第233話 お泊まり

 ようやく陽春の家についたときにはもう夕方だった。おれはすぐに陽春の部屋に行く。


「はぁ……やっと、邪魔されずイチャイチャできるね」


「そ、そうだな」


「和人……」


 そう言って陽春が抱きついてきたときだった。


「陽春! 夕飯の準備始めるわよ!」


 陽春のお母さんの声がした。


「えー! もう……少し、和人との時間ちょうだいよ!」


 陽春が大声で返す。


「じゃあ、10分ね」


「わかった!」


 そう言って、また抱きついてくる。


「10分しか無いから急ごう」


「急ごうって……」


「早く……」


 そう言ってキスをせがんでくる。なんかせかされているとムードが出ないな。そう思いながらも俺は陽春にキスをした。


 思ったより10分は長く、陽春も十分満足したようだ。


「和人はリビングでくつろいでて」


 そう言って陽春はキッチンに行った。


 俺がリビングに行くと、亜紀さんが居た。


「和人君、陽春を堪能した?」


「そ、そういう言い方はちょっと……」


「アハハ。でも、堪能したようね。よかったよかった」


「亜紀さん、明日はよろしくお願いします」


「うん! といってもすぐそこだけどね」


 明日は亜紀さんが運転し、おれのじいちゃんの家に行くことになっていた。達樹と笹川さんも乗せていく。達樹達はバイトもあるので、朝から行く予定だ。


「お姉ちゃんも夕飯の準備手伝ってよ!」


 陽春の声がした。


「えー! 私、お客様じゃないの?」


「お客様なわけないでしょ。自分の部屋もまだあるんだし」


 亜紀さんは一人暮らしを始めているが、部屋はそのまま残っている。お兄さんの季彦さんもそうだ。


「しょうがないか。和人君、またね」


 亜紀さんはキッチンに向かった。俺も手伝おうとしたが、俺はお客様だからとやっぱり手伝わせてもらえなかった。


◇◇◇


 食事が終わり、リビングでくつろぐ中、その時は来た。


「和人、先にお風呂入って」


「お、おう」


 陽春の家でお風呂。少し緊張する。俺はこういうのには慣れていない。なんとか、平常心で何も考えず湯船に入った。


「和人、湯加減はいい?」


 陽春が扉の外から聞いてくる。


「おう、大丈夫だぞ」


「ほんとに?」


 そう言って陽春が扉を開けてきた。


「うわ!」


 俺は慌てて背を向ける。


「アハハ。体洗ってあげようか」


「いいよ」


「遠慮しなくていいんだよ。彼女なんだから」


「分かってるけど……まだ心の準備が……」


「そうだよね。あ、一緒に入る?」


「入らないから。節度を持てって言われただろ」


「ちぇっ……まあ、しょうがないか。じゃあね」


 陽春は去って行った。


 俺が風呂から上がり、陽春が入る番になった。


「和人、覗いてもいいよ」


「覗かないから」


「え、和人君、覗かないの?」


 亜紀さんが言ってくる。


「じゃあ、亜紀さんは幸樹さんに覗かせたんですか?」


「そんなことするわけないじゃない」


「じゃあ、一緒です」


「そ、そっか……」


 なんとかやりこめたな。


 しばらくして陽春がお風呂から上がってきた。


「ふぅ、すっきりした」


 合宿の時にも見たけど、風呂上がりの陽春はいつもと違う感じがした。


「あれ? 和人どうしたの?」


「い、いや……」


「風呂上がりの陽春に見とれてたんだよ」


 亜紀さんが言う。


「え、そうなんだ……じゃあ、部屋行く?」


「そ、そうだな」


「うわあ、エッチ」と亜紀さんが言う。


「うるさい!」


 陽春がそう言って俺たちは陽春の部屋に行った。


 陽春の部屋に入ると、陽春はテレビを付けた。


「絶対、声聞かれるから。テレビで妨害」


「なるほど」


「じゃあ、始める?」


 そう言って陽春は抱きついてきた。


「和人……」


「陽春……」


 俺は陽春に夢中になったが何とか一線は越えないようにした。

 理性の限界が来そうになったとき、外から声がした。


「陽春、コーヒー飲む?」


 亜紀さんだ。


「もう……いいところなのに……」


「陽春、そろそろやめないといろいろやばい」


「そ、そっか……じゃあ、コーヒー入れてくるね」


 陽春は部屋を出てった。マジでやばかったな。


 部屋に帰ってきた陽春が言う。


「ふふ、和人も男の子だねえ」


「な、なんだよ」


「あんまりそういうのに興味ないのかなって思ってたんだけど……」


「そんなわけないだろ」


「そうなんだ。あー、今日いろいろあったけど、最後に満足!」


 陽春が良かったなら良かったか。


◇◇◇


「じゃあ、そろそろ寝ようか」


「そうだな……って、俺は陽春の部屋で寝るのか?」


「そうだよ」


「いや、まずいだろ」


「そうかな。雫ちゃんも菜月もここで寝てるよ」


「いや、俺は彼氏だし」


「でも、そういうことはしないんでしょ?」


「しないけど……」


「じゃあ、一緒じゃん。あ、和人がベッド使う?」


「使わないから。じゃあ、俺が布団で寝るか」


 俺は布団を敷いてそこに寝た。


「和人、おやすみ……」


「おやすみ、陽春……」


 寝ようとしてしばらくたったときだった。

 

「寝た?」


「寝てない」


「やっぱりね。目が冴えちゃって」


「俺もそうだな」


「ねえ、そういうことはしないけど……ちょっとだけ、こっちこない? お願い……」


 陽春がお願いというから行くしかないか。俺は陽春のベッドに入った。


「ふふ、和人近い」


「そうだな」


「和人を抱き枕にしていい?」


「いいぞ」


「うん」


 陽春が俺を後ろから抱きしめる。俺はじっとしていた。しばらくしたら陽春の寝息が聞こえてきた。


 うーむ、これは俺もこのまま寝るしか無いか。

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