第261話 引退式①

 そして、放課後になり、陽春が俺の席に来た。


「和人、買い物行こう!」


「だな」


 俺たちは飲み物を買って部室に行くことになっている。まずは学校の外に出て、コンビニで飲み物を買った。そして、大急ぎで部室に向かう。


「浜辺陽春。櫻井和人、入ります!」


 俺たちが入ったときにはもう部員は全員揃っていた。そして、いつもと違う雰囲気だ。テーブルの上にはお菓子が所狭しと並んでいる。


「おー! すごいね! 飲み物も用意しよう!」


 俺たちは買ってきた飲み物をみんなについだ。


「よし、全員揃ったな」


 三上部長が言う。


「と、言ってしまったが、今日からは部長は立夏さんだったな」


「はい、そうですよ、部長。あ、私が部長か」


 立夏さんもまだ部長に慣れていないようだ。


「これからは三上先輩、ですね」


「そうだな」


「はい、じゃあ、みんな、そろそろ始めましょうか。席についてね」


 立夏さんが仕切り始めた。


「では、引退式を始めます。じゃあ、まずは雪乃先輩、挨拶をお願いします」


 雪乃先輩が立ち上がった。


「後輩の皆さん、わざわざ引退式を開いてもらい、ありがとうございます。文芸部ではいろんな思い出が出来ました。みんなのおかげです。特に陽春ちゃん、3年間、ありがとうね」


「う、うぅ……ひっく……」


 それを聞いて陽春は涙腺が崩壊したようだ。俺はハンカチを差し出した。


「そして、冬美。文芸部に入ってくれてありがとう」


「ちょっと遅かったけどね」


「いいのよ。嫌がってたもんね。でも、最後は一緒に過ごせてほんとに楽しかった。感謝してます」


「そ、そんなこと、言わないでよ……」


 冬美さんも涙腺に来ているようだ。


「ほんとに楽しい部活でした。また遊びに来ますね。以上です」


 みんなの拍手が響いた。


「では、次は後藤先輩お願いします」


 後藤先輩が立ち上がった。


「あー、俺は3年と言っても浜辺より活動期間は短いからな。あまり言うことは無い。でも、いろいろあったことは確かだ。ここは俺の青春だったんだろうな」


 そう言って雪乃先輩を見た。雪乃先輩は目を合わせなかった。


「途中、部活に来なかったことを今は少し後悔している。だから、お前達は後悔しないように、精一杯、活動しろよ。以上だ」


 また、みんなの拍手が響いた。さらに陽春は泣き出している。こりゃティッシュも一枚や二枚じゃ足りないな。


「では、最後に三上先輩。お願いします」


 立夏さんの言葉に三上部長が立ち上がった。


「うーん、そうだな……正直言って、俺が部長としてやっていけるとは思っていなかった。後藤の方がリーダーシップはあると思ってたし」


「マジかよ」


 後藤先輩が驚いていた。


「雪乃の方が文才はあるし、コミュニケーション能力も高い。だから、俺には部長は務まらないと思ったが、前の部長のご氏名だし、最初は仕方無く始めた。部員も少なかったしな」


 確かに後藤先輩が来なくなってからは三人だったんだし。


「人数が増えてからも、あまり部長らしいことは出来なかったと思う。その点はお詫びしたい」


「そんなことないですよ!」


 陽春が言った。


「そうか? そう思ってくれるなら嬉しいな。新部長は俺よりもうまくやれると思う。それに支えてくれる冬美さん、浜辺、櫻井もいる。きっと、いい部活になると思う。俺は来年、文化祭に来るのを楽しみにしてるからな」


「是非来てください!」


 また、陽春が言った。


「おう。必ずな。さて、最後に元部長の最後の仕事だ。全員にプレゼントがある」


「え!?」


 陽春が驚いている。ということは例年やっていることでは無いようだ。三上先輩の発案か。やっぱり、この人は部長らしいと俺は思う。


「みんなに本のプレゼントだ。俺からは櫻井と不知火に、雪乃からは冬美さんと雫ちゃんに、後藤からは立夏さんと浜辺に本を送る」


 そう言うと先輩達は本を取り出し、それぞれ送る人に近づいた。三上先輩が俺のそばにやってきた。


「俺から櫻井に本を送るならSFしかないよな」


「そうですね」


「櫻井は海外SFはよく読んでいるようだから国内作家のSFだ。とっておきだぞ」


 そう言って文庫本を取り出した。


「『つばき、時跳び』……」


「そう、梶尾真治の小説だ。読んだか?」


「いえ、読んでないですね」


「そうか。梶尾真治は知ってるだろ? 熊本出身のSF作家だ」


「ですね。俺の家の近所に住んでるらしいと聞いたことはありました」


「そうなのか。だったら、読まないと。これは特に面白いぞ。それに……著者サイン入りだ」


 そう言って表紙をめくる。確かにサインが入っていた。


「え、いいんですか? こんな貴重なものを……」


「俺はサイン入りを二冊持ってるからな」


「す、すごいですね」


「まあな。今後は梶尾真治のSFも読んでみるんだな。面白いぞ」


「分かりました。ありがとうございます!」


 とんでもないお宝をいただいた。

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