第221話 月曜

 日曜日は陽春と上野さんと森さん三人で遊ぶらしいので、俺は家で季彦さんがやっていたAIをパソコンで動かすことをやってみる。動作に時間はかかったが、自分のパソコンでも動かすことが出来て、かなり満足だった。


 こういう方向の仕事も面白いかも知れない。今度、季彦さんが年末に帰ってきたら詳しいことを聞いてみたい。今まで見えていなかった将来が少し見えた感じがした。


 月曜日の朝、席に着いていると陽春が入ってきた。


「2年1組、おっはようございまーす!」


 相変わらず大きい声だ。そして、俺の席に来る。


「おっはよう! ウチの彼氏!」


「おはよう、俺の彼女。今日はいつにもましてご機嫌だね」


「うん! 昨日、菜月と雫ちゃんといろいろ話せたし」


「そうなんだ」


「あ、トリプルデート決まったから」


「は?」


「ウチたちと雫ちゃんたちと菜月とその彼氏候補」


「彼氏候補って…・・」


「不知火君に頼んで探してもらうって」


「そうなんだ。で、いつなんだ?」


「次の土曜か日曜だよ」


「そうか。わかったよ」


 日曜。何かあった気がするが、思い出せない。まあ、たいしたことでは無かったんだろう。


◇◇◇


 昼休み。また、4人で部室に向かう。


「浜辺陽春、櫻井和人、笹川理子、小林達樹、入ります!」


 陽春がそう言って扉を開けると、そこには三上部長、雪乃先輩に加え、後藤先輩も居た。


「あ、今日は後藤先輩もお昼ですか」


「まあな。こいつらはいつも二人だから気を使わず俺も昼はここで食うことにした」


「残りも少ないですしね」


「そうだな」


 今月末の文化祭で三年生は部活引退だ。


「そういえば、明日の部活は何やるんですか?」


 陽春が聞く。そういえば、もう部誌も作り終えたし、通常活動に戻るのだろうか。でも、文化祭の準備はありそうだ。


「文化祭でやるマーダーミステリーを私たちでやってみようと思ってるわよ」


「え、ほんとですか? やったー!」


 陽春は喜んでいる。ずっと人狼やりたいと言っていたが、人狼では無いにしろそういう感じのゲームがやれるのが嬉しいんだろう。


「イベントでやるならまずは私たちが知っておかないと」


「そうですね。楽しみです!」


 よかったな、陽春。


「へー、そんなのやるんだ。面白そうね」


 笹川さんが言った。


「そうだよ。文化祭の時、理子も来る?」


「時間あったらね。今年は達樹といろいろまわる予定だし」


「そっかあ。理子たちは部活も無いから文化祭満喫できるよね」


「そうなんだよ。相当気合い入れてるから」


 達樹が言う。確かにそうだ。俺たちはクラスの仕事に加えて文芸部の当番もあるから陽春と一緒にはあまりまわれないだろうな。


「部長達は最後の文化祭はもちろん一緒にまわるんですか?」


「そりゃあね。でも、時間はあんまり無さそう」


「大丈夫ですよ。いざとなったら私たちに任せてください!」


 陽春が言った。


「そうね。任せられるところは任せていかないとね。すぐに新体制になるんだし」


「そうですよ。おかませください!」


 陽春は胸を張った。


「あれ? 陽春が次の新部長?」


 笹川さんが聞く。


「いや、まだ発表されてないよ」


 俺が言った。


「そうなんだ。陽春が有力なの?」


「さあ……でも、ウチか和人じゃないかな」


「まあ、その辺はお楽しみって事で。来週火曜には分かるんじゃないかな」


 雪乃先輩が言う。


「はい! 楽しみです!」


 どうなるか、俺はドキドキだ。できれば部長は避けたいし。


「ところで、後藤先輩は文化祭は一人ですか?」


 陽春が聞く。


「なんで俺は友達居ない設定だよ。俺にも居るからな」


「そうだったんですね。文芸部でしか知らないもんで」


「当たり前だ。まあ、友達とまわるだろうな」


「立夏ちゃんとはまわらないんですか?」


「はあ? なんで立夏と……」


「なんか仲よさそうだし」


「お前なあ……俺が誰が好きかは知ってるだろ」


 雪乃先輩か。


「知ってますけど無理ですよね」


「まあ、そうだけどな。でも、だからってすぐ別の子に行けるかよ」


「すぐって……もう一年経ちますよ」


「……そうか……もう一年か」


 後藤先輩は感慨深そうに言った。


「まあ、後藤君も次に進んでいい頃合いではあるわよね」


 雪乃先輩が言う。


「そんな簡単に言うなよ」


 後藤先輩はそう言ったが、声は明るそうだった。


 すると、そこに珍しい二人組が来た。


「長崎冬美、高井立夏、入ります」


 冬美さんと立夏さんが珍しく昼休みの部室にやってきた。


 達樹が「おっと、噂をすれば……」と言ってしまう。


「ん? 何?」


「あ、後藤先輩が立夏ちゃんと文化祭まわりたいって」


 陽春が言った。


「言ってねえだろ!」


 後藤先輩が大声で反論する。それに立夏さんが言った。


「……別にいいですよ。後藤先輩が行きたいなら」


「そ、そうか……考えとく」


 後藤先輩は目をそらしながら言った。


「それで、冬美どうしたの?」


 雪乃先輩が聞く。


「あ、今日マーダーミステリー買いに行くんでしょ? みんなで行くの?」


「そんな大勢で行っても仕方ないし。私と大地と冬美と立夏ちゃんよ」


「そっか。わかった」


「えー! ウチも行きたい!」


 陽春が言い出す。


「陽春ちゃん、今日、図書委員じゃなかった?」


 雪乃先輩が言う。そうだ。そういえば今日は月曜。久しぶりの図書委員だった。


「そうだった……残念!」


「明日使うマーダーミステリー買ってくるだけだから。文化祭用はまた今度ね」


「わかりました。その時は行きます!」


 陽春、新部長になるかも知れないし、気合い入ってるな。


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