第188話 ロアッソ観戦
合宿の後は家でぐっすり眠り、その翌々日。今日はみんなでロアッソ熊本の試合を観に行く日だ。俺は陽春の家まで来ていた。
「お待たせ!」
陽春が家の外に出てきた。今日はロアッソの赤いTシャツとショートパンツ。すごく似合っているな。ていうか、ロアッソのTシャツが大きすぎて、ショートパンツは隠れてしまっている。まるでTシャツだけ着ているように見えないことも無い……
「あれ? 和人どうしたの?」
「いや、今日も可愛いなと思って」
「やった! 和人も……格好良いよ」
「そんなことないだろ」
「ほんとだって。じゃあ行こう!」
そう言って陽春は俺の腕に抱きついてくる。暑いけど嬉しい。そのまま熊本駅まで歩いた。
今日は熊本駅が集合場所だ。時間は夕方4時。既に達樹と笹川さん、上野さんと不知火は来ていた。
「みんな、早いね」
「俺たちは駅ビルでデートしてたからな。不知火たちも同じみたいだぞ」
「え、そうなの、雫ちゃん」
「……ちょっと早く待ち合わせただけです。暇だから二人で駅ビル見てただけで」
「ふーん……で、それは?」
上野さんはクロミちゃんのぬいぐるみを持っていた。
「不知火がまた取ってくれたので」
「へぇー」
「なんですか……別にいいですよね」
「うん、いいんじゃないかな。不知火君もクレーンゲーム上手くなった?」
「いろいろ動画見て研究したので。多少は」
「ほほう、今度勝負しよう」
「のぞむところです!」
不知火、無謀な勝負の約束したな。
そこに後藤先輩と立夏さんが駅ビルの方から現れた。
「よう、待たせたな」
「後藤先輩! って、立夏ちゃんも一緒!?」
陽春が驚いて言う。
「あ……後藤先輩に少し相談に乗ってもらってて……」
「へぇー、ウチとしては立夏ちゃんが後藤先輩と仲良くしてくれるのは嬉しいけどねえ」
「何よ、私は和人君がいいんだからね」
「そんなはっきり言わなくても……」
「あ、ごめん。陽春ちゃんの邪魔はしないから」
「今日はよろしくね!」
「うん……」
立夏さんが沈んだ表情をしたら、後藤先輩が頭にポンと手を置いた。
「まあ、元気出せ。浜辺も高井も仲良くな」
「はい……」
そう言って立夏さんは大人しくなった。それを見て陽春が俺に小声で言う。
(立夏ちゃん、後藤先輩にすっかり懐いちゃったみたいだね)
(まあそんな感じだな)
俺たちは熊本駅からのバスに乗り、ロアッソ熊本の試合会場に行く。そこまでは1時間ぐらいかかる。結構遠いので陽春はバスの中ではぐっすり寝ていた。ふと周りを見るとみんなだいたい寝ているな。起きてるのは俺と不知火ぐらいか。不知火は上野さんがもたれかかってきて緊張してるようだ。そんな上野さんを見ているとちょうど目を覚ました。
「あ……不知火、ごめん」
「い、いいよ」
「そう? じゃあ、もうちょっと寝る」
再び、不知火にもたれかかって寝ていた。
試合会場に着くと、いろいろ食べ物を買い込み、スタジアム内に入った。
「よし、8人一列に座るぞ」と後藤先輩が言う。最初に笹川さんと達樹が奥に入った。その横に不知火が座り、上野さんが座る。上野さんの横に陽春が座ったのでその横に俺が座るとすぐに立夏さんが座った。後藤先輩が一番左だ。
「わー、この席、見やすいね、和人!」
陽春が言う。
「そうだな」
「和人君、私サッカーよく分からないから教えてね」と横から立夏さんが言う。
「いや、俺もそんなに詳しくないよ」
「そうなんだ」
「後藤先輩は詳しいですか?」と俺は聞いてみた。
「まあ、俺はたまに見に来てるからな。それなりには」
「じゃ、じゃあ、お願いします」
立夏さんは後藤先輩に言った。
試合が始まると後藤先輩は立夏さんに基本的な説明をしている。横を見ると不知火もそうだな。上野さんにいろいろ説明しているようだ。ちなみに陽春は……
「行け-! そこだー!」
とにかく大声を出している。スタジアムは大声を出す人も多いから陽春も乗せられているようだ。俺の右後ろの席にもやたら声を出している女子が居るし。
しばらく経つと、上野さんが不知火に言った。
「不知火、説明してくれるのは嬉しいんだけど、今は陽春先輩が横でうるさいからあんまり耳に入ってこないよ」
「そ、そうか……」
「あ、ごめん! 雫ちゃん」
「いえ、私もこういう場では騒いでみたいので。一緒に騒いでいいですか?」
「もちろんだよ!」
「「行けー!」」
珍しく上野さんが大声を陽春と一緒に出す。陽春も楽しそうだな。不知火も一緒になって大声を出し始めた。
そういえば、達樹たちはどうしてるんだろ。ふと見てみると……あいつら、めっちゃイチャイチャしてるな。もう少し場を考えろ。後ろの同じ年齢ぐらいのカップルが困った顔をしてるじゃないか。申し訳ない。
試合はずっと0対0だったが、終盤にロアッソ熊本が得点した。陽春と上野さんは抱き合って喜んでいる。俺も立ち上がって拍手していると、横から立夏さんに声を掛けられる。
「和人君! ハイタッチ!」
「お、おう!」
俺と立夏さんはハイタッチした。
「和人、なんでウチと最初にしないの!」
陽春もハイタッチを要求してくる。いや、陽春が上野さんと抱き合ってたからだけどな。俺は陽春ともハイタッチした。その横では上野さんと不知火がハイタッチしていた。
帰りのバスではやっぱりみんな熟睡だ。起きてるのは俺と不知火と……後藤先輩もか。立夏さんが後藤先輩にもたれかかっていた。
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