第263話 引退式③

 お菓子を食べたり飲んだりしながら、先輩達は一人一人と話していく。俺のところに雪乃先輩が来た。


「櫻井君と二人で話すのって初めてかもね」


「そうかもしれないですね」


 俺はいつも陽春と一緒だし、雪乃先輩はいつも三上先輩と一緒だからな。


「櫻井君には陽春ちゃんのことをよろしく頼むのはもちろんなんだけど……みんなのことをお願いしたいな」


「みんなですか」


「うん。陽春ちゃんと一緒に部の全体を見て、困っている人が居たら助けて欲しい」


「わ、わかりました」


 そう言うと雪乃先輩は急に小声になった。


「特に冬美ね。ちょっと心配なの。あの子は素直になれないから味方が少ないのよね。一番力になれるのは櫻井君じゃないかと私は思ってるから」


「そ、そうですか」


 そういえば、冬美さんにもいろいろ話すかも知れないって言われたな。


「わかりました。俺でよければ力になります」


「ありがとう、よろしくね」


 そう言って離れていった。そこに後藤先輩が来た。


「櫻井、飲んでるか?」


「いや、お酒じゃ無いですし。飲んでるか、っておかしいでしょ」


「お酒のつもりで飲めばいいんだよ」


「どういうことかよくわかりません」


「ハハ、お前は真面目だな。そういうところがモテるんだろうな」


「いや、女子と話したのって今年が初めてぐらいですよ」


「そうなのか? でも、立夏は去年からだろ」


「話したのは傘を貸したときぐらいですね」


「そうなのか。しっかし、浜辺がお前と付き合うとはなあ。前にも言ったけど、ほんと驚いたぞ」


「そうなんですね」


「ああ。恋愛する感じのキャラじゃ無かったからな」


「まあ、それはそうですね」


「俺たち三年はみんな浜辺には感謝してるし、浜辺のことを妹みたいに大事に思ってる。だから、浜辺を泣かせたら承知しないからな。大事にしろよ」


「わ、わかりました」


「それと……これから、いろいろ相談するかもしれん。特にお前と浜辺には」


 おそらく、立夏さん関連かな。


「いいですよ、いつでも」


「そ、そうか。そのときはよろしくな」


 そう言って、今度は不知火に話しかけていた。陽春は冬美さんと何か盛り上がっているようで、俺は一人になる。そこに、上野さんが来た。


「櫻井先輩、これからは2年と1年だけですね」


「そうだな。寂しくなるな」


「でも、櫻井先輩ともっと仲良くなれるチャンスかなとは思ってますよ」


「上野さん、もうそうやって俺をからかうのはやめたほうがいいんじゃないか、不知火も居るんだし」


 既に二人はつきあい始めたのだ。今まではフリーだったから俺とつきあいたいとか言って、からかっても冗談で済ませられるが、これからはそうはいかないだろう。


「え、からかってないですよ」


「いや、もうそういうところだよ」


「最初からずっと本気だったんですけどね」


「また、そういう――」


「流石に今は私も相手が居ますから本気じゃ無いですけど」


「上野さんは陽春をからかうのが目的だろ?」


「それももちろんありますけど、あわよくばってのも少し……」


「またまた」


「だって、櫻井先輩がタイプなのは本当に本当ですから。陽春先輩がうらやましいです」


「俺をからかっても何も出ないからな」


「今後は本気じゃ無いですから、先輩後輩としてよろしくお願いします」


「ずっと本気じゃ無かったと思うけどね。でも、今後もよろしくな」


 そこに陽春が来た。


「雫ちゃん、和人と何話してたの?」


「これからもよろしくお願いします、って話です」


「そうなんだ。ウチもよろしく!」


「陽春先輩は当然です。一生私と付き合ってもらいますから」


「もちろん!」


 陽春も嬉しそうだ。

 そのとき、雪乃先輩の声が響いた。


「はい、名残惜しいですが、そろそろ時間です。最後に、新部長と新副部長から挨拶してもらいます!」


 そう雪乃先輩が言うと先輩達が拍手した。俺たちも拍手する。


「じゃあ、冬美から!」


 雪乃先輩がここは仕切るようだ。冬美さんが立ち上がった。


「えー、正直、私が副部長なんてやれるかな、とも思ったんですが、お姉ちゃんのあとを継ぎたいって思い、やることにしました。それに、立夏が部長なので、それなら私が一番適任でしょうし。しっかり、立夏を支えて頑張っていくので、みんなよろしく」


 最後はぶっきらぼうだが、冬美さんは頭を下げた。それにみんなが拍手した。


「じゃあ、最後は立夏ちゃん!」


 雪乃先輩がそう言うと、立夏さんが立ち上がった。


「今でも自分が部長にふさわしいかは疑問ですが、先輩方のご氏名なので、部長をやらせていただきます。不安はありますが、副部長が冬美ですし、陽春ちゃんも居ますから安心しています」


「まかせて!」


 陽春が言って、みんなが笑った。


「ありがとう、陽春ちゃん。先輩達が作った文芸部を今後も盛り上げていけるように、精一杯頑張りますので、みなさん、よろしくお願いします」


 そう言って、頭を下げる。みんなが拍手した。


「では、引退式の最後に先輩達に花を贈ります」


 冬美さんが部室の外に出て花を持ってきた。いつの間にか部室のすぐ外に用意して置いたようだ。さすがだ。


「私は後藤先輩に、冬美が雪乃先輩に、三上部長には陽春ちゃんが渡して」


「ウチ!?」


「そうよ。部長に渡すには陽春ちゃんが一番適任でしょ」


「う、うぅ……和人も一緒に渡そう」


「いや、俺は……」


 だが、陽春は泣きじゃくっており、これは一人では心配だ。俺も一緒に花を受け取り三上先輩の前に立った。


「じゃあ、渡しましょ。ありがとうございました」


「「ありがとうございました!」」


 みんな声が響く。雪乃さんはもうとっくに泣いていたが、三上先輩と後藤先輩の目にも涙があった。


「こちらこそ、ありがとうな」


 三上先輩は小さい声で言った。


「うわーん!」


 陽春が泣いて先輩達全員に抱きついていく。みんなが陽春を抱えるように囲んだ。


「陽春ちゃん、ありがとう」

「浜辺、頑張ったな」

「浜辺、ありがとう」


 こうして、引退式は終わった。




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※文化祭までで一区切りを予定していましたので、明日でいったん更新をお休みしたいと思います。






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