第211話 夏休み最終日
本当は先週水曜だった夏休み最終日が台風で延びて、今日が実質夏休み最終日。
俺は陽春に呼び出され、また陽春の家に来ていた。どうしても夏休み最終日に遊びたいという陽春が招集をかけたのは、俺、上野さん、不知火だ。
スポーツするから動きやすい格好で来いと言われ、俺はTシャツにジャージで来ている。不知火も似た格好。陽春と上野さんはTシャツにショートパンツだ。
「上野さん、その格好ってもしかして……」
「はい、陽春先輩にもらったものです」
やはりそうか。以前、上野さんが陽春の家に泊まったときに着替えが無くてもらったものだ。あまりしない格好なので、不知火がまじまじと見ている。
「なによ、不知火。あんまり見ないで……」
「ご、ごめん。いつもと違うから」
「似合ってないでしょ」
「そんなことない! すごく……素敵だと思う」
「そ、そう……」
「はいはい、イチャイチャはその辺にしてね」
陽春が言い出す。
「イチャイチャじゃないですから」
「今日はスポーツアミューズメントに行くから! 少しだけ歩くよ」
スポーツも出来るアミューズメント施設があの辺りにあるのは知っていたが、俺は行くのは初めてだ。
「やっぱり、そうですか。楽しみです!」
不知火は嬉しそうだ。そういえば、中学の頃は野球部だったんだった。肘を壊してやめたんだっけ。
俺たちはアミューズメント施設に到着し、スポーツのフリータイムで入場した。
「まず何から行きます?」
「そうだね……テニス!」
中学時代にテニス部だった陽春が言う。
「俺、やったことないぞ」
「私もです」
「俺も……」
「大丈夫!」
そう言って陽春は俺たちをテニスのコーナーに連れて行く。
俺と陽春、上野さんと不知火のペアに別れて早速やってみる。
「行くよ!」
陽春がサーブを打つ。それを不知火が返した。
それを陽春が返し、それを不知火が返す……といったように陽春と不知火だけでゲームが進んでいった。たまに俺と上野さんが打っても、とんでもない方向に飛んでいく。
「陽春先輩……もう疲れました」
上野さんが俺よりも先に根を上げた。
「そっか……じゃあ、もっとみんなが活躍できるものにしよう!」
そう言って陽春はどこに行くかを考え出した。
「あ! バッティングは? これなら各自で出来るし」
確かに一人ずつだし、何もしないって事にはならないだろう。俺たちはバッティングのコーナーに移動した。
「よし、じゃあ、まず和人!」
俺かよ。遊びでしかやったことが無いがバットを持って振ってみる。全然当たらなかった。一球、ぼてぼての当たりになったぐらいだ。
「じゃあ、次は雫ちゃん!」
上野さんはぶんぶん振り回したが結局一球も当たらなかった。
「仕方ないなあ。私がお手本を見せるね」
そう言って陽春が打席に入る。
「あ、あれ?」
やっぱり当たらない。だが、3球目ぐらいから当たりだし、最後はいい当たりも出ていた。
「さすがだな、陽春」
「ふっふっふっ。結構良かったでしょ。じゃあ、最後、不知火君に本当のお手本を見せてもらおうかな」
「そうですね。肘は壊したんで投げられませんけど、打撃は出来ますので」
そう言って打席に入る。構えからして本格的だ。
一球目、いきなり快音を響かせ、打球が大きく飛んでいった。
「不知火君、すごい!」
陽春が大声を出す。上野さんは……ぽかーんと口を開けていた。こういう表情はあまり見たことが無い。不知火も得意げだな。
二球目以降も全部いい当たりだ。やはり経験者は違うということか。
「こんなところですかね」
「不知火君すごい! 雫ちゃんも惚れ直した?」
「まあ、少し……」
「え! 惚れてたんだ」
陽春がにやりと上野さんを見た。
「ち、違います! 不知火がすごいと思っただけです!」
上野さんは真っ赤になって怒りだした。
「ごめん、ごめん。でも、不知火君、かっこよかったよね?」
「まあ、そうですね……」
「嬉しい……上野さんにかっこいいって言ってもらえるなんて……」
「でも、野球してる不知火見てるとなんか遠くの人になったみたいに感じるから、別のに行きましょう」
「そうなんだ……」
その後は卓球に行く。まず男子同士、女子同士で戦って、勝ったもの同士で決勝戦をすることにした。俺と不知火の試合は勝負にならず、あっという間に不知火が勝った。
だが、陽春と上野さんの試合では上野さんが意外な才能を見せた。陽春が力任せにスマッシュするがどれもアウト。上野さんは丁寧に相手コートに返し、確実に点を重ねていき、勝利した。
「これなら陽春先輩に勝てますね」
「悔しい! もう一回!」
「陽春、次は決勝戦だろ」
「あ、そっか。雫ちゃん対不知火君か。これは面白いかも」
「上野さん、手加減はしなくて良さそうだね」
「もちろん。全力で来て」
不知火が最初のサーブを放とうとして途中でやめて言った。
「上野さん。これに勝った方が負けた方に何か1つお願いできる、ってのはどうかな。もちろん、できる範囲で」
「いいよ。負けないから」
「よし。それじゃあ、行くよ!」
不知火が強いサーブを放つ。だが、上野さんは丁寧に返していく。いいラリーになったが最後は不知火が強く打ったボールが外れた。
その後もいい勝負が続くが、ミスが多い不知火に対して上野さんは徹底して相手に返すことだけに専念していた。どんどん上野さんに点数が入っていく。そして、マッチポイント。あっさり、不知火のスマッシュがアウトになり、上野さんが優勝した。
「やった!」
上野さんが飛び上がって喜んでいる。ここまで喜んでいるのは珍しいな。
「く、悔しい……」
「雫ちゃん、やったね!」
「はい、実は卓球部にちょっとだけ入ってたこともあったので。そこでカットマンというのを覚えて、今日はそれに徹してました」
「そうだったのかよ……」
「でも、スポーツ系で優勝したのは生まれて始めてかも知れません。すっごく嬉しいです」
上野さんは満面の笑みを見せた。なかなか珍しい。
「さあて、不知火には何をしてもらおうかな。考えておくね」
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