第260話 最終日
代休の月曜が終わり、10月になった。この日で三年生は部活を去ることになる。朝、教室で座っていると、陽春が入ってきた。だが、いつもような元気が無い。
「おはよう……ウチの彼氏……」
「おはよう、俺の彼女。陽春、元気無いな」
「だって! うぅ……」
泣きそうになる陽春の頭をなでる。
「今日で最後なんだから笑顔で見送らないとな」
「うん……」
そこに立夏さんと冬美さんが入ってきた。
「おはよう、陽春ちゃん、和人くん」
「うぅ……立夏ちゃん!」
陽春が立夏さんに抱きついた。
「もう……別に今生の別れってわけじゃ無いんだから」
冬美さんが言う。
「でも、陽春ちゃんの気持ちも分かるけどね。だから、盛大にお祝いしよう」
立夏さんが言う。
「うん……」
「私たちの担当した物は部室に置いてきたから。放課後はお願いね」
今日は引退式でお菓子やジュースでお祝いする。立夏さんと冬美さんはお菓子、俺たちは飲み物担当だ。でも、冷えたものがいいので、放課後に近くのコンビニで買ってくることになっていた。
「うん! 全速力で行ってくる!」
陽春が元気に答えた。それにしても先輩たちとの部活も最後か。実感湧かないな。
◇◇◇
昼休みになると俺と陽春はすぐに職員室に向かった。部室の鍵をもらうためだ。今日から昼休みの部室の鍵担当は俺たちになった。急いで職員室に向かうと、その前に三年生が居た。
「あれ? 三上部長と雪乃師匠!」
「おう、来たか。最初だからいろいろ教えておこうと思ってな」
「ありがとうございます!」
俺たちは4人で職員室に入る。そして、鍵を受け取る方法を教わり、一緒に部室に向かった。
「これからも俺たちは来るからよろしくな」
「もちろんです!」
三上部長の言葉に陽春も嬉しそうだ。
「でも、放課後はもう部室には来ないから陽春ちゃん達に譲るね」
「は、はい……」
雪乃師匠の言葉に陽春が何か緊張したように応えた。
「あんまりハメは外しちゃだめよ」
「わ、わかってます! 気を付けます!」
陽春……何に気を付けるんだ。
俺たちが部室前に来るとすでに達樹と笹川さんが居た。
「あ、部長! 今日で部活最後っすか?」
達樹が軽く言う。
「そうだな。でも、昼は来るから」
「じゃあ、俺たちとは何も変わらないですね」
達樹の軽口がしんみりさせないから今日はありがたいな。
俺たちは部室に入り、いつもの席に着いた。
しばらくは和気藹々とみんなでいつものように話していた。だが、三上部長と雪乃先輩が荷物を片付け出す。
「あれ? 放課後もあるのにもう片付けるんですか?」
陽春が言う。
「ちょっと荷物が多いから。先に少しでも済ませて置こうって思って」
「そうなんですね……う、うぅ……」
それを機に陽春が泣き出してしまった。そこに雪乃先輩が来て陽春を抱きしめ、頭をなでだす。だが、こうなると陽春は長いからなあ。なかなか泣き止まなかった。
どうしたものか……そう思ったときだった。
「上野雫、不知火洋介、入ります」
上野さんの声が響いて、二人が入ってきた。
「あ、やっぱり陽春先輩、泣いてましたね」
「だって……」
「今そんなに泣いてたら卒業の時は大変でしょうね」
「そ、卒業! う、うわーん……」
陽春がさらに泣き出す。
「陽春ちゃん、まだ先だから。今はまだ居るからね。この時間を大事にしよう」
「そ、そうですね。うん……泣いてちゃダメか」
ようやく、陽春は泣き止んできた。
「……で、雫ちゃんは何か用があったの?」
確かに上野さんが昼休みに部室に来るのは珍しい。
「いえ、たぶん陽春先輩が号泣してるだろうから見に行こうって……不知火が言ったんで」
「はあ? 俺、言ってないし!」
「えー! 不知火君、そんなこと言ったの!?」
「言ってないですから。し……う、上野さん。なんてことを……」
「ふふ、ちょっと嘘ついちゃいました。言ったのは私です」
上野さんがにやっと笑った。
「まったく……」
そう言う陽春はもう完全に泣き止んだようだ。上野さん、陽春が泣き出して俺たちが困っていることを予想してきてくれたんだろうな。
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