第232話 偶然の出会い
川中美咲が帰ったあと、俺たちは陽春の家に行くことにした。
「なんか、邪魔された感じがしてスッキリしない。ウチの部屋で仕切り直すから」
陽春はやっぱり少し不機嫌だな。
「そうしよう。陽春、行こうか」
俺は荷物を持って陽春と一緒にバスに乗り、熊本駅まで向かった。
駅ビルの前で陽春が言った。
「あ、お菓子とか買っていく?」
「そうだな」
俺たちは駅ビルのスーパーで買い物して行くことにした。
そして、駅ビルに入ったときだった。
「あれ? 立夏ちゃん、冬美さん?」
立夏さんと冬美さんが居た。
「あら、陽春ちゃんに和人君。デート?」
冬美さんが言う。
「いいわねえ。陽春ちゃんは……」
立夏さんが言ったときだった。
「うぅ……立夏ちゃん! 聞いてよ……せっかく和人と二人でいたのに……うぅ……」
陽春が泣きながら立夏さんに抱きついていった。
「ちょ、ちょっと……え? どういうこと?」
「和人君、あんたまさか……」
冬美さんが俺をにらんできた。
「ち、違う。俺は何もしてないから……」
「じゃあ、なんで陽春ちゃんが泣いてるのよ!」
「そ、それは……」
話そうとしたがなんだか周りに人だかりが出来て注目を集めてしまっている。
「とりあえず、どこか入ろう。上行こう!」
そう言って俺は陽春の手を取り、エスカレーターに乗った。立夏さんと冬美さんもついてくる。
「陽春ちゃんを泣かせるなんて……場合によっては和人君でも承知しないからね」
立夏さんも俺をにらんでくる。
「違うから。誤解だよ……とりあえずここでいいか」
三階にあるカフェに俺たちは入った。ここは比較的人も少なく注目も集めにくいだろう。
「ううっ……」
陽春はずっと泣いたままだ。こうなると陽春は長いからなあ……
「で、何があったの?」
「幼馴染みが訪ねてきただけだよ。川中美咲って言う1年生なんだ。最近、幼馴染みだって分かって……」
「え? あの生徒会書記の?」
冬美さんは知っていたようだ。
「そう、その人だよ」
「あの子、滝沢会長と噂になってなかった?」
「そうなんだよ!」
陽春が話し出す。
「にもかかわらず、和人の家にも来たんだよ」
「うわあ……最悪だね。二股?」
「本人は滝沢君狙いだって言ってたけど……和人とも仲良くなりたいって……」
「はあ?」
声を上げたのは立夏さんだ。
「私は陽春ちゃんだから和人君譲ったのに、そんな泥棒猫には手を出させないわよ!」
立夏さんが珍しく声を荒げる。
「和人君、そんな子の相手してあげたんじゃないでしょうね?」
立夏さんが俺をまたにらんだ。
「いや、してないよ。ちょうど陽春が家に居たから陽春が説教したよ」
「そ、そっか……陽春ちゃん、家に居たんだ」
「うん。たまたまウチが居たから良かったけど。居なかったら二人で会うところだったんだよ。まったく……でも、和人は二人では会わないって約束してくれたから……ん?」
「陽春ちゃん、家に居たんだ……」
立夏さんはまたその言葉を繰り返した。
「う、うん……朝からお邪魔してただけだよ」
「泊まってたわけじゃ無いよね」
「うん。泊まってない」
「そっか……よかった」
うーむ、このあと、陽春の家に泊まるとは言いにくいな。
「このあと、ウチの家に和人泊まるけどね」
「え!?」
陽春があっさり言ってしまった。
「そ、そうだよね。付き合ってるんだもんね……」
「うん」
「陽春ちゃん、準備はしっかりね」
「うん……でも、大丈夫だよ。ただ泊まるだけだから」
「ただ泊まるだけ?」
「うん。明日、例大祭の馬追でしょ。朝からうるさいんで和人がどこかに避難したいって、それだけだから」
「そっか……」
立夏さんの顔が少し明るくなった。
「立夏、あんた区切り付けたんじゃ無いの?」
冬美さんがあきれたように言う。
「付けたけど、こういうの聞くとつい……陽春ちゃん、ごめんね」
「ううん、立夏ちゃんはまっすぐ和人が好きだからいいんだよ。他の男子狙っておいて、和人とも仲良くしたいってのが、ちょっとねえ」
「ほんとよねえ、ありえないわよ」
「私もそう思う。川中さん、なんか怪しいとは思ってたのよねえ。だいたい……」
冬美さん、立夏さん、陽春のガールズトークは盛り上がり、俺はただ聴いているだけになった。
「はあ……でも、話したらスッキリしたよ。聞いてくれてありがとう」
陽春が立夏さん、冬美さんに言う。
「いいのよ。でも、陽春ちゃんも大変ねえ」
「ほんとだよ。和人がこんなモテるとは思わなかったよ」
「モテてないから」
俺が言う。川中さんは幼馴染みとしての親交を温めたかっただけだ。
「和人、これからはウチが厳しくチェックするからね。変な虫が付かないように」
「付かないから。俺は陽春だけだ」
「いいなあ、陽春ちゃん……」
立夏さんが言った。
「立夏ちゃんも区切り付けたんでしょ。新しい恋が始まる予感があるんじゃないの?」
陽春が言う。
「それは……どうだろうなあ……」
「お! ありそうだね」
「うーん、どうだろ……そのときにはまた相談するね」
「うん! 今度はしっかり応援するから!」
「ありがとう、陽春ちゃん」
陽春と立夏さんもすっかり仲良くなったな。
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