第170話 対決

 立夏さんは地雷系の服を買ってそのまま着ていた。


「あれ? 立夏ちゃん、その服……」


 雪乃先輩が立夏さんを見て言う。


「変ですかね」


「変じゃないけど、なんか冬美が良く着るやつみたいね」


「冬美が選んだんで」


「なるほど……でも、立夏ちゃんが着ると地雷系っぽさが増すわね」


「そうですか?」


「あ、でもかわいいよ」


 雪乃さんはフォローするように言った。


「和人君がこういうの好きだって言うんで」


 ちょっと待て。確かにいいとは言ったけど。


「ふうん、和人君、こういうの好きなんだ。まあ、男子は好きそうよね。ね、大地」


「え? ああ、まあそういうのは好きな男子は多いな」


「大地はどうなの?」


「まあ、嫌いじゃないけど」


「やっぱりね」


 雪乃さんはちょっと拗ねたようにして歩いて行く。


「……実は大地さんが好きなのよ、こういう服」


 冬美さんが俺と陽春にこっそりつぶやく。


「そうなんだ」


「うん。でもお姉ちゃんは絶対着ないから、私が代わりに着てあげてるの」


「なるほど……って代わりに着る必要ある?」


「しょうがないでしょ。私がお姉ちゃんの代わりしないと」


 冬美さんにとっては「お姉ちゃんの代わり」は強力な免罪符のようだ。


「これからどうするんですか?」


 陽春が先輩達に聞く。


「そうね。ゲームセンターでも行く?」


「あ、行きたい! クレーンゲームしたい!」


「陽春は得意だからなあ」


「実は私も得意よ」


 立夏さんが言う。意外な特技だな。と思ったが、よく考えたらあのバスセンターで俺と達樹で声を掛けたとき、2人はクレーンゲームの前に居たんだった。結構やっているのかもしれない。


「えー、立夏さん、取れるの?」


「失礼ね。得意だから。じゃあ、勝負しましょうか?」


「お! いいねえ。なに賭ける?」


 賭けるの前提なんだ。まず、立夏さんが言う。


「私が勝ったら和人君を1日借りるから」


 おいおい、俺かよ。言うとは思ったけど。相変わらず俺の意思はどうでもいいようだ。


「いいよ、負けないし。じゃあ、私が勝ったら……『立夏ちゃん』って呼ぶ!」


「それは……」


「いいでしょ、負けないなら」


「わ、分かったわよ」


 陽春、そんなに『立夏ちゃん』と呼びたかったのか……


 俺たちはゲームセンターのある3階に上がった。しかし、クレーンゲームの勝負ってどうやるんだ?


「勝負の方法は立夏さんが決めていいよ」


 陽春は自信満々だ。


「じゃあ、そうね……予算は1000円。どの台でもいいのでたくさんぬいぐるみを取った方が勝ち」


「ぬいぐるみね」


「うん。その他、細かい判定は審判に任せましょう。審判は大地さんと雪乃さんね。だけど、不正がないようにそれぞれに監視人をつけましょう」


「いいよ、じゃあ、ウチの監視人は和人ね」


「だめだめ! 恋人が監視人なんて不正許しちゃうでしょ」


「そうかもしれないけど……じゃあ誰がするの?」


「陽春ちゃんの監視人は冬美、私の監視人は和人君」


「えー! 立夏さんが和人と遊びたいだけでしょ!」


「違うから。私も勝負がかかってるから真面目にやるし」


「そ、そっか……まあ勝負の時間だけだし。ちょっと貸すよ」


「うん、ありがと。じゃあ、開始ね」


 というわけで、俺は立夏さん、冬美さんは陽春にそれぞれ付いて、勝負が始まった。


「うーん、これがいいいか……」


 かなり台を吟味した後、立夏さんはようやくプレイする台を決めた。100円1プレイ、500円で6プレイだ。立夏さんは迷わず500円を投入した。


「よし!」


 気合いを入れて立夏さんが一回目を始めた。いきなり、ぬいぐるみをゲットする。これは上手いな……


「やった!」


 立夏さんはハイタッチを俺に求めてくる。やるしかないか。俺はハイタッチした。


「えへへ」


 立夏さん、嬉しそうだ。


 その後も、立夏さんは6回中、2回成功。ぬいぐるみを早くも2個ゲットしていた。これはまずいな。陽春、勝てるのだろうか。


◇◇◇


 結局、立夏さんは12回のうち、4回成功した。ぬいぐるみ4個だ。これに対し、陽春は何個取ったのだろうか。陽春が1000円を使い切り戻ってきた。


「ウチは6個!」


「え!?」


「じゃあ、陽春ちゃんの勝ちね」


 雪乃さんが陽春の勝利を告げた。


「ちょ、ちょっと! なんでそんなに取れるのよ。12回で6個なんて……」


「12回じゃないよ、10回」


「え?」


「取りやすい台を吟味して取っていったからねえ」


 なるほど。同じ台で500円6回のプレイをした立夏さんに対し、陽春は台を変えながら100円で1回ずつプレイし、取りやすい台で取れるものを取っていったのか。


「く、くやしい……」


「でも、私の勝ちだね、立夏ちゃん!」


「わ、わかったわよ。はぁ。やっぱり陽春ちゃんには勝てないのね……」


「立夏ちゃん! 立夏ちゃん!」


「な、なによ」


「呼んだだけだよ」


「不必要に名前を連呼しない!」


 陽春は立夏さんを立夏ちゃんと呼べるのがとても嬉しいようだ。


「うふふ、みんながびっくりするのが楽しみだなあ」


 まあ、夏休み中にびっくりするのは上野さんと不知火だけだろうけどな。


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