第189話 お盆①

 ロアッソ観戦の翌々日、お盆シーズンに突入だ。うちは7月盆なので、この時期には何も行わないが、陽春の家ではお盆に家族が集まるそうだ。ということで、俺も陽春の家に呼ばれていた。


 11時頃に陽春の家に着く。


「あ、和人! こっちだよ!」


 陽春が俺をいつものようにリビングに案内してくれる。そこには陽春のお父さんと姉の亜紀さん、それに見知らぬ男性が一人居た。20代ぐらいか。眼鏡を掛けた真面目そうな人だ。


「お、君が和人君か。こっちにおいで」


 その男性が俺を呼んだので横に座る。


「はじめまして、陽春の兄の季彦のりひこだ」


 この人が陽春のお兄さんか。三人兄妹の一番上。確か東京に住んでいるとの話だったがお盆には帰ってくると亜紀さんが言ってたな。


「は、はじめまして。陽春さんとおつきあいさせてもらっている櫻井和人です」


「うん、話はいろいろ聞いてるよ」


「は、はい……」


 何の話を聞いてるんだ。恥ずかしい話じゃ無ければ良いけど。そういえば、陽春はお兄さんの影響で陰キャ好きになったんじゃなかったっけ。あまり、陰キャという感じはしない。まあ、陽春は「陰キャじゃ無い! 研究者!」と言ってたが……。


「ね、陽春の好きそうな人でしょ」


 亜紀さんが季彦さんに言う。


「そうかな、俺は陽春の好きなタイプとか分からんけど……」


「兄ちゃんみたいな人がタイプよ」


「俺かよ……まあ、確かに俺も学生の時は大人しかったからなあ」


「そう聞いてました。実際会ってみると俺とは全然違いますね」


 俺は素直に言ってみた。


「そうかもな。社会人になって人付き合いが多少は出来るようになったから」


「そうですか……」


 季彦さんは陰キャを卒業したと言うことか。いや、元々、研究者ってだけで俺とは違うのかもしれないけど。


 そんな話をしていると陽春が俺の横に座った。


「和人、どう? お兄ちゃんの印象は……」


 陽春が少し不安そうに聞いてきた。


「うん、俺と違って陰キャじゃ無いな」


「今はそうだね、昔はよく似てた気がするけど……」


「陽春、昔の俺と似た人と付き合ってるのか?」


 季彦さんが茶化した感じで言う。


「ち、違うし! 和人は和人だもん!」


 陽春はそう言って俺の腕を引っ張った。


「ハハハ、でもなんか少し寂しいな。いつもは俺の横にべったりな陽春が今は彼氏の横だし」


「仕方ないでしょ、彼氏だもん」


「いや、それでいいんだよ。和人君、陽春をよろしくな」


「は、はい」


「甘えん坊で迷惑掛けると思うけど」


「あ、甘えん坊じゃないし!」


 陽春が大声で言う。すると亜紀さんが言った。


「へぇー、甘えん坊じゃ無いんだ。和人君には『私、甘えん坊』とか言ってたくせに」


「お、お姉ちゃん!」


「アハハ」


「もう怒った! お姉ちゃんは幸樹さんとはどうなったのかな?」


「な!?」


「ん? 幸樹さんって誰だ? 彼氏か?」


 そう言ったのは季彦さんじゃなくてお父さんの君弘さんだ。


「ち、違うって……陽春! 後で見てなさいよ!」


「えへへ」


 亜紀さんは慌ててキッチンの方に逃げていった。


「亜紀に彼氏ができたのか?」


 君弘さんが陽春に小声で聞く。


「うーん、今は付き合ってないみたいよ」


「そうなのか……彼氏ができたら和人君みたいに家に呼べば良いのにな」


「まあ、そのうち来るんじゃない?」


「そ、そうか……」


 お父さんは複雑な表情をした。


「そういえば、季彦は東京で恋人とかできたのか?」


「いや、俺はそういうのはいないね。今は仕事が恋人かな」


「そうか、まあまだ入社したばかりだからな。仕事が大事だな」


「うん、そうだね」


 俺は気になって聞いてみた。


「季彦さんは研究者って聞いてますが、具体的にはどういう研究なんですか?」


「まあざっくり言うと、AI関係かな」


「AIですか! すごいですね!」


「君もチャットGPTとかは知ってるだろ? そっちに繋がるような仕事だな。もっと具体的に言うと自然言語処理ってやつだ」


「はぁ……」


「アハハ、後で説明してあげよう」


 なんかすごそうだ、ということぐらいしか分からなかった。


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