第171話 久しぶり

 月曜日に久しぶりのバイトを終え、今日、火曜日は久しぶりの部活だ。木曜日以来だが、三上部長たちとも日曜に会ってるし、それほど久しぶりの感じはない。


 昼過ぎ、陽春と同じ電車に乗るように調整し、2人で学校に到着した。


「浜辺陽春、櫻井和人、入ります!」


 陽春が久しぶりに二人の名前を言って部室に入ると、そこには三上部長、雪乃先輩、そして、もう1人部員が居た。


「後藤先輩、お久しぶりです」


「おう、浜辺。そして、櫻井。今日は俺も参加するぞ」


「ついに参加ですか。久しぶりですね」


「まあな。さすがに俺もそろそろ腰を上げないとな」


 後藤先輩は三年生だし、部長たちと同じく、課外授業が終わって昼飯を食べての参加だから早々に部室に来たのだろう。


 そこに、残り4人の部員が揃ってやってきた。冬美さんの声がする。


「長崎冬美、高井立夏、上野雫、不知火洋介、入ります」


 4人揃って入ってきた。


「あ、立夏ちゃん!」


 陽春が立夏さんを見てすぐに言った。


「立夏ちゃん?」


 上野さんが陽春に言う。


「うん、ウチ、立夏ちゃんって呼ぶようになったから」


「……なんか仲良くなったみたいですね」


「仲良くはなってないと思うけど……」


 立夏さんが言う。


「えー! 仲良くなったよ、立夏ちゃん!」


「はいはい」


 立夏さんは適当に返事をしながらいつもの席に座った。


 すると後藤先輩が冬美さんを見て言った。


「えっと、君は妹さんだったよな。あとの部員は……全然分からん。とりあえず自己紹介を頼む」


「2年の高井立夏です」


「1年の上野雫です」


「同じく1年の不知火洋介です」


「ふむふむ……」


 後藤先輩は名前を聞きながらメモを取っていた。


「えーっと、高井は櫻井と付き合ってるんだったっけ?」


「違います! 和人の彼女はウチですから!」


 陽春が大声を出す。


「あー、そうだったな。あれ、このメモ間違ってるな。高井が櫻井にお熱と書いちゃってたよ」


 この間、雪乃先輩がそう言ってたからな。


「ま、間違ってません……」


 立夏さんが言う。


「ん? 間違ってない……でも、付き合ってるのは……」


「ウチです!」


「浜辺、と。ふむ、櫻井、お前……」


「お、俺は何もしてないですから」


「何もしてない、と。ふむ、ここは面白そうだな」


「面白くないから!」


 陽春が言う。


「そうか? まあ、いいや。それと1年生は全然知らねーな。上野と不知火……2人は付き合ってたりとかは――」


「ありません。ただの友達です」


 上野さんがぴしゃりと言う。


「そうか、すまん。ただの友達か……不知火、それでいいんだよな?」


「は、はい……」


 そう言いながら不知火は上野さんをチラッと見た。


「ふむ……ここも案外面白そうだな」


「後藤先輩、さすがですね。ここが一番面白いですよ」


 陽春がにやりとして言う。それに上野さんが反論した。


「私たちは全然面白くないですから。後藤先輩、是非、立夏先輩の小説を読んであげてください」


「ほう、小説書いてるのか」


「あ、はい……これです」


 立夏さんは自分のタブレットを後藤先輩に見せた。後藤先輩が読み始めたところで、全員が自分の作業に移った


 しばらくすると、後藤先輩は立夏さんの小説を読み終わったようだ。


「読んだぞ」


「ありがとうございます。どうでしたか?」


「うーん、なんか普通の恋愛話だなあ」


「そ、そうですか……」


「どこにでもありそうな……最後、ぽっと出の元気な女子に彼氏取られてたけど、その展開必要か?」


「ぽっと出って何ですか!」


 陽春が噛みつく。


「ん? なんで浜辺が文句言うんだ?」


「あ、いえ……」


「もしかして、あー……そういうこと? 雪乃の時と同じかよ」


 後藤先輩は気がついたようだ。何しろ、去年は雪乃先輩が自分たちのことを書いていた。それに大きなショックを受けたのが後藤先輩だった。


「同じじゃないですよ。ウチらはだいたい知ってる話ですし、誰もショックは受けません」


 陽春が言う。


「……そうかもしれないけど、俺のトラウマえぐってくるなあ」


「す、すみません……」


 立夏さんが恐縮している。


「いいよ、いいよ。もう、こりゃ伝統だな。来年は上野か不知火が引き継いでくれるだろう」


「私は恋愛はしませんのでそういうのは書きませんよ」


 上野さんが言う。


「じゃあ、不知火が書くんだな」


「え!? 俺が上野さんとのことをですか?」


「お前、上野さんって言っちゃってるから。バレバレだぞ」


「あ! ち、違います!」


 不知火が真っ赤になって必死に否定した。ん? 良く見ると、上野さんも少し顔が赤いような……珍しい。


「いやあ、やっぱりお前達は面白いな。部に戻ってきた価値はありそうだ。俺も頑張って詩を書くよ」


 後藤先輩、楽しそうだな。そこに三上部長が言った。


「ところで、後藤。お前、今年は何をテーマに詩を書くんだ?」


「あー、そうだな……まあ、今年も去年と同じだな」


「……お前なあ」


「それぐらいは許してくれよ。他に書きたいこともないしな」


「はぁ……」


 雪乃先輩がため息をついた。


 俺は話がよく分からず、陽春を見た。陽春が小声で俺に教えてくれる。


(後藤先輩、去年は雪乃先輩に捧げる詩を書いてたから)


(なるほど……)


 今年も同じテーマで書くのかよ。諦めが悪い人だ。

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