第220話 陽春と菜月と雫

 土曜日。俺は陽春の家に来ていた。今日は陽春の親友の森菜月さんと上野さんも来ている。2人は一緒に陽春の家に泊まることを約束していて、今日はその日だ。俺は邪魔なような気もするが、陽春が来て欲しいと言うから来ている。


「久しぶりに陽春の部屋に来たけど、あんまり変わってないね」


 森さんが言う。


「そりゃあね。半年ぶりぐらいだから」


「陽春に彼氏が出来てからあんまり会えないもんなあ、しくしく」


「そんなことないでしょ。今も月一ぐらいで会ってるし」


「彼氏優先されちゃって私のスケジュール後回しだし」


「なんかごめん」


 思わず俺が謝る。


「あ、彼氏君に言ってるわけじゃ無いから。陽春をいじめてるだけ」


「いじめないでよ! まったく……菜月に彼氏出来たらさんざんいじってやるんだから」


「そんな日が来るかなあ……はぁ……」


「相変わらず出会いは無し?」


「そりゃそうでしょ。女子校だし」


「でも、森先輩は男子には人気出そうな感じがしますけどね」


 上野さんが言った。


「いやいや……今まで彼氏居たことないよ」


「そうなんですか。森先輩の中学の写真とかあります?」


「え、あるよ」


 陽春がスマホから写真を探し、上野さんに見せる。


「あー、なるほど……」


「なるほどって何よ!」


 森さんが言う。


「いや、これじゃ彼氏出来ないなって感じでしたんで」


「はっきり言うね」


「でも、今は彼氏出来る感じしますよ。かなり垢抜けましたよね」


「そ、そうかな……でも、今は出会いが無いのよねえ……」


「そんなに彼氏欲しいならなんで女子校行ったんですか?」


「だって、中学の頃は彼氏とかいらないって思ってたし。でも、陽春が彼氏作ってうらやましくなっちゃって……」


「なるほど」


「雫ちゃん、誰か紹介してよ」


「まあ、紹介できる男子は何人かは居ますけどね」


「え、そうなの? さすが!」


「でも、私が話してる男子ってだいたい私のことが好きみたいですけど、それでもいいですか?」


「いや、さすがに雫ちゃんと比べられるの無理」


「ですよね。うーん、探しておきます」


「頼む!」


 森さんは上野さんを拝んだ。


「それにしても、この写真の陽春先輩可愛い」


 上野さんが陽春のスマホを見ながら言う。


「あ、私の写真もあるんだった! 見ちゃだめ!」


 慌てて陽春がスマホを取り返す。


「ふふ、ほんと少年みたいでしたね。めっちゃ可愛かったです」


「もう、アレはダメだから。和人にも見せてないんだからね」


「え、そうなんですか?」


「うん。俺には見せてくれないんだ」


「まあ、陽春先輩、今は元気少女!って感じですけど、中学のころは完全に少年ですもんね」


「少年陽春と彼氏君が……ぐふふっ」


「変なこと想像しない!」


 陽春が森さんの頭をチョップした。


「あ、ごめん。つい趣味が……」


「まったく……」


「そういえば、上野さんのパートナーは今日来てないの?」


 森さんが言う。不知火のことか。


「うん。今日は呼ばなくていいって雫ちゃんが言ったから」


「いや、まず、パートナーじゃ無いですし」


 上野さんが言う。


「だから、そこから否定し出すと話がややこしくなるからもうパートナーでいいでしょ。彼氏とは言ってないし。一番仲いい男子なんだから」


「……話の都合上ならパートナーでいいです」


 上野さんはしぶしぶ認めた。


「なんで呼ばなかったの?」


「呼ぶ必要ないですし」


「そうなんだ。イケメン君だし会いたかったなあ。友達紹介して欲しい」


「そっちが狙いかい」


「あ、聞いておきましょうか?」


「お願い! 雫ちゃん! あんただけが頼りだよ」


 森さんが上野さんの手を取って言う。


「はいはい、じゃあ、アニメ見るよ。邪神ちゃん一期だっけ?」


「はい、一期は見逃していたので」


 そういえば台風の夜に一挙配信でみんなで見たときには二期からだった。前に見たときは陽春が見る回を選んだダイジェストだったので全部は見ていない。


「よし、見よう!」


 陽春が再生を開始した。

 俺は一期を見終わると帰ったが、その後は陽春と森さん、上野さんの三人でガールズトークが盛り上がったようだ。

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