第210話 宿題会
土曜日、俺は陽春の家に居る。笹川さんと達樹も一緒だ。
実は昨日、笹川さんから珍しく俺に電話があったのだ。
『達樹が夏休みの宿題終わってないみたいで』
「そうなのか?」
『うん。陽春はどういう感じか知ってる?』
「あと少しあると思う」
『やっぱりそうなんだ。だったら明日、陽春の家で勉強会しない? まあ宿題会だけど』
「それはいいけど……」
『私も行くんだけど昼過ぎにはバイトに行かなくちゃいけなくて。悪いんだけど午後から達樹の宿題見てやってくれないかな』
「別にいいぞ」
笹川さんは達樹がちゃんと宿題をやるかが心配のようだ。
『ありがとう。この埋め合わせは必ずするから』
「いいよ。俺たちの仲だろ」
『だめ。お礼ちゃんとするからしっかり見てて欲しいの』
「わかったよ」
しかし、笹川さんと二人で話すことなんてあんまり無いから少し緊張したな。
というわけで、陽春の家に、俺、笹川さん、達樹、が集まっていた。
「で、どこまで出来てるの?」
陽春の家に着くと笹川さんが達樹に聞いた。
「うーん、残りはこれとこれとこれかな」
「まだ結構あるじゃない」
「忙しかったし……」
「私の方が忙しいんだけど。櫻井だっておんなじ感じだけど終わってるでしょ」
「……面目ない」
「すぐ始めて」
「……はい」
達樹は渋々と宿題を始めた。次は俺の番か。
「で、陽春は残りは?」
「……これだけだよ」
「これってうちでやってから全然進んでないよな」
「そんなこと……あるかも」
「はぁ……始めようか」
「うん。和人、横で見てて」
「もちろんだ」
俺は陽春のすぐ横にくっついて宿題を進めるのを見ていた。
すると、達樹が言う。
「えっと……和人達はあんな感じだし、理子もそばに――」
「暑いし無理」
「えー!」
「それにすぐ興奮するでしょ、達樹は」
「う……否定できない」
「出来たらちゃんと見てやるから」
「うん……」
俺たちは午前中宿題を進めた。
お昼はピザを取ることにしている。今日は亜紀さんが帰ってきていた。
「私も一緒に食べていい? 多めに注文するから」
「もちろんです!」
「やったー」
亜紀さんを加え、5人でピザを食べ始めた。
「和人君も大変ねえ。陽春はいつも最後まで宿題やらないから」
「もうすぐ終わるもん!」
「陽春はまだいいですよ。達樹なんて全然やってないから」
笹川さんがため息をつく。
「ふうん、じゃあ達樹君。午後は私が見てあげようか」
「え、いいんですか!?」
「あ、理子ちゃんが怒っちゃうか」
「いえ、亜紀さんなら別にいいですよ。ただし達樹! 亜紀さんに迷惑掛けないようにね。セクハラしたらただじゃおかないから」
「するわけないだろ!」
「ならいいけど。亜紀さん、よろしくお願いします」
「はーい」
食べ終わると笹川さんはバイトに出かけた。
午後、少しすると陽春の宿題はようやく終わった。
「終わったー!」
「残り少しだと思ったけど結構あったな」
「うん、和人ありがとう!」
陽春が俺に抱きつく。
「まーた、陽春が甘えてる」
「甘えていいでしょ、彼氏だし。お姉ちゃんは元カレの弟に甘えたらだめだよ」
「甘えるわけ無いでしょ。達樹君、頑張って」
「は、はい!」
横で亜紀さんが見ていると達樹はかなり宿題がスピードアップしたようだ。
亜紀さんが横であれこれ教えてるのも大きいけど。
達樹が終わるまで、陽春は部誌の表紙の仕上げを描き始めた。俺はと言うと陽春から貸してもらったSF漫画を読んでいる。
夕方には達樹の宿題は終わった。
「これで終わり?」
「はい、ありがとうございます!」
達樹が亜紀さんに頭を下げた。
「いいよいいよ。達樹君は弟みたいなもんだし」
「へー、弟ねえ」
陽春がニヤニヤして亜紀さんを見る。
「そういう意味じゃ無いから」
それを見て達樹が言う。
「あのー、亜紀さん、兄と会ったりしてるんですか?」
「たまにね。あ、復縁はしてないからね。まだ私、許してないし」
「ですよね……」
「じゃあ、お姉ちゃん、今度またみんなで遊びに行きたい!」
陽春が言い出した。
「みんなって?」
「海水浴のメンバー! もちろん、幸樹さんもね」
「なんで幸樹も……」
「だって運転手は2人必要だし。知ってる人の方が気楽だもん」
「だからって、幸樹じゃなくていいでしょ。あ、季彦兄ちゃんとかは?」
「え、お兄ちゃん? それ、すごくいい! でも、年末か……」
「年末、みんなで行こうね」
「うん!」
陽春、あっさり、亜紀さんの言うがままになったな。
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