第214話 最終チェック

 放課後は久しぶりの部活だ。


「彼氏! 部活の時間だよ!」


 陽春が元気に俺の席に来た。川中美咲のことは気にして無さそうだ。


「よし、行くか」


「和人君、行きましょうか」


 冬美さんと立夏さんも来た。


 俺たちは四人で部室に向かう。これも久しぶりすぎてテンション上がってきた。


「浜辺陽春、櫻井和人、高井立夏、長崎冬美、入ります!」


 陽春が大声でフルネームを言ってドアを開けた。


「みんな、来たわね」


 部室には雪乃さんと後藤先輩だけが居た。


「あれ? 部長は?」


「部誌の件で柳井先生に呼ばれてるから」


「そっか……後藤先輩、ラッキーでしたね」


 雪乃先輩と二人きりになれた後藤先輩に陽春が言う。


「うるせえよ……まあ、ラッキーではあったな」


「ちょっと、後藤君、もう……」


 なんか雪乃さんの仕草がなまめかしいというか……


「なに、お姉ちゃん。また告白でもされた?」


「ち、違うわよ」


「まあ、似たようなことはしてたかな」


「うわあ、最悪、セクハラ……」


 後藤先輩の言葉に冬美さんが容赦ない言葉を言う。


「お姉ちゃんも何赤くなってるのよ」


「なってないから……後藤君が作った詩を見てただけよ」


「ああ……」


 部誌に掲載するやつか。後藤先輩、また雪乃先輩に捧げる詩を作ると言ってたし。


 そこに三上先輩が入ってきた。

 後藤先輩は雪乃先輩から離れ、自分の席に座った。


 そこに一年生たちも来た。


「上野雫、不知火洋介、入ります」


 2人が入って席に着いたところで三上部長が立ち上がった。


「全員揃ったな。部誌の入稿は明後日だ。今日は最終チェックだぞ」


「はい!」


 陽春だけが大きな返事をした。他の部員はうなづいただけだ。


「ミスが無いように。レイアウトの都合があるから、全員今日中に雪乃に原稿を提出するように。わかったな」


「はい!」


 陽春がまた大きな返事をした。


「よし、始め」


 俺は自分の書評の最後のチェックを行う。書評組は全員俳句を付けることになっている。俺はそれをやっと昨日考えついた。それを入力し、これで完成だ。俺はそれを雪乃先輩に送った。


 他の部員を見てみると陽春は表紙の最終チェックをしている。立夏さんは小説の仕上げ中。冬美さんと上野さんはそれを見ながらいろいろアドバイスしているようだ。不知火は自分の書評を再チェック中かな。


 後藤先輩は全て終わって、何かタブレットを使っている。気になって俺はそこに行ってみた。


「後藤先輩、これは?」


「文化祭の印刷するやつもろもろだ。看板とかチラシとか、案内図とか」


「なるほど、そういうやつも必要ですよね」


「まあ、あとでイラストは差し替えるかも知れないけど、それ以外の部分を去年のを元に作ってる」


「俺も手伝いますよ」


「頼む」


 来年のこともあるし、俺も触っておいた方がいいだろう。


 しばらくすると、全員が雪乃さんに最終チェックした原稿を送ったようだ。


「うん、これで全部ね」


「やったー! 終わった!」


 陽春が言った。


「まだよ。私と部長が全部読んでチェックするから。直しがあったら言うからね」


「はーい」


 だが、基本的にはこれで終わりだ。俺たちはお菓子を食べながら雑談を始めた。


「そういえば、雫ちゃん。川中美咲って子、知ってる?」


 突然、陽春が上野さんに聞いた。


「ええ、うちのクラスですね。生徒会の書記です」


「どんな子なの?」


「うーん、真面目で自分にも他人にも厳しい感じです。私はあんまり親しくないですけど。で、どうかしたんですか?」


「昼休みに、部室に生徒会として川中さんが来たんだけど、なんと! 和人の幼馴染みだったの」


「えー! そうなんですか、櫻井先輩」


「まあそうだけど、俺は写真でしか覚えてないレベルだぞ」


「なんだ、そうなんですね」


「でも、なーんか、向こうは気になる感じ見せてたし……」


「え、そうなんですか。陽春先輩ピンチですね」


「そうなのよ。どうしよう! 立夏ちゃん!」


「私に聞かないでよ……でも、和人君は陽春ちゃん一筋だから大丈夫でしょ」


 立夏さんはお菓子をくわえながら言った。


「そ、そうだよね……」


「和人君がもしその幼馴染みに乗り換えるようだったら……私、軽蔑するから」


 そう言って俺をにらんでくる。


「そんなことするわけないだろ」


「……そうよね。和人君は陽春ちゃん大好きだもんね……」


「立夏ちゃん……」


「……それに陽春先輩、大丈夫ですよ。川中さん、生徒会長と噂になってる子ですから」


 上野さんが言った。


「え? 生徒会長?」


「そうですよ。不知火もこの噂、知ってるよね?」


「うん、聞いたことはある。確か川中さんの方が積極的だって噂だよね」


「そうそう」


 確かに昨日は滝沢と距離が近い感じはしたな。


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