第249話 文化祭1日目①
いよいよ今日は文化祭だ。朝からは体育館に全校生徒が集まった。生徒会長の滝沢が壇上に立って文化祭の開会を宣言する。その後、生徒達はそれぞれの持ち場に移動した。
午前中は俺と陽春は文芸部の担当だ。早速、文芸部の会場に移動する。
すると、三上部長が来ていた。
「あれ? 部長来てたんですか」
「最初にいろいろ伝えておこうと思ってな。まず、これに売上を書いてくれ。それからこっちには来場人数を……」
いろいろやることを教えてくれた。
「分かりました! じゃあ、あとは部誌を売るだけですね!」
「そうだな。でも、なかなか売れないぞ。50部あるから、部員の分と顧問の分を引くとあと40部。完売を目指そうな」
「はい!」
三上部長は去って行った。
「さて、ここで座って客を待つか」
俺と陽春は椅子に座り、来客を待った。だが、まったく来る気配が無い。
「和人、暇だねえ」
「だな。完売は難しいかも」
「うん、厳しいねえ。午後はマーダーミステリーがあるから人は増えるとは思うけど」
「マーダーミステリーが無かったらやばかったな」
「まだ来てくれるかは分からないから。一応、不知火君と後藤先輩がチラシを配ってくれてるらしいけど」
「そうなんだ」
「でも、誰も来ないねえ」
最初の三〇分は何も起こらずに過ぎていった。陽春は退屈なのか、窓から外を眺めている。
「暇だ!」
陽春がそういったときに人が入ってきた。
「あ、いらっしゃい! って、理子か……」
入ってきたのは笹川さんだ。
「そうよ。部誌を買いに来たわよ」
「小林君は?」
「クラスのカフェで接客中。私は他の人の着替えを手伝って抜け出してきた。でも、すぐ戻らないと」
「そうなんだ。で、何冊買う?」
「じゃあ、二冊ちょうだい」
「毎度あり!」
「ほんと、毎度よね。去年も買ったんだから」
「ありがたいよ」
そんな話をしていると、また来客があった。
「いらっしゃい! って、なんで今来るかなあ……」
そこに入ってきたのは滝沢生徒会長だ。
「なんでって、生徒会の見回りだからな。って、理子も来てたのか」
「……いい加減、名前で呼ばないでよね」
「ごめん。いつまでも抜けなくて……」
「心の中で理子と呼んでるからでしょ。笹川さんに変えといて」
「そ、そうだな。笹川さんは暇なのか? だったら俺と……」
「暇なわけ無いし、滝沢君と一緒にまわるわけ無いでしょ」
「そ、そうだよな……」
「じゃあ、私は教室に帰ってるから」
笹川さんは出て行った。
「滝沢君、未練あるんだ……」
陽春が容赦なく言う。
「……そんなわけないだろ。俺は生徒会長だぞ」
「そっか……ん? それって、関係ないよね……生徒会長だって、ただの男子でしょ?」
「……まあそうだな」
「で、生徒会の見回りに来たんだっけ?」
「……そうだった。一応、確認するけど、ここはシンプルで問題無さそうだな。じゃあ、部誌を一部もらうよ」
「毎度あり! 去年も買ってくれたっけ?」
「理子と一緒に来たよ」
「理子じゃ無くて、笹川さんでしょ」
「そ、そうだった……それにしても去年と立場逆転だな。俺が独り身で浜辺さんが彼氏持ちか」
「まあね!」
そう言って俺の腕に抱きついてきた。
「うらやましかったら、滝沢君も彼女作ったら? 近くにいい人居るでしょ?」
「……居ないよ」
「間があった気がしたけど?」
「言いたいことは分かるけど、俺は彼女を作る気は無いから」
陽春が言いたいのは川中美咲のことか。
「さっさとくっついてくれないとウチもいろいろ迷惑してるんだよねえ……」
「そうなんだ……」
「うん、だからさっさと――」
「会長! ここでしたか」
そこに声がして入ってきたのはその川中美咲だった。
「まだ全然見回りが終わっていないので、急がないとスケジュールに遅れが出ます」
完全に書記モードの川中美咲が冷たい口調で言う。
「わ、わかった。じゃあ、浜辺さん。俺は行くから……」
「はーい、美咲ちゃんも頑張って!」
「あ、ありがとうございます! 陽春先輩も和人先輩もお疲れ様です。さあ、会長、行きましょう」
そう言って会長の手を取る。
「お、おい……手はまずいだろ」
「あ、すみません……」
手を離して二人は出て行った。
「……美咲ちゃん、せっかく来たんだから部誌は買っていって欲しかったなあ」
陽春がぽつんと言った。
それからは客は来なかったが、しばらくすると、女子が一人入ってきた。
「あ、いらっしゃいませ!」
長い黒髪で、どこかで見たことがあるような……
「あの……一冊ください」
「ありがとうございます!」
陽春が本を渡し、俺がお金を受け取った。だが、その女子は帰ろうとしない。
「あの……浜辺先輩にちょっと聞きたいことがあって」
その女子は陽春の名前を知っていたようだ。
「え、ウチに? 何かな?」
「文芸部に上野さんと不知火君、所属してますよね?」
「うん、そうだよ」
「二人って付き合ってます?」
「え? 付き合ってないよ」
「ほんとですか? 浜辺先輩、いろいろ知ってるんですよね?」
「ほんとだよ、神に誓って付き合ってない」
「そ、そうですか。わかりました」
その女子は教室を出て行こうとした。そこで陽春が聞いた。
「あ、もしかして、中道さん?」
「え? どうして私のこと、知ってるんですか?」
そうだ、この女子は1年生の中道さんか。不知火たちと勉強会をたまにしてる子だ。
「不知火君と一緒に居るのを見かけたことあったから」
「そうですか。はい、私は
「うん! よろしくね。中道さんは不知火君と仲良くしたいの?」
「え、ええ……ていうか、既に仲良くさせていただいています。もう半分彼女みたいなものかも知れません」
「えっ!? じゃあ、デートとかしてるの?」
「いえ、そういうことはしてませんけど……教室では一番話してますので」
それで半分彼女という認識か。やばいやつだな。
「うーん、不知火君は違う認識だと思うよ」
「そうですかね。彼が上野さんを気にしているのは知ってますけど、付き合ってないと聞いて安心しました。やっぱり私のことが……」
「ん?」
「あ、いえ、今日はありがとうございました。またお目にかかると思いますので……」
「うん。じゃあね!」
中道さんは出て行った。
「なんか、思ったよりやばい感じだったね」
「だな」
不知火、気を付けた方がいいな。
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