第178話 チケット
火曜日。今日は部活の日だ。俺と陽春は昼過ぎに学校に着くと、ちょうどそこには立夏さんと冬美さんも居た。
「和人君!」
立夏さんが俺を見て言う。
「あ、立夏さん、こんにちは」
「会えなくて寂しかったよ」
「そ、そうなんだ」
「うん……」
そう言って俺に近づいてくる立夏さんを冬美さんがつかんだ。
「立夏、行くよ」
「う、うん……」
俺たちも後を追って部室に行く。
「長崎冬美、高井立夏、浜辺陽春、櫻井和人、入ります!」
冬美さんが全員の名前を言ったので俺たちは部室に入る。すると、そこに部長達はおらず後藤先輩だけが居た。
「あれ? 部長たちは?」
「何か忙しいみたいでちょっと後で来るそうだ」
「そうですか」
俺たちはいつもの場所に座り、作業を始めようとした。
「高井はまだあの未練ったらしい小説書いてるのか?」
後藤先輩の言葉に立夏さんはにらみ返して言った。
「後藤先輩にだけは言われたくないですね。雪乃先輩に未練たらたらじゃないですか」
「なに! 俺は……ちゃんとあきらめてるからな」
「私だってそうです。でも、ずっと思ってるんでしょ?」
「そんなことは……」
そこに三上部長と雪乃先輩が帰ってきた。
「あら、冬美たち来てたのね」
「お姉ちゃん、いいところに帰ってきたわ」
「え? 何かあったの?」
「あ、別に何にも無いけど……」
雪乃先輩は「何よ、それ」と言って自分の席に座る。後藤先輩は気まずそうだ。雪乃先輩がそれに気づき言う。
「……なんか後藤君が言っちゃった?」
「ええ、私、いじめられました」
立夏さんが言った。
「え? 後藤君、ダメじゃない。後輩には優しくしないと」
「そ、そうだな……って、俺も高井にいじめられてたんだけど」
「私は事実を指摘しただけですし」
「お前なあ……」
「後藤先輩に『お前』と言われるほど仲良くありませんが」
「はぁ……」
後藤先輩はため息をついた。
「……事実って?」
雪乃先輩が立夏さんに聞く。
「あ、たいしたことじゃありませんので」
立夏さんはごまかした。そこに上野さんの声が響いた。
「上野雫、不知火洋介、入ります」
上野さんと不知火が部室に入ってきた。
「あら、また二人一緒に来たの?」
「たまたまです」
冬美さんの言葉に上野さんが答えた。
「この間も一緒だったよね」
「たまたまです」
そう言って、上野さんは作業を始めだした。たまたまか。少し気になるな。俺は陽春に小声で聞いてみる。
(ほんとにたまたまなのか?)
(そんなわけないでしょ)
陽春が小声で言った。なるほど。約束してきてるけど内緒にしたいようだ。俺にもバレてしまったけど。
「あ、そうだ。実はこんな物が手に入ってな」
後藤先輩が急に何か鞄から取りだした。ん? チケットだな。
「うちの親父が勤めてる会社がスポンサーだからロアッソ熊本の観戦チケットが8枚手に入ったんだ。俺除いて部員8人だろ。みんなで行ってこいよ」
ロアッソ熊本は地元のプロサッカーチームだ。それにしても「俺除いて」か、後藤先輩は行く気は無いようだ。雪乃さんたちと一緒に出かけるのはつらいのかな。
「行く! いつの試合ですか?」
一番に陽春が食いついた。
「今度の日曜だ」
「じゃあ問題ないね、和人」
陽春は2枚チケットをもらった。俺は当然行くことになっているようだ。
「雫ちゃんたちも行くでしょ?」
「たちってなんですか。私は不知火とは――」
「誰も不知火君とは言ってないけど」
「……やりますね。陽春先輩」
「そんなのはいいから。行く?」
「……不知火はどうなの?」
「俺は行きたいかな。スポーツ見るのは好きだし」
「そっか。じゃあ、私も行きます。人混みは苦手だけど」
「やった!」
これであと4枚か。
「残念ながら今度の日曜は無理ね」
冬美さんが言った。
「お盆の集まりだし。部長もうちに来る予定だから」
つまり、冬美さん、雪乃先輩、三上部長は来れないか。となると……
「私は行けるわ」
立夏さんが言った。残り3枚か。
「あ、理子たちも誘おうよ」
「あー、昼休みに来てた子か」
後藤先輩が言う。
「そうです。あと後藤先輩で全部決まり!」
「え、俺もか?」
「もちろん! 3年生一人だけど、いいですよね?」
陽春が言う。
「……まあ、しゃあない。引率引き受けるか」
「やった!」
というわけで合宿の後の日曜に俺と陽春、上野さんと不知火、立夏さん、それに達樹と笹川さんでロアッソ熊本の試合に行くことになった。
だが、その前に合宿だな。
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