第209話 台風

 木曜日。本来なら今日が始業式になるはずだったが、前日のうちに学校から連絡が来て台風のため休校が決まった。それも木曜、金曜と二日連続だ。その後は土日だし、始業式が四日延びたことになる。


『和人、暇だねえ』


 台風で外に出られない中、陽春が電話を掛けてきた。


「そうだな」


『始業式の方が良かったよ』


「そうかもな。でも、宿題は終わらせたのか?」


 あと少し残っていたはずだ。


『……』


「陽春、とりあえず終わらせような」


『うぅ、終わったらまた電話するね』


 だが、なかなか陽春からの電話はかかってこなかった。


 夜、8時頃、陽春から電話がかかってくる。


『今、邪神ちゃんの一挙配信やってる! 二期だけど誰でも見られるし一緒に見ようよ!』


「へぇー、見てみるか」


『文芸部のグループにも流してみんなで実況しよう』


 ネットの某生放送で「邪神ちゃんドロップキック」の一挙配信が始まっていた。

 陽春が文芸部のグループにアドレスを送ったので、何人かは見ているようだ。


冬美『初めて見たけどなんだかグロいわね』


雫『でも、衣装可愛くないですか?』


冬美『そうね。勉強になるわ』


立夏『出血シーンが多いからパス』


陽春『立夏ちゃーん、見ようよ!』


立夏『仕方ないわね。和人君も見てるの?』


和人『見てるよ』


立夏『なら見ようっと』


陽春『立夏ちゃん、元気そうで安心した』


立夏『私に気を使わないで。元気だし和人君も好きなままだから』


陽春『そうなんだ』


立夏『そうよ。ちゃんと区切り付けただけ』


 立夏さんがあまり変わらないようで良かった。


 その後も、台風の日の夜に実況チャットで俺たちは盛り上がった。


雫『明日は三期の放送ですか?』


陽春『そうだよ。阿蘇高森編は夜中かな』


雫『絶対見ましょう』


 翌日も台風の影響で熊本市内はほぼ全ての公共交通機関は運休し、お店も休みだ。それほどひどい雨では無かったが、念のため家に籠もることにした。


 そういえば、陽春は宿題は終わったんだろうか? 俺は昼頃電話してみる。


陽春『和人、暇だね。少しお話ししよう』


和人「そうだな。ところで宿題は?」


陽春『もう少し』


和人「少しは、やったのか?」


陽春『机に広げては居るよ』


和人「つまりやってはないと」


陽春『これからやるから!』


和人「うん、頑張れ」


 俺は電話を切った。


 夜になり、また文芸部のチャットが動き出す。邪神ちゃん3期の実況だ。今回は三上部長も雪乃先輩も見ているようだ。


三上『これは「三体」のネタだな。すごいな、このアニメ』


和人『ですね。初めて見たとき驚きました』


 邪神ちゃんのアニメ3期にはSF小説『三体』を読んでいないと分からないネタが登場する。SFファンの俺と三上部長にとってはすごく面白いシーンだが……


陽春『意味分かんない!』


和人『三体読もうな。部室にあるぞ』


不知火『読んでみます!』


雫『不知火には難しいかもね』


不知火『え! 上野さんは読んでるの?』


雫『当然でしょ。ヒューゴー賞だもん』


陽春『さすが雫ちゃん! で、ヒューゴー賞って何だったっけ?』


 そこからは三上部長のヒューゴー賞解説が続いた。


 そして、深夜になり、ようやく阿蘇・高森編の放送が始まった。


雫『改めて見ると湧水トンネルのリアルさがすごいです』


陽春『ここで不知火君に肩抱かれたんだったっけ』


雫『抱かれてません!』


冬美『え、不知火君と行ったの? 二人で?』


立夏『いいなあ。デート』


雫『デートじゃ無いですから』


立夏『じゃあ何?』


雫『高森駅もすごくリアルですよ』


立夏『話そらされた』


陽春『見てると行きたくなってきた!』


和人『じゃあ亜紀さんにお願いしような』


立夏『亜紀さん?』


陽春『お姉ちゃんだよ。車あるからいろいろ連れて行ってくれるんだ』


立夏『お兄ちゃんは居ないの?』


陽春『居るけど紹介はしないからね』


立夏『陽春ちゃんのケチ』


陽春『まだそれ言われるとは思わなかった』


 アニメが終わってからもしばらくチャットは続いた。


雪乃『みんなもう寝ないと』


陽春『ですね。お休み!』


立夏『もっと話したい。和人君話そうよ』


冬美『立夏、区切り付けたんじゃなかったの?』


立夏『そうだった。仕方ない。お休み』


和人『みなさん、お休みなさい』


 台風の被害はみんな無かったようだ。

 学校も被害は無く、月曜日が始業式に決まった。


 そういえば、陽春は宿題を終わらせたのだろうか……

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