その後の移動時間も、俺とレシーナはこうやって互いの思い出を言葉にしながらずっと話していた。
昔の親友のような幼馴染のような距離感で話すことが出来る。
そんな相手に互いが戻っていることにも気づかずに、長年溜まっていたものを吐き出すかのように、話を続けるのだった。
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手元で14話で完結したので、土曜日2話、日曜日3話で完結まで投稿します。
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