第180話 合宿の夕食

 6時が迫ると三上部長が再び前に立った。


「よし、ここでいったん中断して夕食の準備をするぞ。その前に進捗を確認する。まず、俺と雪乃はほとんど終わってる」


 さすが、先輩たちだな。合宿前にはほぼ仕上げていたのだろう。


「じゃあ、後藤」


「俺もまあ完成だな」


「それはよかった。内容はチェックさせてもらうぞ」


「……もう少し書き直す」


「はぁ・・…じゃあ、小説組は?」


「私はもう少しです」と立夏さん。


「私はほとんど完成しています」と上野さん。


「よし、書評組は?」


 俺は「ほぼ完成ですね」と言った。「私もです」と冬美さんが言う。


 だが、不知火は「……まだ半分ぐらいですかね」と言った。


「そうか、だったら不知火はサポートが必要だな。じゃあ、あとはイラストだが、浜辺は完成していたな」


「はい!」


「よし、全体的には順調だな。じゃあ、夕食の準備をしよう」


 俺たちは何人かに分かれ、準備を開始した。俺は陽春と上野さんと後藤先輩と一緒に買い出しに行く。近くのスーパーまで行き、食材を買うのだ。


 今日はカレーだから肉や野菜などを買う。それに飲み物なども買っていると陽春はアイスのコーナーを見ていた。


「後藤先輩! アイス買ってくれるんですよね?」


 そういえば、アイスを陽春におごるって言ってたな。


「おう、買ってやるぞ」


「やった!」


 すると上野さんが後藤先輩のところに来た。


「先輩、私も欲しいです」


 あ、得意の上目遣いだ。でも、後藤先輩は雪乃先輩一筋だし効くかな……


「……好きな物選べ」


「ありがとうございます!」


 あっさり、落ちていた。さすが、上野さんだ。


「ちょっと、後藤先輩! ウチのアイスは部長たちの惚気のろけに耐えた報酬なのに、雫ちゃんはなんでアイスもらってるんですか!」


 陽春が怒って言う。


「うーん、可愛いから?」


「ありがとうございます」


 上野さんがすかさず礼を言う。


「ウチだって可愛いですけど!」


「そうだな、可愛い可愛い」


「もう! いいもん、和人になでなでしてもらおう」


 陽春が俺のところに来た。仕方ない、俺は頭をなでてやる。


「えへへ……」


 陽春は自慢げに後藤先輩と上野さんを見た。


「それにしても、浜辺。お前に彼氏が出来てそんなにイチャイチャしてるなんてなあ……それが一番驚きだよ」


「ウチに彼氏なんて出来ないって思ってました?」


「そりゃあな。うるさいし、がさつだし、子どもっぽいし……」


「ひどーい! 私だって、モテるんですからね!」


「それは知ってたけど、本人は『恋愛なんてしないです』って感じだったからなあ」


 そうだったのか……


「それは……いい人が居なかったから……」


「よかったなあ、いい人が見つかって」


「はい!」


 陽春が嬉しそうに返事をした。


◇◇◇


 俺たちがセミナーハウスに戻り、食材を冷蔵庫に入れる。陽春はアイスを冷凍庫に入れた。それを見て雪乃先輩が言う。


「あれ? アイス買ってきたの?」


「はい、後藤先輩がおごってくれました!」


「へぇー、全員分?」


「いえ、ウチと雫ちゃんの分です」


「じゃあ、私たちの分は自腹?」


「いえ……無いです」


「え? 無いの?」


 雪乃先輩は後藤先輩の方を見た。


「あ、まあ……後でそれぞれ買いに行くかなあと思って……好みもあるだろうし」


「後藤君は私のだけは買ってきてくれるって思ってたのに……」


「……お前、それ言うのはずるくないか」


「ごめん、冗談、冗談。私のだけ買ってきてもらってもそれはそれで困るし」


「……買ってくれば良かったな」


「私を困らせたいんでしょ」


「少しな」


「いいわよ、私たちは後で買いに行くから」


「すまん」


 雪乃先輩はその場を離れた。


「……なんか、すみません」


 陽春が後藤先輩に言う。


「ん? 別に謝らなくていいぞ。むしろ……浜辺には感謝だな」


「え? なんでですか?」


「長崎と久しぶりにあんな風に話せたよ。なんか、嬉しかった」


 後藤先輩が言う長崎とは雪乃先輩だ。


「そ、そうですか」


「ああ、なんか嬉しかったよ、ありがとな」


 『なんか嬉しかった』と2回言ってたし、相当嬉しかったんだろうな。照れたように後藤先輩もその場を去った。


◇◇◇


 料理には役に立たない俺と三上部長はご飯の準備をしてあとは皿や飲み物の用意をしている。料理の方は、立夏さんと冬美さんはサラダ作り、あとは雪乃先輩が中心になってカレーを作っている。と思っていたのだが、


「雫ちゃん、これどうするんだっけ?」


「あ、これは……」


「雫ちゃん、これでいい?」


「だめです、ちゃんと切れてないですよ」


「あ、ごめん」


 上野さんが雪乃先輩にも指示を出している。すごいな。


「とりあえず再来年までは合宿の料理は安泰だな」


 三上部長が言った。


「そういえば後藤先輩と不知火はどこですか?」


 いつの間にか居ないような……


「アイスを買いに行ったぞ」


 あ、結局買いに行ったんだ……


「雪乃から聞いてな。とりあえず全員分買ってこいって俺が買いに行かせたんだ」


 あの後、雪乃先輩は部長に泣きついてたのか。それにしても無関係の不知火も一緒に行かされたとは。この暑さだし、ついてないな。


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