第203話 花火大会①
今日は江津湖での花火大会だ。俺は行ったことが無いのでどうやって行くのかもよくわかっていない。そのあたりのことは全て陽春が計画を立てているということだ。とりあえず、俺は夕方4時に陽春の家に来ることになっていた。
陽春の家に向かう途中、前を歩く浴衣の男性が居た。あれは……不知火だな。そういえば、浴衣で来いと言われてたか。ちなみに俺はTシャツにジーンズのいつもの格好だ。
「不知火、来てたのか」
「はい、迎えに来なくていいと言われてたんですけど、どうせなら行こうかと」
「そうだな」
待ち合わせは熊本駅周辺だが、上野さんも昨日から陽春の家に泊まっているのだ。
陽春の家に到着し、玄関でインターフォンを押すと、陽春が出てきた。
「和人、もうちょっとかかりそうだから上がって待ってて。不知火君も」
陽春はひまわりが描かれた浴衣を着ていた。俺は思わず見とれてしまった。
「ふふ、和人、私の浴衣、いい?」
「うん、すごく似合ってる。可愛いよ」
「ありがとう! さあ、どうぞ」
俺たちはリビングに通され、そこでソファーに座る。
「ちょっと待っててね」
陽春は隣の部屋に入っていった。そこから上野さんと陽春の声が聞こえてくる。
「大丈夫ですかね……」
「うん、大丈夫!」
しばらくすると、扉が開いて、陽春と上野さんが出てきた。
「お待たせ!」
上野さんも浴衣だ。朝顔が描かれた青を基調とした浴衣。髪をアップでまとめているのが新鮮だ。
「え、不知火も来てたんだ……どうかな?」
「す、すごく似合ってる……」
「そう? 不知火の浴衣もいいよ」
「あ、ありがとう」
それを見て陽春が言う。
「うんうん、不知火君も立ってちょっと並んでみて」
「え?」
「いいからいいから」
上野さんの横に不知火が立った。二人とも浴衣姿ですごくお似合いだ。
「うん! いい!」
陽春が写真を撮り出す。
「ちょ、ちょっと! 陽春先輩!」
「雫ちゃん、これ見てよ!」
陽春が上野さんに写真を見せた。
「ね、いい写真でしょ」
「まあ……確かに」
「外で他の人が居たら撮りづらいでしょ? それに暗いし。だから今撮っておかないと。さ、もうちょっと撮ろうか」
陽春がカメラマン気取りでさらに写真を撮る。
「はい、もうちょっと近づいて!」
上野さんと不知火が近づく。肩がくっつきそうだ。
「じゃあ、不知火君。雫ちゃんの肩抱いて!」
「え!?」
「陽春先輩、悪ノリしすぎです」
「あら? うまくいかなかったか。アハハ。うん、じゃあこれぐらいにしてそろそろ出ようか」
「ですね。ここから熊本駅まで行くんですよね」
「うん、理子たちももう来てると思うし」
俺たちは駅まで歩く。するとその途中の道に浴衣の女性とTシャツの男性が居た。笹川さんと達樹だ。
「よう、来たな」
「理子! 浴衣似合ってる!」
「陽春と雫ちゃんもね」
薄々感づいていたが一応聞いてみる。
「……なんでお前ら、ここで待ってたんだ?」
「そりゃ、ここでお前が浜辺さんに告白した場所だからだろ」
「待ち合わせ場所に使うな!」
「えー! ダメだった?」
それを言ったのは陽春。この場所を待ち合わせ場所に決めたのは陽春だったか。
「はぁ……まあ、いいか。先を急ごう」
駅に近づくにつれ、人が多くなってきた。
「なんか……すごい人ですね」
上野さんは人が多いところは苦手だ。
「そうだね。でも大丈夫だよ! シャトルバス予約してるし」
そういえば陽春がそう言っていた。路面電車でも会場近くまで行けるが、花火大会の時の路面電車はめちゃくちゃ混雑する。人混みが苦手な上野さんには無理だろうということで今日は熊本駅から出るシャトルバスの席を陽春が人数分予約していた。
バス乗り場からは随時バスが出ているようだ。俺たちはバスに乗り込んだ。
「じゃ、カップル同士で座ろうか」
陽春が言う。
「カップルじゃ無いです」
上野さんがすぐに言い返した。
「あ、面倒だから今日はカップルってことにしておいて」
「……分かりました」
「え!?」
俺は思わず声を出してしまった。上野さんがカップル扱いを了承するとは……
「櫻井先輩、なんですか?」
「いや、別に……」
「いいですよね。便宜上カップルになるだけですから」
「そ、そうだね」
そう言いながら陽春の隣の席に着く。俺は陽春に小声で聞いてみた。
「上野さん、かなり素直になってきてないか」
「そうね。後一歩かも」
「マジか……」
かたくなに現状維持としてきた陽春も進歩を認めるとは。不知火が報われる日も近いのか。
「でもなあ。その一歩が厳しそう」
「そうだよな……」
まだまだ遠いのかも知れない。
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