第201話 冬美の部屋

 私、浜辺陽春は上野雫とともに冬美さんの家に来ていた。冬美さんの家は上熊本駅から少し歩いたところにある一軒家。結構、大きい家だ。薄々思ってたけど、お金持ちっぽい。


「いらっしゃい」


 玄関から冬美さんが出てきた。前にも見た地雷系の格好だ。


「うわあ、冬美先輩。すごく似合ってます!」


 こういう冬美さんを初めて見た雫ちゃんが興奮している。


「いいでしょ、これ」


「はい! 『花園ゆりね』の服に近いですね」


「もっと似てるのあるわよ。さ、入って」


「おじゃましまーす」


 私たちは冬美さんの家に上がった。


「今は親も居ないから気楽にしてね」


「そうなんだ……そういえば、雪乃さんは?」


「お姉ちゃんは大地さんとデートよ」


「そっか」


「うん、金曜は部活もないし、だいたいデートね。最近は夜も遅いんだから」


「え……そうなんだ」


「そうなんだよねえ、何してるのやら」


 そう言って、私を見る。


「な、なんなんだろうねえ。アハハ」


 私は笑うしかなかった。


「はい、ここが私の部屋」


 そう言われて入ると、そこには立夏ちゃんが居た。あのとき買った地雷系の服を着ている。


「うわあ、立夏先輩も似合ってます!」


「そう? これが和人君がいいって言ってくれたやつよ」


 そうだけど、あれはセクシーな服よりはいいという意味だった。けど、これは言わないでおこう。


「いいですねえ」


 雫ちゃんはじろじろと見ている。


「じゃあ……雫ちゃんも着てみる?」


「いいんですか?」


「もちろんよ。あ、陽春ちゃんも?」


「ウチは遠慮しとく」


「だよね。じゃあ、ちょっと手伝って」


 私と冬美さんは『花園ゆりね』に近い服を探す。それにしてもこのクローゼット。服の数がすごい。どれも地雷系だし、これをそろえるのにどれだけお金がかかるのやら。


「うーん、これが近いかも」


「そうね。じゃあ、これを上野さん着てみて」


「はい、ありがとうございます」


 早速、雫ちゃんが着替えだす。

 私たちが服を探している間に立夏ちゃんが雫ちゃんの髪型を『花園ゆりね』のようなツインテールにしていた。


「えーと……眼帯はここにあるよ」


 冬美さんが用意する。


「眼帯まであるんだ……目の病気とかしたの?」


「ううん、もちろんファッションよ」


「そうなんだ……」


 雫ちゃんは眼帯を付けた。


「どうですかね……」


「すごい! そっくり!」


 目の前に『花園ゆりね』が現れたみたいだ。私は写真を撮って雫ちゃんに見せた。


「ほら?」


「すごい! ほんとにそっくりですね。あ、日傘持ったらもっと……」


 雫ちゃんは日傘を剣のようにしてポーズを撮った。私はカメラマンになって撮りまくる。


「どう?」


「おお! いいですね。私のスマホでも撮ってください」


 私、冬美さん、立夏ちゃん、三人でコスプレ撮影会みたいになった。


◇◇◇


 3人は地雷系の服、私はTシャツにショートパンツのままでおやつタイム。お菓子に紅茶を食べながらガールズトークだ。


「何か陽春先輩だけ浮いてますね」


「そうね。陽春ちゃんも何か着れば良いのに」


「ウチはいいよ、似合わないし恥ずかしいもん」


「そんなこと無いと思うけど」


「だって二人は背も高いしスタイルもいいでしょ。雫ちゃんは超可愛いし。ウチはみんなに比べると普通だから」


「そんなこと言って……雫ちゃん、実は陽春ちゃんモテるのよ」


 冬美さんが言う。


「そうみたいですね。そういう感じのことは聞いてますけど」


「いや、雫ちゃんの想像以上よ。私たち、2トップとか言われてるけど、陽春ちゃんの方がモテるんだから」


「そんなわけ!」


「あるでしょ。私はいろいろ聞いてるからね」


「うぅ……」


「そうなんですね。意外です」


「まあ、雫ちゃんもだけど、私たち高嶺の花扱いされてて、そうなると意外に告白されないのよね」


「そうかもしれないですね」


「うん。でも、陽春ちゃんは親しみやすい性格でしょ。男子とも気軽に話すし、馴れ馴れしいし、バカみたいに明るいし」


「なんか悪口言われているような……」


「結局こういう子がモテるのよ」


「確かに……」


「雫ちゃんまで納得しないでよ!」


「でも、ほんとそう」


 今度は立夏ちゃんが言う。


「他の子なら何とかなってもライバルが陽春ちゃんだったから、私、絶望的だったもん」


「そんな!」


「絶対、勝てないって思って……実際そうだったんだけど」


「立夏ちゃんの方が美人だよ……」


「でも、和人君が選ぶのは陽春ちゃんでしょ。分かってるわよ」


 立夏ちゃん、そんな風に思ってたんだ。


「それでね……陽春ちゃん。今日は陽春ちゃんに伝えたいことがあります」


 立夏さんが改まって言った。

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