第212話 始業式
夏休みも終わりついに2学期の始業式だ。久々に朝早い時間に登校する。自分の席についてしばらくすると陽春が遅れてきた。
「おっはようございまーす!」
久しぶりの大声にみんなが陽春を見た。陽春は満面の笑みで俺の方に来る。
「おはよう、ウチの彼氏」
「おはよう、俺の彼女。これも久しぶりだな」
「そうだね!」
そこに委員長の山崎奈美が来た。
「おはよう、陽春ちゃん、櫻井君」
「あ、委員長! お疲れ様です!」
陽春は委員長に敬礼した。いつもこれだ。
「再度のお願いだけど、あのとき見たことは他言無用でね」
「あのとき? ああ、あれか。大丈夫。誰にも話してないよ」
「そ、そう……なら、いいんだ」
あのとき見たこと。それは
俺はふと坂口君の席を見てしまう。
「ちょ、ちょっと! 櫻井君!」
「ああ、ごめん」
「内緒だからね」
「うん! じゃあ、貸し一つね」
陽春が言う。
「わかったわよ」
山崎さんは去って行った。
そこに立夏さんと冬美さんが来た。
「なにかあったの?」
冬美さんが聞く。
「なんでもない! えへへ」
陽春が不自然に笑う。
「何かありそうだけどまあいいわ。和人君、立夏とはこれまで通りにお願いね」
「わかった」
「……和人君、よろしく」
立夏さんがすごく小さい声で上目遣いで言った。
「よ、よろしく……」
「立夏ちゃん!」
陽春が立夏さんを抱きしめる。
「だから、そういうことしないの。何かあったって思われるでしょ」
冬美さんが陽春を引き離して立夏さんを席につれていった。
そして、達樹が笹川さんと一緒に入ってきた。
「おはよう、理子!」
「おはよう、陽春。櫻井も。達樹の夏休みの宿題、見てくれてありがとうね」
「ううん、お姉ちゃんがほとんど見てたから、私たちはたいしたことしてないよ」
「でも、お世話になったから。今日、放課後どこか行こうよ」
「そうだね!」
◇◇◇
始業式では生徒会長の挨拶があった。いままでは適当に聞いていたが、今日は見入ってしまう。
「皆さん、おはようございます。生徒会長の滝沢です」
滝沢俊数。笹川さんの元カレだ。今も未練がありそうとか陽春が言ってたっけ。
思わず横の達樹を見た。
「なんだよ」
「いや……」
「何とも思ってないからな」
「わかってるよ」
達樹は気にしていないようだ。
滝沢の話は続いていた。
「二学期は、文化祭や体育祭など重要な学校行事が行われます。これらの行事を通じて、私たちはさらに団結を深めることができるでしょう」
文化祭か。それが終われば文芸部の3年生は部を去ることになる。なんか寂しいな。
◇◇◇
始業式のあとはホームルームだが、その最後に委員長の山崎奈美が前に立った。
「ではここで文化祭のクラスの出し物を決めたいと思います。文化祭実行委員の坂口君、お願いします」
坂口が前に出た。なるほど、こういうつながりで仲良くなったのか。俺は思わず陽春の席の方を見た。陽春も俺を見て頷いている。
「では意見がある人……」
「はいはーい! ウチはカフェ!」
陽春が真っ先に意見を出した。カフェか。一年の時には飲食イベントは許されていなかったので二年でそういうのをやってみたい気持ちはあった。
「カフェもいいけど他のクラスとかぶりやすいから。何か特徴があった方がいいかな」
委員長が言う。
すると、冬美さんが発言した。
「私はゴシックカフェがいいかな。ゴシック風の服を着て、キャンドルとか飾って、ゴシック系音楽流してタロット占いとかやったりして。服は私の方で用意できるわよ」
「それいいねえ!」
「女子のゴスロリ服が見れるのか!?」
「男子は執事風?」
「ハロウィンも近いし、いいんじゃない」
かなり賛成の意見が多いな。さすが、トップカーストの発言力。そのとき、陽春が意見を出した。
「ウチはボードゲームカフェ! ボードゲームも出来るカフェとかどうかな? 人狼とかやりたい!」
また人狼か。でも、ボードゲームをやりたいという人たちも居た。
他に案は出ず、ゴシックカフェとボードゲームカフェのどちらにするか、投票で決めることになり、僅差でゴシックカフェに決まった。
「ふふ、陽春ちゃん、私の勝ちね」
「悔しい!」
「まあまあ。もし他のクラスとゴシックカフェがかぶったら、抽選になって、負けたらボードゲームカフェね」
ゴシックカフェはかぶりそうに無いと思うけどな。
◇◇◇
放課後、俺と陽春、笹川さんと達樹で帰りに寄り道する。今日はバスセンターの地下のマックだ。笹川さんと達樹が俺たちにお礼をしたいというのでおごってもらった。
「あー、悔しい。文化祭で人狼やりたかった……」
陽春が言う。
「そんなにやりたかったのか」
「和人! 文芸部で出来ないかな?」
「人狼は文芸部に関係なさそうだし。でも、部長に提案してみたら?」
「そうだね。あとでメッセージ送ろうっと」
「でも、ゴシックカフェか。変な衣装着せられそうで嫌だなあ」
笹川さんが言う。
「ウチも。でも、ウチと理子は裏方になると思うけど。料理できる女子はそんなに居ないでしょ」
陽春は自分は料理できる女子という扱いのようだ。
「料理って、そんな複雑なものは無いと思うよ。あっても誰でも出来るレベルだと思うし」
「そっかあ。ウチも冬美さんのような服着せられたらどうしよう」
「和人、俺たちはちょっと楽しみだよな」
達樹が言う。
「達樹に見せるだけならいいんだけどみんなに見られるんだからね」
「それは何か嫌だな……」
「大丈夫! ウチ、委員長に貸しあるし、裏方になれるように言ってみるから」
「そうなんだ、陽春、頼むね」
「うん!」
そんな裏工作、できるのかな……
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