第208話 バイト最終日
水曜日。今日が俺と達樹、陽春はバイト最終日だ。
だが、感慨にふける暇は無かった。俺と達樹のバイトは果樹園。台風が迫っていたからその対策をやらなければならなかった。
「いやあ、和人達がいて助かったよ」
作業が終わり、じいちゃんが言う。
「俺たちもこのバイトですごく助かったから。また、今度もやりたい」
「うんうん、是非おいで。そして彼女さん達も連れてくるんだよ」
「わかった。今度連れてくる」
「必ずだよ。彼女さんを大事にね」
じいちゃんの家を離れ、俺と達樹はバスで街中に向かい、陽春と笹川さんがバイトするファミレスに来た。
「いらっしゃいませ。あ、和人!」
「陽春、今日が最後だな」
「うん、寂しい。あ、私の写真撮る?」
ファミレスの制服でポーズを撮る。
「客が撮ったらまずいだろ。でも、笹川さんに撮ってもらって送ってもらいたいな」
「うん! 後で送るね。あ、あっちにみんな来てるよ」
みんな? 誰だろう。連れられていくと確かにみんな居た。三上部長に雪乃先輩、冬美さん、上野さんに不知火だ。さすがに立夏さんは居ないか。
「みんな来てたんですね」
「今日で陽春ちゃんのバイトも最後と聞いたからね。みんなで来てみたら雫ちゃんたちも居たから」
「あれ? ということは上野さんと不知火は別口か。デートか?」
達樹が聞く。
「ち、違います。陽春先輩の最後のバイトを見に来たらたまたま不知火と会っただけです」
「たまたまね。偶然だなあ」
達樹がわざとらしく言った。
「冬美さん、立夏さんは大丈夫?」
俺は小さい声で聞いてみた。
「あー、大丈夫よ。早めに帰っただけでさっきまで居たのよ」
「そうなんだ」
「陽春ちゃんがプリンとティラミスご馳走するって言って」
陽春がそんなことを……
「でも、それ食べたら小説を仕上げたいからって言って帰ったわ。まあ、あんたと顔会わせなたくも無かったんだろうけどね」
「……」
「でも、あんまり気にしないで。これからも今まで通り接してよね」
「わかった。できるだけそうするよ」
俺と冬美さんの会話を聞いても三上部長と雪乃先輩は何も聞いてこないということは冬美さんから聞いているんだろうな。
「……ところで櫻井先輩と小林先輩、今日ぐらい違うの食べたらどうですか? いつもドリアですよね」
上野さんがそう言いながらメニューを差し出してきた。
「よく知ってるね」
「陽春先輩に聞きましたから」
そりゃそうか。でも、ドリアが一番コスパがいいんだよな、ここは。
「よし、じゃあ今日はぱーっと行こうぜ。ピザにパスタにプリンにティラミスだ!」
「お前、それ一人で食うのか?」
「おう!」
「……まあ、たまにはいいか」
俺も同じ物を頼んだ。結局、ピザは他の人にあげてしまったけど。
「ところで不知火君」
冬美さんが不意に不知火を呼んだ。
「は、はい!」
「なんで目を合わせてくれないのかなあ」
「そ、それは……」
ん? どうしたんだろう。不知火は冬美さんの方を見ようとしない。
「冬美、かわいそうでしょ。純情な青年に」
「ふふ、かわいい」
「冬美先輩、不知火を誘惑しないでください」
上野さんが言う。
「あら、ごめんね、雫ちゃん。だって、不知火君の反応が面白くて」
「もう……こういう服に免疫が無いんですから」
そうか。不知火は冬美さんの地雷系ファッションに照れていたのか。
「そんなんじゃ、雫ちゃんのコスプレ写真なんて見せたときには……」
「コスプレ…・・」
「そんなの見せませんから」
「『花園ゆりね』のコスプレした雫ちゃん、すごくかわいかったわよ」
冬美さんはスマホで写真を見ているようだ。
「和人君に見せていい?」
「……先輩たちには見せていいですよ」
「じゃあ、どうぞ」
俺と達樹で写真を見た。
「うわ、これ、かわいい! さすが学年のアイドル!」
達樹が騒ぐ。
「確かにそっくり。完成度高いな」
俺は邪神ちゃんドロップキックを見てるから、これが『花園ゆりね』のコスプレとして完成度が高いのが分かる。
最後に三上部長が見た。
「……どれどれ、うーむ、可愛いな」
「デレデレしないの」
「うっ!」
雪乃先輩のひじうちに三上部長は痛そうだ。
「あら、大地さん。お姉ちゃんの逆鱗に触れちゃいましたね」
「ちょっと肘が当たっただけよ」
「ふふ、で、不知火君に見せなくていいのかな?」
「お、俺は……」
「不知火、見たいの? 見たいならはっきり言って」
上野さんが聞く。
「み、見たいかも」
「『かも』なら見せなくてもいいのね」
「み、見たいです!」
「仕方ないわね……」
上野さんは冬美さんのスマホでは無く、自分のスマホから写真を見せた。
「す、すごい! かわいいけど、何より綺麗だ! 芸術だよ!」
不知火が興奮している。
「わ、わかったから大声出さないで」
「ご、ごめん……あとでその写真くれたりとかは……」
「するわけないでしょ」
「そ、そうだよね……」
そこに陽春が通りがかった。
「あれ? 雫ちゃん、あの写真、不知火君に見せたの?」
「はい、見たいと言うんで」
「そうなんだ。絶対見せないって言ってたのに」
「何か流れで見せちゃいました」
「そっか、あれ私が撮ったんだよ。不知火君にも後で送っておくね」
「え!?」
「あ、お客さんだ」
上野さんが止めるまもなく陽春は去って行った。
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