第231話 来客
藤崎宮例大祭の馬追の前日となる今日、俺は陽春の家に泊まりに行くのだが、その前に陽春が俺の家に来ていた。今日は俺の家で過ごし、午後から移動して陽春の家に泊まるという計画だ。
「お邪魔します!」
陽春の声が家に響く。
「陽春ちゃん、いらっしゃい。どうぞ」
母親が陽春を家に上げる。俺は邪魔されないようにすぐに陽春を部屋に案内した。
「ふう……あ、和人、もう準備は済ませてるんだね」
いつもは無い俺の大きめのバッグを見て陽春が言う。
「まあね。いつでも陽春の家に行けるように」
「じゃあ、今日はどうする?」
「昼まで家に居て、どこか出かけるか」
「うん! じゃあ、昼まではイチャイチャする?」
「そ、そうだな」
「あら、素直だねえ。私といろいろしたかったんだ」
「まあな」
そう言って、珍しく俺から陽春を抱き寄せに行く。
「か、和人……強引だよ……」
「嫌だったか?」
「ううん……きゅんときちゃった」
陽春が俺を抱きしめる力が強くなる。俺はそのままキスをした。
そのまましばらくしたときだった。インターフォンが鳴る。何か宅配でも来たか。そう思ったあとに母の声が聞こえてきた。
「あら、美咲ちゃんなの! 久しぶり!」
俺と陽春は慌てて体を離す。
「え、美咲ちゃんって……」
「なんで家に……」
俺は部屋を出て玄関に行く。そこには川中美咲が居た。
「和人君、来ちゃった」
「いや、来ちゃったじゃ無いだろ」
「だって、懐かしくなっちゃって。家、変わってないね」
「覚えてるのかよ」
「うっすらね……あ、陽春先輩! 居たんですね」
陽春が玄関に来た。
「どうしたの? 美咲ちゃん……」
「和人君の家が懐かしくなって、尋ねてきちゃいました」
「連絡すれば良かったのに」
「……和人君の連絡先知らないんで」
「そういえばそうか。ウチ経由で良かったのに」
「そ、そうですね。気がつきませんでした」
「まあ、いいや。部屋に行く?」
「は、はい!」
川中美咲も陽春と一緒に俺の部屋にいるというよく分からない状況になった。
「……一応確認しておくけど、美咲ちゃんは滝沢君狙いってことでいいんだよね」
陽春が聞く。
「はい! もちろんです!」
「それなのになんで和人の家に来たのかな? それもウチに知らせずに……」
「す、すみません! 和人君とは幼馴染みとして仲良くしたい気持ちはあって……陽春先輩に言ってしまうと誤解されそうで言えませんでした」
「つまり、ウチに内緒で和人に会いに来たと」
「すみません!」
川中さんが正座して頭を床に付けるぐらいに陽春に謝る。
「うーん、ちょっといただけないなあ……」
「すみません……和人君が許してくれないなら玄関先で帰るつもりでした」
「和人はそういうの許さないから。ね?」
「そうだな。陽春が居ないときに川中さんと二人で会うことは無いよ。ごめん」
「そ、そっか……私が幼馴染みとしてもつけいる隙は無さそうだね」
「当たり前でしょ!」
陽春が言う。
「すみません……私にとって和人君との思い出はすごく大事だったので、また楽しく遊べないかと思ってしまい……うぅ……本当に申し訳ありません」
川中さんは泣きながら謝る。
「はぁ……もう高校生なんだから2人はダメだよ。みんなならいいけどね」
「はい……今度はみんなで遊ばせてください」
「そうだね……でも、滝沢君入れてってのはちょっと厳しいか。理子のこともあるしなあ」
「そうですよね……私一人とあとは上野さん、不知火君でいかがでしょう」
「雫ちゃんと仲良かったっけ?」
「……いえ……」
「じゃあ、そこからだね。まずは雫ちゃんと仲良くなってね。そうしたら一緒に遊んであげる」
「はい! ありがとうございます!」
「もう顔上げていいよ」
「すみません……うぅ……」
川中さんは泣いたままだ。
そこに声が響いた。
「陽春ちゃん、修羅場は終わった?」
母親だ。
「修羅場じゃないので大丈夫です!」
「そう。じゃあ、お昼にしましょうか。美咲ちゃんも手伝える?」
「あ、はい!」
陽春と川中さんは部屋を出て行った。しかし、やっかいなことになったな……
◇◇◇
お昼はお好み焼きだった。食べながら、母親が聞いてくる。
「それで、和人はどっちにしたの?」
「なにが?」
「だから、陽春ちゃんと美咲ちゃん」
「はあ? 俺には陽春しか無いから」
「そ、そうです。すみません、私が勝手に押しかけてしまって。全然そういうつもりは無いですから。旧交を温めたかっただけです」
「あら、そう。じゃあ、やっぱり、陽春ちゃんが和人の恋人なのね」
「もちろんです! ウチは和人を譲ったりしませんので!」
陽春が胸を張った。
「でも、美咲ちゃんのお母さんはお元気?」
「あ、はい。元気にしてます」
「今はどこに住んでるの?」
「今は……」
その後は母と川中さんの会話が続く。俺と陽春は黙って聞いているだけになった。
「美咲ちゃんに会えて嬉しいわ。今度は家族で来て」
「あ、はい……」
「その時はウチも来るからね! 黙ってはナシだよ!」
「はい! 必ず!」
陽春は川中さんはまだ信用できないようだ。
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