第206話 宿題
花火大会の翌日はさすがに疲れたのかなかなか朝が起きられなかった。
だが、スマホが振動する。陽春からの電話だ。メッセージ無しでいきなり電話とは、何かあったんだろうか。俺は慌てて、電話に出た。
「和人、大変!」
「陽春、落ち着いて。なにかあったのか?」
「うん……すっかり忘れてた」
「何を?」
「夏休みの宿題……」
「…・・お休み……」
「ちょっと! 彼女が緊急事態なんだよ! なんで寝るの!」
電話越しでも陽春の声は大きい。
「分かった、分かった。それで、俺にどうして欲しいんだ?」
「手伝って! 今からそっち行くから」
「わかった。準備しておく」
「ありがとう、和人! さすが! 大好き! かっこいい!」
相当宿題に困っているようなことは伝わってきた。何しろ始業式は木曜日。4日後に迫っていた。
◇◇◇
陽春が家に来たのは10時ごろだった。
「お邪魔します!」
「陽春ちゃん、いらっしゃい。元気だった?」
「はい!」
「今日はお昼を食べていってね」
「ありがとうございます!」
母の声が聞こえる。俺は部屋から出た。
「和人! 陽春ちゃん来たわよ!」
「わかってる。陽春、俺の部屋に」
「うん!」
陽春を部屋に入れ、座らせる。
「飲み物持ってくる」
「ありがとう」
俺が飲み物を持って部屋に戻ると、陽春は寝転んで漫画を読んでいた。
「陽春! 今日は宿題するんじゃないのか?」
「そうだった! 和人の部屋、面白い本あるから……」
「本は後回しだ。始めるぞ。何が残ってるんだ?」
「うーん、これとこれと……」
まだ残っている宿題をチェックする。しかし、これは……
「陽春……」
「ん? 何?」
「この間やったところから全然進んでないんじゃないか?」
あれはまだ8月の頭だった。あれから三週間ほど経ってる。
「あ、気がついちゃった?」
「陽春……」
「だって……いろいろ忙しかったし……」
「はぁ……仕方ない。さっさと終わらせるぞ!」
「うん! じゃあ、和人はこっちをお願い」
「……自分でやらないとダメだぞ」
「えー!」
「俺は教えるだけだ」
「はぁ……じゃあ、横に来て教えて。向かいだと分かんないから」
「わかった」
俺は陽春の隣に座った。陽春が近づいてきて体が密着する。
「陽春、今日は何しに来たんだっけ?」
「宿題だよ。でも、和人がしたいんだったら……」
「宿題しような」
「う、うん……」
俺だってイチャイチャはしたいが、まずは宿題を終わらさなくては。陽春が答えを書き始める。俺は陽春が行き詰まるといろいろと教えてやった。
「和人、陽春ちゃん、そろそろ昼にする?」
母が部屋に来て言う。
「そうだな、お昼にするか」
「あ、お昼の準備とか手伝います!」
「今日は宿題優先だろ」
「だめだよ、手伝わないと。ご馳走になるんだし……」
陽春と共にキッチンに行く。
「今日はホットケーキよ。陽春ちゃん、手伝える?」
「もちろんです!」
「じゃあ、お願いね。和人は座ってて」
「分かった」
俺はリビングに居ると、陽春の声が聞こえてくる。
「こ、こうですか!?」
「そうそう」
「あっ! すみません!」
「大丈夫よ」
「うわぁ!」
「落ち着いて、陽春ちゃん」
かなり心配な声がいろいろ聞こえてくる。
しかし、最終的には出来たようだ。
「できた! 和人、取りに来て!」
陽春の言葉にホットケーキを取りに行く。見たところ、特に問題ないようだな。
「いっただきまーす!」
陽春の大きな声で俺たちは食べ始めた。うん、美味いな。
「陽春ちゃんに料理教えるのは楽しいわね」
「……すみません……私、不器用で……」
「大丈夫。そんなに下手じゃ無いわよ」
「ありがとうございます!」
「でも、陽春ちゃん、ほんと良い子。うちに嫁に来ない?」
「そのつもりです!」
陽春……そこまで言ってしまうか。まあ、俺もそのつもりはあるけど。
「和人、しっかり捕まえておきなさいよ。こんな良い子、なかなか居ないわよ」
「わかってるよ」
ほんと、最近は親がいつもこれを言ってくる。うちの親はかなり陽春を気に入ってるようだ。俺も陽春を手放す気は無いが、高校生からのカップルでそのまま結婚まで行く例は少ないらしいし、不安はある。絶対に陽春と別れたくない、そう思った。
午前中に頑張ったため、午後はあと少ししか宿題は残っていなかった。だが、陽春にも気力は残っていなかったようだ。
「和人……眠くなってきた」
「まあ、昨日花火大会だったし、疲れはあるよな」
俺も少し眠い。
「うん……ちょっと寝ていい?」
「いいぞ」
「うん、寝る」
陽春はその場でバタッと倒れて寝始めた。
まったく……そう思いながらも俺もその横で寝ていた。
◇◇◇
「うっ……」
顔に何かが当たり、俺は目を覚ました。陽春の手だ。気がついたら陽春は大の字で寝ていた。
「あー、眠い」
ようやく起きたが、陽春はまだ気持ちよさそうに寝てる。
思わず陽春の顔をじっと見る。寝てる姿も可愛い。そして、陽春の体を思わず見てしまう。やばい。俺には魅力的すぎる体だ。他の誰でも無い。陽春の体だから。
この誘惑に耐えるのは難しい。このままだと何をしでかすか分からないと思い、ちょっとかわいそうだが陽春を起こすことにする。
「陽春、そろそろ起きよう」
「う、うん……何時?」
「3時だな」
「そっか……おやつ買いに行こう」
「おやつ?」
「うん。今日のお礼に買いに行くつもりだったから。和人も行こう」
「そういうことなら行くか。目を覚ましたいし」
「うん!」
陽春が立ち上がった。そして、俺を見つめて言った。
「えっと……和人」
「なんだ?」
「寝てる間にいろいろしたりしてないよね」
「するわけないだろ」
しそうにはなったけど。
「そ、そっか。でも、寝顔とか見たでしょ」
「そりゃあな」
「他にもいろいろ見てたりして」
「見てないから」
見ようかとは思ったけど。
「まあ、和人なら何しても良いけどね。でも、起きてるときの方が良いなあ」
「わかったわかった、起きてるときな」
「え!? 帰ってから何かする?」
「宿題だな」
「えー!」
結局、この日、宿題はもう少しだけで終わる状態になった。
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