第179話 合宿開始
「わーい、久しぶり! セミナーハウス!」
陽春が叫ぶ。今日から文芸部の合宿。俺たち部員一同は昼過ぎに学校の敷地内にあるセミナーハウスに来ていた。今日は後藤先輩を含め、部員は全員居る。総勢9名だ。ここには先輩達と陽春は去年来ているが、俺は初めてだ。
「男女で寝る部屋は別れているからそこに荷物をそれぞれ置こう。それから学習室に集まってくれ」
三上部長の言葉で俺たちは荷物を置きにいく。後藤先輩の荷物を見ると気になる物があった。
「後藤先輩、これはギターですか?」
「まあな。合宿にはギターがつきものだろ」
「お前またああいうのをやるのか?」
三上部長が嫌そうに後藤先輩を見た。確か去年は雪乃先輩に送る自作の歌を歌ったということだったが……
「今日はちゃんと既存の曲をやるから安心しろ」
「ならいいが……」
「俺の伴奏で歌うか?」
「……遠慮しとく」
夜には後藤先輩のギターが聴けそうだな。
その後、みんなで学習室に集まった。ここには教室のように机と椅子が並べられており、前にはホワイトボードがある。最前列に三年生、その後ろに二年生、その後ろに一年生が座った、
三上部長が前に立って言う。
「今回の合宿では部誌を完成させることが目的だ。ここでいったん完成させて後は細かい調整だけになるように。夕方に
俺は自分の書評を仕上げていく。だいたい出来たところで三上部長に確認してもらった。
「なかなかいいな。だけど、少し文章量が少ないんじゃないか?」
「はい、残りのスペースでちょっとやりたいことがあって」
「ほう、そうなのか」
「はい、それはギリギリで出します」
「何か秘密の企画か。楽しみだな」
実は少し考えていることがあった。映画のルックバックを見て、俺も何か創作をしたくなったのだ。なので、詩を書こうと思った。後藤先輩に感化されたわけでは決して無い。あくまでルックバックを見て、だ。
小説組の立夏さんと上野さんは今まで雪乃先輩に確認してもらっていた。だが、今日の雪乃先輩は冬美さんの書評の確認もしている。そのため、大忙しだ。
「雪乃先輩、そちらが終わったら私もお願いします」
立夏さんが言った。
「うん、いいよ。でも、少し時間かかるかも」
「はい……」
立夏さん困ってるな……と思ったら、そこに後藤先輩が来た。
「どれどれ、俺も一応先輩だ。読んでみようか」
「後藤先輩に見てもらっても……」
「高井の気持ちは俺が一番分かると思うけどな」
「……分かりました。お願いします。ただ……ちょっとこっちでいいですか?」
そう言って、後ろの方に離れていった。まあ、俺が横に居るのが困るんだろうな。
後ろの方で立夏さんと後藤先輩はいろいろ話しているようだった。
そういえば、陽春のイラストはどうなったんだろう。陽春の方を見てみるとかなり完成しているような……
「陽春、ほとんど完成か?」
「うん、もう少しかな。完成したらみんなのサポートにまわるね」
あとは1年生か。そう思い、後ろを見ると不知火のすぐ横に上野さんが居る。不知火が書いてみた『氷菓』の書評を読んでいるようだ。不知火は少し緊張した表情だ。しばらくすると読み終えた上野さんは言った。
「一言で言えば……全然ダメね」
「えっ! ダメ!?……」
「なんか読書感想文ってっ感じ」
「そうかあ……」
「ここを削除して、ここも。それにここもいらない。使えるのはこれぐらいかな」
「ほとんど無い……」
「でも残ったところは面白いよ。頑張って」
そう言って上野さんは自分の席に戻った。
「よし! 頑張るか!」
不知火は上野さんに頑張ってと言われただけで嬉しいようだな。
「和人、見て。とりあえず完成」
陽春が俺に言うので、陽春の方のタブレットを見る。もう『デデデデ』のイラストは早くに完成して、あとは表紙をずっとやっていた。それを見てみると誰も居ない部室がデッサン調に書かれている。
「うん、いいんじゃないか? いいですよね、部長」
俺はタブレットを三上部長に見せた。
「さすがだな。浜辺に任せた俺の判断は間違ってなかった」
「何言ってるの、私が言ったんでしょ」
すかさず雪乃先輩が言ってくる。
「いや、俺が今年は美術部が忙しいからって言ったんだろ」
「だから陽春ちゃんにお願いしようって私が言ったんでしょ」
「俺もそう思って言ってるから」
「大地はいっつも後からそう言うんだから」
「今は部活中だぞ」
「あ、大地じゃ無くて部長だった、ごめん」
聞き慣れた部長達の言い合いだな、と思ったが
「お前ら、いつもそんな感じなのか?」
後ろから後藤先輩の声が聞こえてきた。そうか、後藤先輩は初めて見たようだ。
「そうですよ、先輩が居なくなってからこんな感じです」
陽春が言う。
「これずっと聞くのは俺にはきつかったかもな。幽霊部員になっといて良かった」
「ウチ、一人でずっとこれ聞いてたんですからね」
「浜辺、お前偉いな。後でアイスおごってやる」
「やった!」
なぜか後藤先輩にアイスをもらうことになった陽春は大喜びだった。
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