第187話 合宿2日目午後

 不知火達が買ってきたハンバーガーを食べると、昼休憩もないまま作業に取りかかる。和人は陽春への感謝を伝える俳句をああでも無い、こうでも無いと考えていた。


 そういえば、陽春はどうしてるんだろう。ふと見ると、上野さんが陽春のところに来ていた。


「陽春先輩、今度アニメ見せてもらっていいですか?」


「うん、いいよ。何のアニメ?」


「『邪神ちゃんドロップキック』ってやつで」


「あー、それならうちのサブスクで全部見れるよ」


「そうですか、じゃあ、今度また行きます」


「うん! あ、漫画なら電子で3巻まで買ってるけど読む?」


「え、いいんですか?」


「うん、ウチのタブレットに入ってるよ」


 陽春はタブレットを操作し、上野さんに渡した。


「ちょっと読んでみますね。好みが合わなかったからアニメ見るのやめるかもしれないですし」


「そっか……でもこの漫画、たぶん雫ちゃん気に入ると思うよ」


「そうなんですか。美少女漫画っぽい感じしますから好みじゃ無い感じしますけど」


「まあ、読んでみて」


 上野さんは読み出した。それにしても、「邪神ちゃんドロップキック」ということは、不知火のやつ、さっそく上野さんを誘ったんだな。昨日の夜、男子達で不知火と上野さんがどこに行くかを話して阿蘇の高森に決まった。高森について調べると「邪神ちゃんドロップキック」の聖地だというのが分かったが、俺たちは誰もこのアニメを見ていなかったのだ。。でも、陽春は知っていたのか。


 しばらく経つと上野さんは言った。


「陽春先輩、なんでこんなに私好みの漫画を教えてくれなかったんですか」


 相当気に入ったようだな。


「でしょ、気に入ると思ったよ」


「最高ですね。血が一杯出るし、チェンソーもあるし、可愛さもあるし」


 上野さん、チェンソー好きだな。


「でも、これって舞台は東京の神田かんだですよね。高森と関係あります?」


「邪神ちゃんたちが地方に行くアニメが作られてるんだよ。その最新版の舞台が阿蘇の高森」


「へぇー、そうなんですね。それも見れます?」


「もちろん! うちで見よう」


「ありがとうございます。あ、不知火、あんた『邪神ちゃん』見てるの?」


「いや……見たこと無い」


「ダメじゃん。せっかく聖地行くのに」


「そ、そうだね」


「ということで、陽春先輩。不知火も連れてきていいですか」


「もちろん! ……和人も来る?」


 陽春は俺に聞いてきた。不知火とはいえ、男子を自分の家に入れるわけだし、俺も行かないと。


「そうだな、じゃあ、俺も観に行くよ」


「やった! 楽しみ!」


 陽春にも楽しみが出来たな。

 上野さんと不知火は16日に高森に行くらしい。上野さんが忙しく、結局15日の午後に陽春の家に集まることになった。上野さんはそのまま陽春の家に泊まるようだ。


◇◇◇


 午後3時頃になると不知火の書評もほぼ完成したようだ。立夏さんの小説も後藤先輩がつきっきりで教えていることもあり、だいたい完成したとのこと。これで部誌の原稿はほぼそろったことになる。


「よかった」


 雪乃先輩が言った。


「これで顧問の柳井先生に怒られなくて済むわね」


「そうだな。だが、まだ完全には完成してないぞ。後藤の詩がまだだし」


「俺はできてるから。まだ見せないだけだ」


「まったく……あとは書評に入れる俳句だな」


「はい、ギリギリまで粘ります」


「うん、とりあえずいったん柳井先生に見せるから」


 データをまとめた雪乃先輩は言った。


 そのとき、玄関が開く音がした。あ、来たな。


「お邪魔しまーす」


 その声が聞こえて、俺が玄関に行くと予想通りの人物が居た。達樹と笹川さんだ。二人は合宿に遊びに来ると宣言していた。


「お、和人。差し入れ持ってきたぞ」


「いらっしゃい、みんな学習室に居るぞ」


 そして、達樹と笹川さんは学習室に入ってみんなの大歓迎を受けた。何しろ、差し入れにアイスを持ってきたからだ。みんなでアイスを食べだしたところで笹川さんが言った。


「陽春、イラストは出来たの?」


「うん、できたよ」


 陽春は自分のタブレットを見せた。


「おー、いいじゃん」


「まあね」


 達樹は上野さんのところに居る。小説を読んでいるようだ。


「うわ、これ、ホラーか」


「そうですよ、どうですか?」


「なんか……すごいね」


「ありがとうございます」


「でも、アイス食べながら読む物じゃ無いかも」


「そうですかね」


「ちょ、ちょっと和人のを見てくる」


 そう言って達樹は俺のところに来た。


「達樹、俺の書評見るか」


「それもいいけど、あれ、なんなんだ?」


 達樹は最後小声で俺に聞いた。後藤先輩と立夏さんの方を見ている。


「あー、立夏さんの小説をずっと後藤先輩が見ていたからな」


「それにしてもなんか距離が近くないか? いつのまに仲良くなったんだあの二人」


「まあ……この合宿中かな」


「ふうん、やっぱり合宿っていいな、俺も去年の合宿で楓との距離が縮まったからなあ」


「そうなのか?」


「ああ。夜中に起きていたら楓が居てな。それで――」


「何の話してるのかな?」


 笹川さんがいつの間にか近くに来ていた。


「あー、昔の話。理子、帰りに美味しい物食べるか?」


「そうね、達樹のおごりで」


「わ、わかった……」


 笹川さん、鋭いな。

 ふと見ると三上部長と雪乃先輩が何か話し合っていた。


「なんかもう集中力切れた感じだな」


「だね、合宿もここまでかな」


「よし、アイス食べたら掃除して合宿終わるぞ」


 そうか、もう合宿も終わりだったか。


 俺たちはその後、掃除をして合宿を終えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る