第184話 合宿での女子部屋②

 雫ちゃんが話を打ち切ったところで雪乃師匠が言った。


「じゃあ、次は冬美ね」


「え、私? 私は何も無いわよ」


 雪乃さんの指名に冬美さんは慌てていた。


「冬美先輩、好きな人居るってこの間言ってましたよね」


 雫ちゃんの反撃だ。


「え、居ない、居ない。アレはその場のノリで言ってただけだし」


「叶わぬ恋、でしたっけ? 強力なライバルが居るとか……」


「冬美、そんなこと言ったの?」


「ち、違うからね、ほんとに違うから……」


「何が違うんですか?」


「う……あんたたちは内緒にしてくれると思ったから言ったのに……」


「私もいじめられたんで反撃です」


「別にいじめてないでしょ、素直になれって言っただけだし……」


「どの口でそれ言ってるんですか」


「私は、まあ、素直じゃ無いけどさ……」


「え? 冬美の好きな人って、ぶちょ――」


「違うから!」


 立夏さんの推測を遮って冬美さんが大声を出した。


「お姉ちゃん、ほんとに違うの。信じて……」


 冬美さんが涙目になって雪乃さんを見た。


「ふふ、冬美は相変わらず可愛いわね」


「な、何よ、余裕ぶって……なんかむかつく」


「そうね、じゃあ冬美の話はここまでにしておこうかな」


 雪乃師匠が言った。さすが、大人だ。


「じゃあ、次はお姉ちゃんね」


 今度は冬美さんが反撃する。


「私は大地だけだから何も無いでしょ」


「でも、さっきは後藤先輩にも優しくしてたけどどういう心境の変化?」


「してないし……」


「だって、あの曲が良かったとか言ってたでしょ。後藤先輩、嬉しそうだったよ」


「あれは……まあ、好意を向けられること自体は嬉しいことだし。困ったことでもあったけどね」


「お姉ちゃんも嬉しかったんだ」


「ある意味ね。それに、大地とのことを隠してた罪悪感もあったから、後藤君には少し謝罪したかったのよ。なんか私たちのせいで悲しい高校生活になっちゃったから」


「そうでしょうか」


「え、立夏さん、何か違った?」


「はい、悲しい高校生活では無かったと思います。後藤先輩は雪乃先輩を好きな気持ちで幸せに去年の文化祭まではすごしていたはずです。それは雪乃先輩たちが交際を隠していたからこそ成り立ってたんです」


「まあ、そうとも言えるけど……でも、それは騙してたことになるのよ」


「はい、でも、つらい気持ちで過ごす方がきつかったりしますので。少し後藤先輩がうらやましいです……」


 私が和人と付き合っていることをもし隠していたら、立夏ちゃんはしばらくは楽しく過ごせた、ということだろうか。


「うーん、でもウチは騙したくない!」


 はっきり言った。


「まあ、陽春先輩なら騙そうと思ってもすぐにバレますし」


「「「確かに……」」」


「そんなことないし!」


「そうね……だから、結局、私はこういう運命か……」


 立夏さんがぽつんと言った。


「はい、じゃあ寝ましょうか」


 雪乃さんが言う。


「え、ウチ、恋バナしてない!」


「陽春ちゃんは和人君だけで、これ以上話すことは無いでしょ」


「えー! どんなデートしてるかとか、聞きたくないの?」


「聞きたくない」

「興味ない」

「私は知ってますし」


「ゆ、雪乃師匠は?」


「また、今度ね。もう遅いから寝ましょう」


「じゃあ、トランプ! トランプしよう!」


「「おやすみー」」


「えー! トランプ楽しみにしてたのに! 冬美さん! この間の貸し使うから!」


「えー……仕方ないわね……」


「よし! あと雫ちゃんね」


「はあ? もう寝たいんですけど」


「だめ! ちょっとだけだから……」


「分かりましたよ……何やるんですか?」


「まずは七並べね!」


「……まずはって、何回やるんですか……」


「眠くなるまで!」


「もう眠いですけど……」


 その後、七並べ、ババ抜き、大富豪と付き合ってくれた。途中から雪乃師匠と立夏ちゃんも入って盛り上がったので、私はすっかり満足した。でも、人狼もやりたかったなあ……


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