第234話 農園

 翌日の朝。扉ががらっと開いたことで目が覚めた。


「あらー、同じベッドに寝ちゃったの?」


 亜紀さんだ。


「あ、おはようございます」


「ん……お姉ちゃん、勝手に入ってこないで」


「だって、どんな感じか気になったんだもん。もしかして最後までしちゃった?」


「してないから……ただ添い寝しただけ」


「そうなんだ。だって、昨日の夜はあんなにお楽しみだったのに」


「うるさい!」


 陽春がぬいぐるみを亜紀さんに投げつけ始めた。


「うわー、ごめん! ごめん!」


 亜紀さんは部屋を出て行った。


「もう……和人、ごめんね」


「いいよ。でも、もう起きないとな」


「うん」


 俺と陽春は起きてリビングに行く。浜辺家の朝食はトーストだ。


「もう達樹たち家出たって」


「そっか。早く準備しないと」


 俺たちは慌てて準備をした。


◇◇◇


 亜紀さんの車に乗り、熊本駅で達樹と笹川さんを拾って、バイトをしていたじいちゃんの家に着いた。


「久しぶり」


「おうおう、良く来たねえ」


 じいちゃんが家に迎えてくれる。


「はじめまして、和人の彼女をやらせてもらってます! 浜辺陽春です!」


 陽春が元気に挨拶した。


「はじめまして。小林達樹の彼女の笹川理子です」


 笹川さんも挨拶した。


「おうおう、二人とも思ったより可愛い子でびっくりだ。和人も達樹君もやるねえ」


「まあ、俺もびっくりしてるよ」


 俺は正直に言った。


「で、その人は?」


「あ、はじめまして。陽春の姉の亜紀です。今日は運転手ですので……」


 亜紀さんは少し恐縮しているようだ。


 俺たちは働いていた農園を陽春と笹川さんと亜紀さんにも見せたあと、用意してくれた食事にする。


「今日は美味しい物を用意してるから食べて行ってね」


 おばあちゃんが食事の準備をしながら言ってくれた。


 見るとテーブルにはお寿司やオードブルが広げられている。もちろん、ここで獲れたフルーツもいっぱいで、宴会のようだ。


「うわーすごい!」


 陽春は大喜びだ。


「どんどん食べてね」


「いっただきまーす!」

「「「「いただきます」」」」


 俺たちはすごく豪華な食事を味わいながら、じいちゃんたちとの話を楽しんだ。


「みんなはどうやって知り合ったんだい?」


「クラスメイトだよ」


「そうかい。で、なんで付き合うことに?」


 俺たちは顔を見合わせる。なんでだっけ……


「えーと、遊びに行ったら偶然会って、そこから仲良くなって……」


「和人はウチと同じ文芸部に入ってから仲良くなりました!」


 陽春が言う。俺と陽春はそうだよな。


「達樹は……私がバイトに行くのを送ってくれるようになってからかな」


「俺がとにかくアプローチしました!」


 達樹が言う。


「ほうほう、達樹君の努力が実った形かな」


「そうです!」


 まあ、そんな感じか。


「二人とも彼女とデートしたいからってバイト頑張ってたよ」


 じいちゃんが言う。


「その割にはたいしたものはもらってないような……」


 笹川さんが言った。


「それはこれからってことで……」


 達樹が言葉を濁す。


「あ、そうか。誕生日は楽しみにしておくね」


 そういえば、笹川さんの誕生日は来月か。


「いいなあ、ウチの誕生日まだ先だし……」


 陽春が言う。陽春は3月だもんな。


「誕生日に限らないだろ。クリスマスもあるからな」


 俺は言った。


「そっか……うん、わかった!」


 陽春は納得してくれたようだ。


「陽春、そんなおねだりしちゃダメよ」


 亜紀さんが言う。


「おねだりじゃないし! 勝手に期待してるだけだから。何でももらえれば嬉しいし……和人、無理しないでね」


「わかってるよ」


「それで、お姉さんの方は彼氏とかは居ないのかい?」


「あ、私は今は居ません」


「そうかい。べっぴんさんなのにねえ」


「アハハ」


 亜紀さんは笑ってごまかしていた。


◇◇◇


 達樹と笹川さんはバイトがあるので、お昼過ぎにはじいちゃんちをあとにした。


 俺と陽春と亜紀さんは家に戻る。


 午後は陽春の部屋でアニメを見て過ごした。陽春が俺に見せたいアニメをいろいろ見せてくれる。


 アニメを見ながら陽春がぽつりと言った。


「いよいよ明日だね」


「そうだな」


 明日は部誌が納品される。それで次期部長が分かるのだ。


「ウチは和人が部長だと思うな」


「俺は陽春が部長だと思うぞ。俺じゃありませんようにって祈ってるから」


「そうなの? ウチはウチでもまあいいかと思ってるけど」


「だから陽春がやるべきなんだよ」


「うーん、でも、やっぱり部長は大変だし。ウチにやれるかなあ」


「陽春ならやれると思うぞ」


「そうかなあ。まあ、どうしてもというならやってもいいかなあ」


 陽春はほんとは部長やりたそうだな。心の中で期待してそうだ。


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