第235話 部誌の納品
火曜日。朝、俺が席に着いていると陽春が登校してきた。
「おっはよう! ウチの彼氏。いよいよ、今日だね!」
「おはよう。俺の彼女。いよいよだな」
今日、部誌が納品される。そして、その中の雪乃先輩の小説で誰が部長か分かるのだ。
「おはよう、和人君。いよいよね」
そこに冬美さんと立夏さんがやってきた
「冬美さん、立夏ちゃん、お昼休み部室来る?」
陽春が尋ねる。お昼休みにもう判明してしまうのだろうか。
「ううん、お姉ちゃんの話だと午後に届くみたいだから。だから、部活で読むことになるわよ」
「そっか。放課後か……」
まだもう少し待たされるな。
◇◇◇
昼休み。いつものように文芸部の部室に向かう。
「浜辺陽春、櫻井和人、笹川理子、小林達樹、入ります!
陽春が扉を開けると、三上部長、雪乃先輩が居た。
「あれ? 後藤先輩は?」
「今日は休みよ」
「そうなんだ……部誌が届くのに」
「だからでしょ。自分の詩を後輩に読まれるのが恥ずかしいんじゃないの」
「だからって休むこと無いのに……誰が部長か気にならないのかな、って思ったけど後藤先輩は知ってるのか」
「そうよ。だから後藤君は特に部誌は楽しみじゃないのよ」
「そっか……ウチらは誰が部長なのかドキドキしてるのに」
「あ、今日分かるんだっけ」
笹川さんが言う。
「うん。そうだよ」
「楽しみだね。陽春が部長になったらどうする?」
「ウチが部長になったらね……とりあえず人狼する!」
「やっぱりそれか」
俺的には陽春の部長を予想しているがそうなるとなんか部の雰囲気変わりそうだな。
◇◇◇
いよいよ放課後になった。
「ウ、ウチの彼氏! 部活だよ……」
なんか最後は声が小さくなってたけど、陽春は緊張しているんだろうか。
「和人君、行きましょうか」
冬美さんと立夏さんもそばに来た。なんか、立夏さんも緊張しているようだな。冬美さんはいつも通りか。
「じゃあ、行くか」
俺たちは歩き出す。すると、立夏さんが珍しく俺の横に来て言った。
「和人君、部長になれるといいね」
「……俺自身はむしろなりたくないんだよね」
「そうなの?」
「うん。部長だといろんな会議とか出たり、顧問の先生とのコミュニケーションも必要だし。そういうのは苦手だから」
「そっか……じゃあ、陽春ちゃんが部長になって欲しいの?」
「俺的にはそうかな」
「そうなんだ……私は和人君が部長がいいと思ったんだけど」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね」
そして、部室の前に来た。
「浜辺陽春、櫻井和人、高井立夏、長崎冬美、入ります!」
陽春がそう言ってドアを開けた。中には三上部長、雪乃先輩が居た。
そして、テーブルの上には紙に包まれて部誌が積み重なっている。
「おー! これですね!」
陽春が早速手に取った。
「ウチのイラストが表紙になってて、嬉しい!」
「形になってるわねえ」
冬美さんもぱらぱらっとめくる。
そこに一年生たちも来た。
「上野雫、不知火洋介、入ります」
そして、部誌を手に取る。
「なんか実際に本になると違いますね」
不知火が言った。
「そうだろ。本の形というのはやはりいいよな」
三上部長が言う。
「今日は部誌を読むだけで終わりそうね」
雪乃先輩が言った。
「はい! 早速読みます!」
全員が部誌を読み出した。当然、まずは雪乃先輩のミステリー小説だ。タイトルは……
「少女探偵シズクの事件簿?」
「あの……もしかして私が主人公ですか?」
上野さんが雪乃さんに聞く。
「そうよ。一年生から探偵役を出すとしたらシズクちゃんでしょ」
「まあ、不知火よりは私ですけどね」
舞台はとある高校の文芸部の部室だ。そこにシズクが冷蔵庫に置いていたはずのシュークリームが無くなっている、誰が食べたのか、という話だった。なお、実際の部室には冷蔵庫は無い。
容疑者は、ハル、カズト、リッカ、フユミの4人。昼休みには部室の冷蔵庫にはシュークリームはあったので、放課後までの間に無くなっている。
シズクは4人のアリバイを調べようとする。まず、フユミは休み時間に教室から出なかったので、アリバイがあり、容疑者から除外された。
リッカは今日の鍵当番で、昼休みに部室の鍵を閉め、鍵はちゃんと昼休みの終わりに職員室に返していた。休み時間には教室から出ているが、それは職員室に質問に行っただけであって、質問を受けたサトウ先生の証言もあった。
(やはり、俺か陽春か……)
そして、カズトは、休み時間に文芸部の部室に本を取りに行ったが、鍵がかかっていて入れなかったと言う。
『ということは犯人はハル先輩、あなたですね!』
少女探偵シズクがハルを指さした。
(よし、このまま行けば陽春が部長だな)
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