第236話 新部長
◇◇◇『少女探偵シズクの事件簿』より
「ということは犯人はハル先輩、あなたですね!」
少女探偵シズクがハルを指さした。
「ハル先輩を休み時間に部室の前で見かけたという目撃情報があります」
「うん……実はシュークリームを食べようと思って部室に来たんだけど……もう無かったんだよ」
「え?」
「ハル先輩、部室の鍵は開いていたんですか?」
「開いてたよ」
「俺が行ったときは閉まってたぞ」
カズト先輩が言う。
「どういうことでしょうか。確か昼休みにリッカ先輩が鍵を返したんですよね?」
「もちろんそうよ。先生に聞いたんでしょ?」
「はい。そう言っていました。その後には放課後にリッカ先輩が借りに来るまで、誰も借りに来ていません」
「じゃあ、なんで鍵が開いていたんだろう……」
「……リッカ先輩。鞄の中を調べさせてもらっていいですか?」
「え?」
「ダメなんですか?」
「それは……」
「えい!」
ハルがリッカの鞄を奪う。
「あ!」
中をあさりはじめ「ん? コレは何?」と言ってとりだしたものは鍵だった。部室の鍵とそっくりだが、部室の鍵は既にテーブルの上に置いてある。
「やはりそうでしたか。リッカ先輩は昼休みのあと、ヤナイ先生にこの偽のカギを返したんです。そして、自分は本物のカギを持って部室に行き、シュークリームを奪った。つまり、犯人はリッカ先輩ですね!」
「……シズクちゃん、よく分かったわね。そうよ。シュークリームを食べたのは私よ! どうしても、食べたかったの。許して……」
◇◇◇
「えっ!」
陽春が声を上げた。陽春も犯人がわかったところまで読んだのだろう。
「あの……嘘ですよね」
立夏さんが言う。
「本当よ」
雪乃先輩が言った。
「みんな読んだみたいね。では、次期部長に高井立夏さんを指名します。立夏さん、受けてもらえますか?」
「……理由はなんですか? 私より和人君や陽春ちゃんの方がふさわしいと思いますけど」
「理由はシンプルだ。立夏さんが小説を書いているからだ」
三上部長が言った。
「小説……」
「そうだ。2年生で小説を書いているのは立夏さんだけだからな。文芸部の部長たるもの、小説を書いていなくては」
「大地がどうしてもそう言うもんで……実は私は陽春ちゃんを推してて、大地と意見が割れたんだけどね。だから、私は条件を付けたの。立夏ちゃんが部長なら、支えられる冬美が必要だって。冬美が副部長を受けるようなら立夏ちゃんでいいって」
「そうだったんだ……」
冬美さんが言った。
「そうよ。冬美が副部長を引き受けた時点で立夏ちゃんの部長が決定したのよ」
「……うん、私は立夏を支えるよ。立夏、やりなよ」
冬美さんが言った。
「……分かりました。次期部長、謹んでやらせていただきます」
立夏さんが頭を下げた。
「よかった……ありがとうね」
「文芸部を頼むぞ」
雪乃さんと三上部長が言った。
「立夏先輩、おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
上野さんと不知火が言った。
「ありがとう」
「立夏さん、いや、部長。これからもよろしくな」
「和人君、まだ部長呼びは早いから……」
立夏さんが俺に言った。そして、最後に陽春が大声で言った。
「あー! 立夏ちゃんに負けちゃったかあ……ほんとはウチが部長なんじゃないかって期待してたんだけど、確かに小説書いてないからね……うん、納得した! 立夏ちゃん、応援するよ。これからもよろしくね!」
「うん。ありがとう、陽春ちゃん。それにしても、私が陽春ちゃんに勝ったのか……」
「うん、そうだよ。立夏ちゃんの勝ちだよ」
「そっか……ついに陽春ちゃんに勝つことができたんだ……私、部長頑張る!」
「うん、立夏部長! よろしくね! あ、和人は渡さないからね」
「それは分かってるから、もう……あ! そういえば、私の小説も読んで欲しいな」
「そっか。立夏さんの小説も読まなくちゃね」
今度は俺たちは立夏さんの小説も読み始めた。
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