第250話 文化祭1日目②
文芸部での俺たちの担当時間は12時まで。残り30分となったときに立夏さんが来た。ゴスロリ服のままだ。
「あ、立夏ちゃん! かわいい!」
「陽春ちゃん、ありがと。一応、新部長だし、どういう感じなのか見に来たわ」
「うーん、今のところ4冊売れた。残り36冊だね」
「結構厳しいわね……」
「でも、昼はマーダーミステリーもあるから人も集まるよ。見学も歓迎してるし」
「そうだといいけど……」
どれぐらい集客があるかは未知数だな。今日の文化祭は在校生のみで一般公開もしてないから厳しい。
そんな話をしていると三上部長と雪乃先輩が来た。
「あ、部長! 雪乃師匠!」
「陽春ちゃん、そろそろ交替よ。お昼食べてきてね」
「はい! 和人、行こうか」
「そうだな……立夏さんは?」
「私は新部長だし、しばらくここに居るわ。二人だけで楽しんできて」
「わかった」
本当に区切りは付けたようだな。俺と陽春は教室を出た。
「どこで食べようか……」
「確か外に焼きそばとかたこ焼きがあったはず……」
「じゃあ、そこ行こう!」
俺たちは校庭に出てみた。すると、そこには火を使う店がいくつも並んでいた。
「焼きそば食べたい!」
「じゃあ、そこ行くか」
俺たちは焼きそばに並んだ。
「焼きそば二つ!」
「あ、浜辺さん!」
たこ焼きを焼いている男子は陽春のことを知っているようだ。
「高木君か、久しぶりだね! あ、去年のクラスメイトだよ」
陽春が説明してくれた。
「浜辺さん、もしかして彼氏連れ?」
「うん!」
「え、否定しないんだ……」
「だって、彼氏だもん」
「うそー! 浜辺さんに彼氏だなんてショックだ……」
「出来ないって思ってたでしょ。ウチだってやればできるんだから!」
高木はそういう意味で言ったんじゃないと思うけどな。
「まあ、そりゃそうだよな……仕方ない、やけくそで増量してやる!」
「ありがとう!」
陽春のおかげで焼きそばが大盛りになった。
俺たちは校舎の影で焼きそばを食べたあと、再び文芸部の会場に戻った。13時からはマーダーミステリーの手伝いをしないといけないからだ。不知火と後藤先輩もマーダーミステリーの担当なのでここに来ていた。しかし、上野さんの舞台も13時からだからなあ……
マーダーミステリーの人数が集まらないと俺たちも参加しないといけないので上野さんの舞台が見られないことになる。
「たくさん集まるといいけど……」
文芸部の会場で不知火とともに待っていると次第に人が増えてきた。受付を後藤先輩がやっている。
「……これで6人だな。うん、もうマーダーミステリーはできるぞ」
「ということは、ウチらはよそに行っても大丈夫ですね?」
「ああ、大丈夫だ」
「よし! 和人、行こう!」
「そうだな」
「待ってください! 俺も行きます!」
不知火もついてきた。
俺たちは急いで演劇部の公演がある体育館に向かう。ちょうど幕が開けるときだった。
「はぁ……はぁ……間に合ったね」
「だな」
俺たちは最後列で「ロミオとジュリエット」を見始めた。
「……なかなか雫ちゃん出てこないね」
すぐにジュリエットは出てくると思ったが、意外に出てこない。風見部長が演じるロミオが登場し、「待て! 無用な争いを止めろ!」と言うと会場は「キャー!」と湧いた。女子に人気ある女子だな。かっこいいし。
しばらくするとようやく上野さん演じるジュリエットが登場した。当然ドレス姿だ。その登場に「上野さんだ」「やっぱりかわいい」「綺麗……」と少し会場がざわついた。しかし……
「フランカ、意地悪ね。そんなにはっきりと聞くものじゃないわ」
上野さんがセリフを言うと一気に静かになる。みんなが舞台に引き込まれていた。
そして、ロミオとジュリエットが出会う場面。「ロミオ!!」と言う声も感情が入っている。「あなたはどうして……ロミオなの……」 良く聞く台詞も上野さんの感情のこもった演技に、全く別のものに聞こえた。
舞台に引き込まれたまま、最後はジュリエットがロミオと共に倒れ、舞台は終わった。
幕が下り始めると、大きな拍手が鳴り響いた。再び演者が舞台に登場するとみんなスタンディングオベーションだ。上野さんは笑顔で歓声に応えていた。
「うう、ロミオ、ジュリエット……」
陽春はやっぱり泣いている。しかし、
「行こう」
俺が陽春に言い、俺と陽春は体育館裏から舞台袖に来ていた。
「雫ちゃん!」
陽春が上野さんを見つけて呼びかける。上野さんはドレス姿のままだ。
「あ、陽春先輩。どうでした?」
その話し方は本当にさっきまでジュリエットを演じていたとは思えないぐらい、いつもの上野さんだった。
「すごく良かったよ! 感動した!」
そう言って抱きしめる。
「……ドレス借り物ですから、汚したらまずいです」
「あ、そうか」
陽春は離れた。そして、上野さんは俺の方を向いた。
「櫻井先輩……どうでしたか?」
「俺もすごくよかったと思う。素直に感動したよ」
「そうですか。だったら良かったです。とりあえず、ほっとしてます」
そう言って上野さんは笑顔を見せた。
「さて、着替えるから部外者は出て行ってくれ」
風見部長が言う。
「あ、すみません!」
俺たちは体育館を裏から出た。
そして、文芸部の会場に戻る。そういえば、不知火はどこに行ったのだろう。文芸部の会場にも居なかった。
文芸部の会場ではマーダーミステリーの途中だ。かなりクライマックスらしい。俺たちは邪魔をしないように部誌を売っている立夏さんと冬美さんのところに来た。
「立夏ちゃん、あれから売れた?」
「……私の友達が来て5部売れたわ。それぐらいね」
「そっか……あと31冊か」
やがてマーダーミステリーが終わった。かなり満足してもらったようだ。
「面白かったです! 文芸部って面白いことやってますね」
参加者の一人が言う。
「そうだよ。部誌も面白いから買って!」
陽春が調子のいいことを言った。
「じゃあ、買います!」
陽春の言葉で6人全員が買い、残り25冊になった。ちょうど半分か。
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