第198話 顧問チェック

 月曜日に久々のバイトで俺はかなりの体力を消耗し、陽春を送った後、家に帰って早めに就寝した。


 翌日は合宿以来の文芸部。合宿で部誌を仕上げたので、もう部活への参加は自由参加のはずだが、今日は全員招集がかかっている。部誌をチェックした顧問の柳井先生が来るそうだ。これはいろいろ言われそうだな。


「浜辺陽春、櫻井和人、入ります!」


 陽春とともに部室に入ると、そこには三上部長、雪乃先輩、後藤先輩が居た。


「久しぶり、陽春ちゃん」


「お久しぶりです。雪乃師匠に三上部長、後藤先輩……って、後藤先輩焼けました?」


 良く見ると確かにそうだ。最後にあったロアッソ観戦の時から比べて日焼けしている。


「まあな。お盆は釣りにずっと行ってたから」


「釣りですか。そんな趣味ありましたっけ?」


「細々とやってたが、この夏はずっとやってたな」


「へぇー」


 そんな話をすると、「長崎冬美、高井立夏、入ります」と声がして、この二人が入ってきた。


「和人君……」


「え、立夏さん、どうしたの?」


「ほ、本物だ……」


「いや、本物だけど」


「……立夏、落ち着いて」


 冬美さんが立夏さんを座らせた。


「立夏、ずっと自分の小説を書き直してみたみたいで、和人君が物語の中の人になっちゃってるみたい」


「それは危険だな……」


 後藤先輩が言う。


「立夏、まだ書き直してるのか。俺が後で見てやる」


「あ、えっと……今日は雪乃先輩に見てもらいます」


「そ、そうか……」


 合宿の時は立夏さんは後藤先輩に見てもらっていたのにどうしたんだろう……


「後藤、お前、いつの前に『立夏』って呼んでるんだ?」


 三上部長の言葉に俺も初めてその事実に気がついた。


「え、合宿の時にはもう呼んでたぞ」


「なんでだよ」


「なんでって……いつの間にかだな」


「いつのまにかねえ」


 そんな話をしていると「上野雫、不知火洋介、入ります」と声が聞こえ、1年生2人が入ってきた。


「あら、また二人で待ち合わせたの?」


 冬美さんが聞く。


「そうですけど、なにかいけませんか?」


「あら、認めるんだ」


「もう合宿の時にバレちゃったんでいいですよ」


 上野さんは動揺せずに席に着いた。


「……なんか距離近くない?」


 確かに上野さんと不知火、いつもより近づいているような……

 冬美さんの言葉に、上野さんはすぐに椅子を不知火から離した。


「あ、ごめん、そういうつもりじゃ……」


「いえ、ちょっと椅子の位置がずれてたので」


 上野さんがそういったとき、柳井先生が入ってきた。文芸部の顧問だ。


「おっ、みんな集まってるな。後藤もちゃんと来てる」


「来てますよ」


「よし。みんな合宿お疲れ様。部誌がほぼ完成したと言うことで、見せてもらったからその感想を言おうと思ってな」


 ちょっと、緊張する。


「まず、三上。ちょっと難しい言い回しが多いかなと感じたが、それぐらいだ。直すかどうかは自分で決めろ」


「はい。ありがとうございます」


「それと長崎……雪乃の方だな。これは……犯人が次の部長と言うことでいいのか?」


「はい、そうです」


 部誌で部長を発表するんだったな。


「ちゃんとそれを書いておいてくれ」


「わかりました」


「それから、高井の小説だが、だいぶ良くなったな。これでいいんじゃないか」


「先生、すみません。もうちょっと書き直したいと思ってて……」


「そうか。まあ、気の済むまでやりなさい。ただし、締め切りは守るように」


「はい……」


「あと、小説は上野か。これは面白かったな。言うこと無しだ」


「ありがとうございます」


 さすがは上野さんだ。


「それと、書評だが三人とも面白かったぞ。ただ、不知火のはやはり先輩達のと比べると少し落ちるかな」


「は、はい……」


「もうちょっと時間いっぱいまで考えるといい」


「……わかりました」


 そう言う不知火は落ち込んでるな。上野さんが心配そうに見ている。


「あと、後藤の詩はもうあれでいいんじゃないか」


「ありがとうございます」


「え、後藤君、詩、提出したの? 見てないんだけど」


 雪乃先輩が驚いている。


「ああ。柳井先生にこっそり送って見てもらった」


「そういうことするんだ」


「いいだろ……お前にはギリギリまで隠したい」


「はぁ……まあいいわ……」


 わざとらしく柳井先生が咳払いをした。


「あとは浜辺のイラストだな」


「はい! どうでしたか?」


「まあ、いいんだけどな……特にデデデデのイラストは」


「はい……」


「表紙は今までの部誌に引きずられていて、浜辺の良さが出ていない感じがする。美術部員じゃ無いんだし、もっとポップなやつでもいいんじゃないか、とは思ったな」


「そう……ですか……」


「いや、今のでも良いと思うぞ。だけど、できれば別の案も考えてみてくれ」


「わかりました……」


 陽春が珍しく落ち込んでるな。


「それじゃ、部誌完成、頼んだぞ」


「「「ありがとうございました!」」」


 柳井先生は出て行った。


 俺は落ち込んでいる陽春の頭にポンと手を置いた。


「大丈夫、陽春なら出来るよ」


「うん……でも、どうしよう……何か案あるかな」


「今からじっくり考えよう。まだ時間はあるから」


「うん、そうだね……」


 陽春は次第に前向きになってきたようだ。

 

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