第219話 恋愛相談
金曜日の放課後。今日は部活も無い。笹川さんと達樹はバイトに行った。達樹は結局笹川さんと同じファミレスでのバイトを始めることにしたそうだ。だが、俺と陽春はバイトも無い。そのまま帰るだけだ。
「どこか遊びに行く?」
「そうだなあ。どこがいいかなあ」
そんなのんびりした状態で校舎を出るとそこに川中美咲が居た。
「あ、和人先輩!」
「川中さん。どうしたの?」
「ちょっと話したいなあって……」
「はあ!? 和人にはウチが居るからね!」
陽春が大きな声を出した。川中さんはかなり驚いたようだが、
「も、もちろん、陽春先輩もご一緒に……」
と言ったので陽春も了承する。
「あんまり聞かれたくない話なんで、どこか行きませんか?」
「うーん、そうだな、やっぱりガーデンカフェ?」
「じゃあ、そこで」
俺たちはバスセンター屋上のガーデンカフェに行く。9月だがまだ暑い。そんな中、エアコンの無いガーデンカフェに居る人はほとんど居なかった。まあ、俺たちも暑いけど……
冷たい飲み物を買い、周りに誰も居ない日陰のテーブルの席に着いた。
「それで、何の話?」
「あの……昨日、見たこと誰かに話した?」
川中さんが俺に言う。滝沢生徒会長と川中さんが一緒に居たことか。
「いや……」
「よかった。内緒にしておいて欲しいんだ」
「それはいいけど、別に話しても一緒だと思うぞ。もう噂は広がってるみたいだし」
「そうだよね……うぅ……」
突然、川中美咲は泣き出した。
「ど、どうしたの!?」
陽春が聞く。
「すみません。滝沢会長に怒られちゃって……そんなに噂になっているなら距離を置こうって言われちゃいました」
「距離を置こうって……付き合ってたの?」
「いえ……でも結構二人で出かけたりもしてたんですけど、もうしないって……うぅ……」
「そうなんだ。美咲ちゃんは滝沢君のこと好きなの?」
「……はい。それは噂通りです」
「そうなんだ。じゃあ、滝沢君にその気が無いのかな」
「そうみたいで……要するに振られちゃったみたいです」
「なるほどね……滝沢君らしいな」
陽春が言う。
「そうなのか?」
「うん。恋愛より仕事って感じの人だから。理子の時もそうだったし」
「そうなんですね……先輩、私どうしましょう」
「それは美咲ちゃん次第じゃないかな。あきらめられないなら、頑張るしか無いし」
「そうですよね……私、あきらめられないです。頑張ります!」
つまり、滝沢を狙い続けるってことか。
「でも、距離取るって言われちゃったしなあ……どうしよう……」
「告白するって訳にはいかないんだよね」
「はい、もし振られても生徒会書記は簡単に辞められませんし、気まずすぎます」
「そっかあ。じゃあ、そばに居て機会を待つしかないんじゃない? 滝沢君だって、そのうち、生徒会を辞める日は来るし……」
「でも、それって来年ですよね。遠すぎますよ……」
「それは仕方ないかな。それでも近くに居続けるって選択をするなら」
「そ、そうですよね……分かりました。陽春先輩、ありがとうございます! また、相談させてください。連絡先、いいですか?」
「え? いいよ」
陽春と川中さんは連絡先を交換した。
「ありがとうございます! また、連絡します! お二人のデートをお邪魔しちゃ悪いのでこれで失礼します!」
そう言って、川中さんは去って行った。
「なんか……思ったより悪い子じゃ無かったね」
陽春が言う。
「しかし、陽春すごいな。あっという間に川中さんと仲良くなって、連絡先まで交換して……」
「だって、陽春先輩って向こうから名前で呼んできたから。仲良くしたがってるなあって思って……たぶん雫ちゃんの差し金なんだろうとは思うけどね」
「え?」
「ちょっと待ってね」
陽春はスマホを操作し始めた。上野さんにメッセージを送っているようだ。しばらくすると上野さんと不知火がやってきた。
「陽春先輩、ここに居たんですね。ちょうどフードコートで勉強会してました」
「え、二人で?」
「違います。下田君と中道さん入れて4人です」
「そうなんだ」
「それで、川中さんと話してたんですか?」
「そうだよ。雫ちゃんが何か言ったんでしょ?」
「言ったというか、私も昨日見たことを口止めされたので、それだったら、陽春先輩に意向を聞かないと、って言ったんです」
「それだけじゃないでしょ?」
「……まあ、陽春先輩はいろいろ相談に乗ってくれるとは言いましたけど」
「やっぱりね」
「それで何だったんですか?」
「滝沢君との恋愛相談かな」
「なるほど。上手くいきそうなんですか?」
「難しいかな。少なくともしばらくは」
「そうですか。そっちが上手くいけば陽春先輩も安心できると思ったんですけど」
「そっか、確かに。滝沢君が上手くいかなくて和人狙われたら困るもんね。よし! 全力で美咲ちゃん応援しよう!」
陽春、張り切りすぎないならいいが……
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